唐奨教育基金会は15日、2026年の唐奨「持続可能な発展賞」の受賞者に、米国の大気化学者スーザン・ソロモン氏を選出したと発表した。約40年にわたり大気・気候科学の分野で画期的な研究を続け、気候変動への対応における国際協力にも大きく貢献したことが評価された。
ソロモン氏は受賞の知らせを受け、事前収録された映像メッセージで喜びを語った。「私たちには気候変動の問題を解決する方法がある。オゾン層の研究はその一例だ。若い世代にこのことをもっと知ってほしい。地球の未来を担うのは若い世代だ」と述べた。
ソロモン氏は1981年、米カリフォルニア大学バークレー校で化学博士号を取得した。以後40年以上にわたり気候変動研究に携わり、現在はマサチューセッツ工科大学(MIT)地球・大気・惑星科学科の教授を務めている。
ソロモン氏は「将来、台湾を訪問し、台湾についてさらに知る機会があればうれしい。若い世代には、過去に何が起きたのかを理解してほしい。私たちには問題を解決する力がある」とも語った。
CFCsが南極オゾンホール拡大の主因と証明
ソロモン氏の主な功績には、クロロフルオロカーボン(CFCs)が南極のオゾンホール拡大の主因であることを証明し、その形成メカニズムを解明したことがある。さらに、二酸化炭素(CO2)排出が地表温度、降水量、海面水位に与える影響は1000年以上続くことを示した。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では第1作業部会の共同議長を務め、第4次評価報告書の第1作業部会報告書『自然科学的根拠』の取りまとめを担った。同報告書は、気候科学の主要な知見を包括的に整理したものとして、国際的な気候政策にも大きな影響を与えた。
ソロモン氏の研究者としての歩みは、米海洋大気庁(NOAA)で始まった。同氏はNOAAに計30年勤務した。台湾中央研究院の劉紹臣院士はかつてNOAAに在籍し、ソロモン氏と15年にわたり同僚として働いた経験を持つ。
劉氏によると、特に印象に残っているのは、ソロモン氏が25歳で博士号を取得し、優れたコミュニケーション能力と高い仕事への意識を持っていたことだという。研究計画を効率よく進める能力にも優れていたと振り返った。
30歳で南極調査隊の首席科学者に
1986年、当時30歳だったソロモン氏は、米国の南極オゾン調査隊で首席プロジェクト科学者を務めた。研究チームを率いて南極に赴き、南極大気中の活性塩素化合物を初めて直接観測。CFCsが南極オゾンホール拡大の主要因であることを突き止めた。
この研究成果は、オゾン層破壊物質の段階的削減を定めた「モントリオール議定書」策定の重要な科学的根拠の一つとなった。同議定書は、国際社会が協力して環境問題に取り組んだ成功例として広く知られている。
2016年には、ソロモン氏がMITで率いる研究チームが、南極上空のオゾン層に回復の兆しが見られることを明らかにした。国際協力とCFCsの段階的削減が実際に成果を上げていることを示すもので、持続可能性をめぐる科学において重要な節目となった。
CO2の影響は1000年以上続く可能性
ソロモン氏は2009年、CO2排出が地表温度、降水量、海面水位に与える影響は、たとえ排出を停止しても1000年以上にわたって不可逆的に続く可能性があるとする研究成果を発表した。
劉氏はこれについて、「CO2の大気中での半減期は100年に及ぶ。人類が排出したCO2は地球温暖化を引き起こし、海洋にも吸収される。海洋の温度上昇などの影響は少なくとも数百年続く」と説明する。ソロモン氏の研究は、CO2排出の影響が極めて長期に及ぶことを示しており、早期の排出削減がいかに重要かを明らかにした。
ソロモン氏の研究は、南半球のオゾン層の厚さの変化が、高層大気から地表付近に至る大気の流れや温度構造に影響を及ぼすことも示している。40年以上にわたり、人間活動に由来する微量気体が地球の気候システムに与える影響を研究し、化学反応と気候の相互作用に関する理解を大きく前進させた。
また、ソロモン氏は非均相化学反応のメカニズムを提唱した。南極の成層圏では、冬から春にかけて極低温の環境下で極成層圏雲(polar stratospheric clouds、PSCs)が形成される。その氷晶表面が化学反応の場となり、塩素分子(Cl₂)の生成速度が気相反応の場合よりも大幅に高まるという仕組みだ。
このメカニズムは、成層圏化学モデルに不可欠な理論として位置づけられており、現代の環境科学における重要な成果の一つとされている。
IPCC報告書の取りまとめにも貢献
ソロモン氏は2002年から2008年にかけて、IPCC第1作業部会の共同議長を務めた。この間、第4次評価報告書の第1作業部会報告書『自然科学的根拠』の編纂を主導し、世界の気候科学研究を包括的に整理した。
IPCCは2007年、気候変動に関する知見を広く社会に伝え、対応策の必要性を示した功績などにより、ノーベル平和賞を受賞した。同報告書はその後の国際的な気候交渉の基盤となり、2015年の「パリ協定」にも重要な科学的根拠を提供した。
同報告書では、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」「20世紀半ば以降の世界平均気温の上昇は、人為的な温室効果ガス濃度の増加による可能性が極めて高い」といった結論が示された。これらの知見は、気候変動への適応、緩和、脆弱性、レジリエンスをめぐる国際的な議論の基礎となっている。
1994年には、南極研究におけるソロモン氏のリーダーシップと貢献をたたえ、南極の「ソロモン氷河」(南緯78度23分、東経162度30分)と「ソロモン鞍部」(南緯78度23分、東経162度39分)が正式に同氏の名を冠して命名された。
ソロモン氏は研究活動だけでなく、科学と持続可能性に関する社会への発信にも長年取り組んできた。世界各地で数百回に及ぶ講演を行い、各国政府や国際機関に向けた説明も重ねてきた。米議会でも気候や大気に関する問題についてたびたび証言し、科学的知見を公共政策につなげる活動を続けている。
唐奨は台湾発の国際賞
唐奨は、台湾の潤泰グループ創業者である尹衍樑氏が2012年12月に創設した国際賞だ。グローバル化が進み、人類が文明や科学技術の恩恵を受ける一方で、気候変動、新興感染症、貧富の格差拡大、社会倫理の揺らぎといった課題に直面していることを背景に設けられた。
賞は「持続可能な発展」「バイオ医薬」「漢学」「法の支配」の4部門からなる。受賞者には賞金5000万台湾ドルが贈られ、そのうち1000万台湾ドルは関連する研究や教育普及活動を支援するために充てられる。