中国全国台湾研究会の副会長を務める王衛星氏はこのほど、江蘇省蘇州市で開かれた「第11回南京大学両岸関係学術シンポジウム」で、中国大陸の70年以上にわたる対台湾政策の流れを整理すると、11の分野をめぐる研究が続けられ、30項目以上の具体的な構想が形成されてきたと説明した。「平和統一、一国二制度」をめぐる包括的な政策枠組みが構築されつつあるとの認識も示した。
中国の対台湾政策をめぐっては、体制内の研究者の間でも、統一に向けた取り組みを慎重に進めるべきだとの見方がある一方、米国が台湾問題を通じて長期的に中国をけん制しているとして、より先制的な対応を求める強硬な議論もみられる。
王氏はあいさつの中で、70年以上にわたる対台湾政策を振り返ると、中国大陸では、統一への道筋、台湾地域の制度設計、統治の枠組み、財政・司法権限、対外事務、台湾住民の国家運営への参加、両岸交流、台湾住民の権益保障、協議の仕組み、高官交流、そして「一国二制度」台湾案の共同検討という11分野について研究が続けられてきたと説明した。
その上で、国内外で示されてきた100種類以上の台湾問題解決案の中でも、「一つの中国」原則に立脚し、歴史的な現状を尊重し、制度の違いを包摂する「一国二制度」こそが、「法理上の正当性、現実的な実行可能性、国民生活への恩恵を兼ね備えた唯一かつ最適な案だ」と主張した。
王氏はまた、「一国二制度」はもともと台湾問題を解決するために提起されたものだとし、香港・マカオでの実践についても成功例だと評価した。一方で、台湾問題は香港・マカオとは「性質も背景も全く異なる」と強調し、「香港・マカオのモデルを単純にそのまま当てはめることは決してない」と述べた。
政治的スローガンから制度設計へ 北京が描く「統一後」 王氏の説明によると、中国大陸が現在研究を進めている11分野には、統一への道筋、台湾地域の制度設計、統治の枠組み、財政・司法権限、対外事務、台湾住民の国家運営への参加、中台交流、台湾住民の権益保障、協議の仕組み、高官交流、そして「一国二制度」台湾案の共同検討が含まれる。
例えば、台湾は現在の行政・司法制度を維持できるのか。地方政府の権限をどのように分配するのか。財政の歳入・歳出を誰が決定するのか。台湾は対外経済や国際活動でどこまで独自の活動空間を確保できるのか。台湾住民はどのような仕組みを通じて中国大陸の国家運営に参加できるのか、といった論点だ。
中国全国台湾研究会副会長で、海峡両岸関係研究センター学術顧問を務める王衛星氏。(北京市台湾事務弁公室の公式WeChatより)
制度の細部や生活保障、経済発展などを議論の俎上に載せることで、北京は統一を、単なる政治的スローガンではなく、議論し、計画し、さらには協議を通じて段階的に実施し得る政治プロジェクトとして描こうとしている。
軍出身研究者が強調する「平和統一」 王氏は純粋な学術研究者というだけではない。中国人民解放軍で少将の軍歴を持ち、長年にわたり台湾海峡問題の研究に携わってきた。中国軍事科学院の台湾海峡軍事研究センター主任を務めた経歴があり、現在は海峡両岸関係研究センターの学術顧問も務めている。
こうした軍事研究の経歴を持つ人物が、公の場で繰り返し「平和統一」を強調し、「一国二制度は戦争のシナリオではない」と訴えていること自体、北京の対台湾政策を読み解く上で注目すべき動きの一つだ。
北京は一方で、台湾周辺での艦艇や軍用機の活動、軍事演習、経済的圧力などを続けている。他方では、体制内の研究者やシンクタンクを通じ、「一国二制度」台湾案の具体的な制度構想を発信している。
こうした動きには、国際社会や台湾内部に対し、「平和的な選択肢はなお存在し、その準備も進んでいる」と印象づける狙いがあると筆者はみる。
こうした言説は今回が初めてではない。近年の中国の対台湾政策は、二つの軌道を並行して進める傾向が鮮明になっている。
一方では軍事演習の常態化や台湾周辺への艦艇・軍用機の展開、経済的圧力を続け、もう一方では「統一後」の制度設計や台湾向けの優遇措置を具体化し、各種のシンポジウム、白書、メディアなどを通じて「平和統一を優先する」と繰り返し強調している。
「香港・マカオを単純適用しない」と「唯一最適」の間に残る矛盾 王氏が「香港・マカオのモデルを単純にそのまま当てはめることは決してない」と強調した背景には、香港国家安全維持法(国安法)の施行後、香港で起きた政治・社会の変化に対する台湾社会の強い警戒感があると考えられる。
北京側にとって、「香港とは違う」と説明することは、こうした負のイメージを和らげる意味を持つ。
しかし王氏は同時に、「一国二制度」を「唯一かつ最適な案」と位置づけ、他の選択肢を事実上排除している。
「香港・マカオのモデルを単純適用しない」としながら、「一国二制度」そのものは唯一の選択肢だとする論理は、結局のところ北京側があらかじめ協議の枠組みを設定するものだと筆者はみる。真に開かれた協議の余地がどこまで残されているのかという疑問は消えない。
台湾では長年にわたり複数政党による選挙が行われ、総統と立法委員が有権者の投票によって選ばれている。台湾は独自の行政、司法、国防、対外関係の仕組みも持っている。
多くの台湾住民にとって、これらは単に再配置できる行政権限ではなく、民主制度、政治的アイデンティティー、生活様式と密接につながる現実だ。
王氏は両岸による平等な協議や「一国二制度」台湾案の共同検討を掲げているものの、現時点で示されている枠組みは基本的に北京側が設定した政治的前提に基づいている。
「30項目以上の構想」が形成されたとされる一方、台湾の民選政府や主流の民意との実質的な対話の仕組みが存在しない現状では、それらは実際の交渉案というより、国内外に向けた政策宣伝としての性格が強いようにも見える。
香港国家安全維持法(国安法)の施行後、香港社会ではさまざまな変化が起きている。写真はビクトリア・ハーバー沿いで撮影する写真愛好家。(中新社)
「和平統一」を掲げても避けられない台湾民意の壁 王氏は「一国二制度」を平和統一のための案と位置づけ、「戦争のシナリオではない」と強調している。また、中台双方が平等な協議を行い、交流を深め、台湾住民の権益を保障することで統一を進めるべきだと主張している。
しかし、台湾の現行の憲政体制、選挙制度、両岸関係をめぐる法制度は、いかなる重大な政治的取り決めでも避けて通れない現実だ。
台湾の政治的な将来に関わる合意は、中台の研究者によるシンポジウムや政党間交流、政策提言だけで社会的な正当性や民意の支持を得られるものではない。
さらに重要なのは、「平等な協議」という言葉についても、中台双方の理解には根本的な違いがあることだ。
北京は「一つの中国」原則を政治的前提として強調する。一方、台湾社会では、自らの民主制度に加え、主権をめぐる認識の隔たりや安全保障環境も無視できない。
交渉の前提、政治的地位、そして最終的な決定権について双方の認識が異なる以上、制度設計がどれほど具体化されても、それだけで実行可能な政治合意に変わるわけではない。
中国が統一案を具体化 台湾に問われるのは制度の「保証」 中国側が統一後の制度設計を具体化し始める中、最大の課題は、そこで示される制度的な約束が統一前だけの政治的宣言ではなく、統一後も実際に保障される権利だと、いかに台湾社会に納得させるかという点にある。
台湾側にとっては、中国側の政策変化を理解する一方、自らの民主制度、公共の議論、安全保障上の評価を基礎として、それぞれの構想が何を意味するのかを判断していく必要がある。
「平和統一」案の具体化が、中国による武力行使という選択肢の放棄を自動的に意味するわけではない。
むしろ制度設計の細分化は、北京が統一をめぐる政策手段を多層化し、特定の条件下で統一に向けた動きを加速させる際の政策的・政治的な論拠として用いられる可能性もある。