台湾経済部は今週、今年版の「全国電力資源需給報告」を公表する見通しだ。昨年の報告では、AI(人工知能)の普及が産業界に大きな影響を与え、電力需要の伸びが従来の想定を上回ったことが示された。
そのため、今年の報告では、これまで生じてきた供給ギャップを埋められるのか、新たな電源をどこまで積み増せるのかが最大の焦点となっている。
経済部が最近発表した複数の統計によると、台湾の産業界では受注の二極化が進んでいる。AI関連の電子産業や半導体産業は好調を維持し、新たな工場用地を探して積極的に拡張を進めている。さらに、米半導体大手エヌビディアが台北市の北投士林テクノロジーパーク(北士科)に新たな台湾本社を設ける計画もあり、台湾におけるAI産業の勢いを示している。
AI需要が電力需給を圧迫 従来型産業とは対照的な構図に 一方、従来型産業では異なる動きが見られる。昨年は、電力消費の伸びと経済成長率が初めて連動しない状況となった。
経済部は当時、台湾の産業構造が転換期にあり、成長のけん引役が移りつつあるため、電力消費の増加ペースと経済成長が一致しなかったと説明していた。
昨年の報告で経済部は、AI技術の発展、半導体産業の工場拡張、米国の対等関税、省エネ施策の強化などを考慮し、今後の電力需要の年平均成長率を約1.7%と予測した。その上で、再生可能エネルギーやガス火力発電の整備を進め、供給の安定を確保する方針を示していた。
経済部によれば、AIや新興技術の需要は引き続き強いものの、一部産業では米国の対等関税の影響で生産活動が鈍化した。こうした増減が相殺された結果、上半期(1〜6月)の経済成長率は6.75%のプラスとなった一方、電力消費量は前年同期比で1.1%減少したという。
経済部は将来の電力需要を見積もる際、半導体産業の工場拡張スケジュールの調整や、AI関連の大型投資などを織り込んでいる。さらに、深度省エネの推進による節電効果も反映した結果、2025年から2034年までの電力需要の年平均成長率は約1.7%になると試算している。これは、日本や韓国など産業面で競合する国々の電力消費トレンドと同程度だという。
新規電源の整備に遅れ 拡大する供給ギャップ 懸念されるのは、台湾国内の電力需要が今後も増え続けることだ。とりわけ半導体産業の電力需要は極めて強い。多くの工場は24時間体制で稼働しており、電力消費は高水準で推移している。
そのため、今後の需要増に対応するには、これまで以上に余裕を持った供給能力の確保が必要となる。
台湾・経済部は、台湾電力の大林発電所などで進むガス火力新設計画の進捗を現実的に評価している。(写真/顔麟宇撮影) 昨年の報告で経済部は、台湾電力(台電)の台中、通霄、大林などの発電所で進むガス火力新設計画の進捗を現実的に評価したとしている。加えて、国光電力や麦寮汽電など民間のガス火力発電計画も組み込み、2025年から2034年にかけて、ガス火力の設備容量は純増で12.2GW増えると見込んだ。これにより、長期的な電力需要の増加に対応しつつ、夜間の安定供給を維持できるとしていた。
再生可能エネルギーについては、頼清徳総統が掲げる「第2次エネルギー転換」政策に基づき、太陽光、洋上風力、地熱、小水力などの導入を進める方針だ。再生可能エネルギーの比率については、2026年11月時点で20%、2030年に30%とする目標を掲げている。
同時に、現在の電力システムの実情も考慮する必要がある。昼間は太陽光発電による供給力が比較的十分にある一方、供給上の課題は夜間ピーク時へと移りつつある。そのため、夜間の主力電源は高効率のガス火力となり、蓄電システムや水力発電と組み合わせて需給を調整することになる。
TSMCが「2倍速」で工場建設 大型AIデータセンターはまだ本格進出せず 統計によると、台湾では近年、複数の大型半導体工場が建設中、または完成して稼働を始めている。
専門家は、旺盛なAI半導体需要に対応するため、台湾積体電路製造(TSMC)が台湾各地の科学園区で「2倍速」ともいえるペースで工場建設を進めていると指摘する。2026年末までに、台湾全土で最大10拠点のウェハー工場や先進パッケージング工場が建設中、または稼働準備に入る見通しだ。
その中には、2ナノメートル(nm)プロセスを担う新竹・宝山の拠点も含まれる。同拠点はすでに安定生産の段階に入っており、TSMCの最先端量産拠点とされる。
高雄・楠梓、台中・中部科学園区、台南・南部科学園区、嘉義などで進む先進パッケージング(CoWoS)工場も、いずれも大量の電力を必要とする施設だ。
南部科学園区などの科学園区では、半導体工場の拡張に伴い、今後さらに電力需要が高まるとみられる。(写真/台湾房屋提供) 専門家はまた、すでに複数のインターネット企業が台湾にデータセンターを設けており、これらの施設がもたらす電力需要も軽視できないと指摘する。
さらに電力需要を大きく押し上げるとみられるのが、大型AIデータセンターだ。現時点で、台湾に本格的な大型AIデータセンターを新設する具体的な動きはまだ大きく報じられていない。ただ、世界的にAIが急成長する中、半導体製造の中核拠点である台湾で、将来的に設置計画が浮上する可能性は高い。
一方で、台湾の電力供給をめぐる不安は、国際的な大手テクノロジー企業にとって大きな懸念材料でもある。電力供給の安定をどう確保するかは、政府が解決を迫られる重要課題となっている。
再エネ整備に遅れ 太陽光・洋上風力の導入量は想定下回る 電力需要が急速に伸びる中、今回の報告で政府に説明が求められるのは、新規電源をどのように確保するかである。特に、再生可能エネルギーの導入遅れや、発電所計画の遅延・中止によって生じる供給ギャップが焦点となる。
エネルギー署の統計によると、今年の太陽光発電の追加量は約500MWにとどまり、年間2GWの追加目標とは大きな開きがある。(写真/顔麟宇撮影) 洋上風力でも同様の問題が起きている。開発事業者が落札したにもかかわらず、最終的に建設を完了できないケースが出ている。
当初、今年中に送電網へ接続される予定だった台湾電力の洋上風力第2期プロジェクトも、請負業者の財務問題により、風力タービンの設置が進んでいない。結果として、全体の発電量の増加にはつながっていない。
さらに今後の区画開発でも、複数の風力発電事業がすでに経済部との行政契約を解除している。2026年から2030年にかけての洋上風力の系統連系量は、過去の想定を下回る可能性が高い。台湾国内の電力供給とグリーン電力の不足は、いずれも対応が必要な課題となっている。
原発再稼働は審査中 需給報告への明記は見送られる公算 台湾電力の第2原子力発電所(核二)と第3原子力発電所(核三)については、再稼働の可能性が浮上している。
このうち核三は、すでに再稼働計画が提出され、現在、原子力安全委員会(核安会)が審査を進めている。ただ、いつ発電を再開できるのか、再稼働が何年間認められるのかは、同委員会の承認を待つ必要がある。
第3原子力発電所(核三)はすでに再稼働計画を提出しており、現在、原子力安全委員会(核安会)が審査を進めている。(写真/台湾電力提供) 一方、核二については、使用済み燃料を保管する乾式貯蔵施設の建設が始まったばかりだ。多くの自主安全点検項目を進められない状況にあり、再稼働に向けた計画が短期間で進む見通しは立っていない。
このため、原子力発電が供給力として戻るにはなお時間がかかる。今回の電力需給報告に、原子力発電が新たな供給力として明記される可能性は低いとみられる。
産業競争力と外資誘致を左右 電力需給報告に高まる関心 今年公表される全国電力資源需給報告をめぐり、外部の関心は単なる供給力の数字にとどまっていない。台湾の将来の産業競争力や、国際投資環境の優位性を維持できるのかという点にも注目が集まっている。
AIブームを背景に、半導体、先進パッケージング、データセンターといった電力を大量に消費する産業が急速に拡大している。電力需要の伸びは、過去の政府予測を上回りつつある。
さらに、大型AIデータセンターの台湾進出はまだ本格化しておらず、今後の電力需要にはなお上振れ余地がある。
需要側が拡大し続ける一方で、供給側は多くの課題を抱えている。ガス火力の建設の遅れ、再生可能エネルギー開発の難航、洋上風力や太陽光発電の導入量が当初計画を下回っていることに加え、短期的には原発再稼働による供給力の回復も見込みにくい。
その結果、当初想定された新規電源の増加ペースが、需要の伸びに追いつかない可能性が出ている。供給予備率を十分に確保できるのか、今後10年間の電力不足をどう補うのかは、産業界と投資市場にとって最大の関心事となっている。
経済部が将来の電力供給を推計する際、実現可能な新規電源をどれだけ余裕を持って見込めるのかが、今年の報告を見る上での重要なポイントとなる。とりわけ、今後5年間に追加される電源が台湾国内の電力需要増に追いつくのかが問われる。
対応が遅れれば、供給予備率は徐々に低下し、台湾は再び電力不足のリスクに直面することになる。