電子たばこ感覚で吸った「ゾンビたばこ」が薬物運転に 台湾で摘発を難しくする検査の壁とは 台湾では現在、路上検問の大半が飲酒運転の取り締まりに向けられている。(写真/柯承恵撮影)
「薬物使用者には、できる限り起訴猶予の機会を与え、依存症治療につなげる。しかし、薬物を使用して運転し、他人の命を危険にさらす行為は許されない」
台湾・台北地方検察署の林達検察官は、薬物運転の危険性についてそう強調する。
林氏によれば、薬物運転は以前から存在していた。米国、カナダ、オーストラリアの路上検問では、飲酒運転と薬物運転がほぼ半数ずつを占めるという。一方、台湾ではこれまで、取り締まりの大半が飲酒運転に向けられてきた。薬物運転への取り締まりや「薬物運転ゼロ容認」の周知は十分とはいえず、近年、薬物運転による死亡事故が相次いだことで、ようやく台湾社会の関心が高まりつつある。
林氏は「薬物運転は今になって突然現れたものではない」と指摘する。かつてはケタミンを混ぜたたばこ、いわゆる「Kたばこ」が中心だったが、現在はエトミデート(Etomidate)を含む電子たばこ用カートリッジ、いわゆる「ゾンビたばこ」が広がり、新たな問題になっているという。
自分が吸っているものを知らないまま運転へ 今回の薬物運転の広がりは、バーやナイトクラブに出入りする若者らの間で、電子たばこを互いに勧め合ったり、共有したりする中で起きている。
初めは多くの人が、電子たばこの中身を正確に把握していない。ただ「吸うと気分が良くなる」と感じるだけで、それがエトミデートや大麻、アンフェタミンなどを含む混合薬物であることに気づかないまま、吸引後に車やバイクを運転して帰宅する。こうして薬物運転が少しずつ広がっていった。
ただ、薬物運転の取り締まりは飲酒運転ほど単純ではない。これまで台湾には、エトミデートを路上で迅速に検知できる有効な検査手段がなかった。尿検査は路上検問には向かず、その場で実施することは現実的ではない。違法性を示す客観的なデータがなければ、薬物運転による死傷事故が発生していない段階で、警察がその場で身柄を確保することは難しかった。
さらに、エトミデートは代謝が速い薬物でもある。効率的で精度の高い路上検査ツールがなければ、薬物反応は短時間で陰性に変わってしまうおそれがある。
台北地方検察署の林達検察官は、台湾ではこれまで薬物運転の取り締まりが十分に行われず、政府による「薬物運転ゼロ容認」の啓発も不足していたと指摘する。(写真/蔡親傑撮影)
偽陰性の問題 警察は「明らかな陽性者」を選ばざるを得ず こうした状況を受け、台湾の内政部警政署は昨年末、海外から「8 in 1」と呼ばれる唾液による薬物迅速検査キットを導入した。これにより、警察はようやく薬物運転を路上で取り締まるための道具を手にした。
林氏は、それでも警察が路上検問で使える検査ツールを手にしたこと自体は大きな前進だとみている。国家科学及技術委員会と中央研究院は、台湾大学生物機電工程学系の周呈霙教授に委託し、台湾製の唾液薬物迅速検査キットを開発している。2026年後半には量産・市販される見通しで、導入が進めば、警察が薬物運転を疑いながらも証拠を得られず見逃すケースを減らせると期待されている。
LC-MSは路上検問には不向き 最終確認に必要な精密検査 一部の専門家が提案する液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)については、林氏は路上検問には向かないと説明する。LC-MSは実験室で使う精密機器であり、1台で数百万元規模の費用がかかる。さらに、操作には専門の検査員が必要になるため、路上へ持ち込んでその場で検査することは現実的ではない。
つまり、薬物運転を摘発するには二つの仕組みが必要になる。まず、路上検問の現場で新興薬物に対応でき、携帯しやすい唾液薬物迅速検査キット。そして、検問結果を最終的に確認し、司法手続きで証拠として使えるだけの信頼性を持つLC-MSなどの精密機器である。
台湾大学法医学研究所の翁徳儀所長も、エトミデートは半減期が短いため、路上検問で唾液検査が陽性となった場合には、警察が速やかに対象者を派出所へ連れて行き、尿を採取した上で、LC-MSを備えた検査機関へ急いで送る必要があると指摘する。
台湾大学法医学研究所の翁徳儀所長は、エトミデートの半減期が短いため、路上検問で唾液薬物検査が陽性となった場合、警察はできるだけ早く対象者を派出所へ連れて行き、尿を採取する必要があると指摘する。(写真/YouTube動画より)
二段階検査の見直しを求める声 もう一つの課題は、検査手続きそのものだ。現在の法規では、検査機関での確認にあたり、第一段階として免疫測定法による初期分析を行い、その後、第二段階として確認分析を行うことが求められている。
しかし、第一段階の免疫測定法は20〜30年前から使われている手法であり、最終的にはより精密なLC-MSによる確認が必要になる。翁氏は、代謝の速いエトミデートなどの検査時間を確保するためにも、法改正によって二段階検査を見直し、最終確認分析だけで足りるようにすべきだと主張する。検査機関が出す確認分析の結果は、司法手続き上も十分に認められる信頼性を持つという見方だ。
台湾刑法にはすでに薬物運転の規定 薬物運転には専用の法律がないと思われがちだが、林氏は、台湾の刑法にはすでに明確な規定があると説明する。
台湾では、2013年12月8日に刑法第185条の3が改正され、安全運転不能罪、いわゆる飲酒運転・薬物運転罪が定められている。
同条第1項第3号では、尿または血液に含まれる麻薬、麻酔薬、またはこれに類する物質、その代謝物が、行政院(内閣に相当) が公告する品目および濃度値以上に達している場合を規定している。さらに第4号では、前号以外の事情から、麻薬、麻酔薬、またはこれに類する物質を使用し、安全に運転できない状態にあると認められる場合も対象としている。
第3項では、同条または陸海空軍刑法第54条の罪で有罪判決が確定、または起訴猶予処分が確定した後、10年以内に再び第1項の罪を犯し、人を死亡させた場合、無期刑または5年以上の有期刑に処し、300万台湾元以下の罰金を併科できる。重傷を負わせた場合は、3年以上10年以下の有期刑に処し、200万台湾元以下の罰金を併科できる。
未成年者の電子たばこ使用 学校現場の対応は 林氏によれば、台湾では18歳以上が成人とされるため、19歳が薬物運転をした場合は地方検察署に送致される。一方、17歳の場合は少年法廷に送られる。
ただし、薬物運転に至る前段階である未成年者の電子たばこ使用については、学校現場での対応に課題もある。国民教育行動連盟の王瀚陽理事長によると、未成年の生徒が電子たばこを吸っていたり、エトミデートなどを含む「ゾンビたばこ」を使用した疑いがあったりしても、その生徒が高関懐少年、つまり犯罪歴がある、ギャング組織と関わりがある、管理対象になっているといったケースでない限り、学校側が担当の少年保護官に通知することは通常ないという。
国民教育行動連盟の王瀚陽理事長によると、未成年の生徒に「ゾンビたばこ」の使用が疑われる場合でも、高関懐少年に該当する場合に限り、学校側は担当の少年保護官へ通知するという。(写真/YouTube動画より) 一般の初犯の生徒については、明らかにけいれんや硬直などの薬物反応が見られる場合、学校側はまず電子たばこ本体や、エトミデートなどが含まれている疑いのある内容物を没収する。その後、保護者に連絡し、同時に衛生局と教育局にも通報した上で、校内の三段階カウンセリング制度を始動する。
「薬物使用後5日間は運転しない」啓発の必要性 林氏は、政府が青少年や一般市民に対し、「薬物運転ゼロ容認」の啓発をさらに強化すべきだと訴える。刑務所内でも、薬物使用者や薬物密売に関わった受刑者に対し、法教育を徹底する必要があるという。
特に重要なのは、薬物を使用した場合、少なくとも5日間は車やバイクを運転してはならないと知らせることだ。薬物はアルコールとは異なり、一晩寝れば翌日には影響がなくなるというものではない。とりわけ混合薬物の場合、少なくとも5日間は体内に残留し、意識や判断力に影響を及ぼす可能性がある。
薬物使用者は治療対象 薬物運転は厳罰対象 林氏は、法曹界や医療界では、単なる薬物使用者や依存症患者については、治療可能な慢性疾患の患者として見る考え方が広がっていると説明する。安易に刑務所へ入れれば、かえって安価な薬物の入手方法を学び合い、出所後に薬物使用のネットワークを強めてしまうおそれがあるためだ。
一方で、薬物運転はまったく別の問題だと林氏は強調する。薬物を使用した状態で車やバイクを運転すれば、自分だけでなく他人の命も危険にさらす。こうした行為は、加害者本人に教訓を与え、被害者に公正な結果を示すためにも、厳しく罰する必要があるという。
「薬物使用者には治療の機会を与える。しかし、薬物運転は他人の命を奪いかねない行為だ。そこは明確に分けて考えなければならない」林氏はそう訴えている。
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