ロシア・イルクーツク州でペストをめぐる疑惑が持ち上がっている。シベリア・極東抗ペスト研究所に勤める28歳の女性が、10月初めに重い肺炎で死亡した。勤務先がペストを専門に研究する機関であることに加え、「実験室で試験管が割れ、ペスト菌に触れた可能性がある」との情報が広がったことで、国際的な公衆衛生上の懸念として急速に注目を集めた。
ロシア当局は現時点でペストの流行を否定しており、死因は「原因不明の肺炎」で、接触者からもペストなど特殊な感染症の病原体は検出されなかったとしている。ただ、約200人の接触者が隔離や医学的な経過観察の対象となり、世界保健機関(WHO)もロシア側に詳しい情報の提供を求めている。
わずか1カ月余り前、中ロは「ペストの越境流入」を想定した演習
8月24~27日、中国黒竜江省撫遠市で「2026年中ロ越境感染症合同緊急対応演習」が行われた。一般的な防疫の啓発活動ではなく、黒竜江省の疾病予防管理局や衛生健康委員会などが主催し、東北3省の医療・衛生の緊急対応チームを集めたうえで、ロシア連邦消費者権利保護・福祉監督庁(ロスポトレブナドゾル)などの専門家も招いた本格的なものだった。ロシア側の専門家には、イルクーツクの抗ペスト研究所のセルゲイ・バラホノフ(Sergey Balakhonov)所長も含まれていた。
これまでに公開された情報では、関連する症例が同じ病原体によるものだと示す証拠はなく、ましてやウイルスや細菌が地域社会で広がっていることを示す証拠もない。

演習が行われた黒竜江省でも、ペストをめぐる騒ぎは起きていない。記者が現地の読者に尋ねたところ、「地元の衛生健康委員会から、街頭でペスト予防を呼びかけるような通知は出ていない」という。ただ、数カ月前には河北省が、住宅団地に殺鼠剤入りの餌を設置し、ネズミによる被害を減らすよう通知を出していた。
イルクーツクはシベリアに位置し、ロシアの交通・物流の重要な拠点だ。一方、中国東北部はロシア極東地域と人の往来や経済・貿易の面で密接な関係にある。
このため、中国にとって本当に対処すべき問題は、「イルクーツクにペストがあるかどうか」という単純な話ではない。ロシアで本当にリスクの高い感染症が発生した場合、中国は国境を越えて広がる前に早期警戒を発することができるのか、という点だ。
また、撫遠は中国の最東端に位置し、川を挟んでロシアと向かい合う、中国東北部の重要な対ロシア国境・通商拠点でもある。地元当局は演習の際、中ロ両地域は医療・衛生分野で長年交流を続け、新型コロナウイルスの流行時にも防疫で協力したと強調していた。 (関連記事: ニューヨークから台北へ 気候変動と都市過密が招くネズミ急増、台北では死亡例も | 関連記事をもっと読む )
抗ペスト研究所の職員はなぜ「原因不明の肺炎」で死亡したのか
現在最も注目されているのは、この研究所職員が9月下旬に実験室で事故に遭い、ペスト菌(Yersinia pestis)の入った試験管を割ってしまい、数日後に症状が出て急速に悪化したという説だ。この説はロシア当局が否定しており、女性が実験室の事故でペストに感染したことを裏付ける公開された証拠も今のところない。














































