中国共産党第20期中央委員会第5回全体会議(5中全会)の公報では、「民主集中制」や「党内民主」の向上が繰り返し言及された。一部では、これが中国共産党総書記・習近平氏の権力が弱まっている兆候ではないかとの見方も出ている。
しかし、中央研究院(中研院)政治学研究所の蔡文軒研究員は、これを根拠に習氏の権力弱体化を断定することはできないと指摘した。一方、淡江大学両岸関係研究センターの洪耀南主任は、習氏が軍事の意思決定権を自身に再集中させようとしているとの見方を示し、台湾は警戒を緩めるべきではないと強調した。
中国共産党第20期5中全会の閉幕を受け、アジア政経・平和交流協会は2日、「5中全会後の中国はどこへ向かうのか――内政の変動、両岸関係と国際情勢」と題する座談会を開催した。大陸委員会(陸委会)の沈有忠副主任委員と5人の専門家・研究者を招き、5中全会後の権力構造、軍中枢の粛清、社会統治、対台湾政策の動向について議論した。
出席した専門家らは、中国共産党が進める「全面的に厳格な党内統治(全面従厳治党)」によって、習氏個人への権力集中が一段と進み、政治的忠誠が官僚の昇進や政策執行の重要な基準になるとの見方を示した。2027年の中国共産党第21回全国代表大会(第21回党大会)が近づくにつれ、軍中枢の粛清や党・政府の人事異動が、中国の内部統治や対外政策に影響を及ぼす可能性があるという。
人民解放軍の統合作戦能力が人事粛清の影響を受けたとしても、中国は軍事的威圧、グレーゾーン行動、法律戦、国境を越えた弾圧などの手段を通じて台湾への圧力を強め、台湾海峡やインド太平洋地域の安全保障リスクを高める可能性がある。
座談会は、台北市立大学グローバル戦略・民主レジリエンス研究センターの洪浦釗主任が司会を務めた。蔡氏、洪氏、沈氏のほか、国防安全研究院国家安全研究所の王占璽副研究員、中華アジア太平洋エリート交流協会の王智盛秘書長、台北海洋科技大学教養教育センターの呉瑟致助理教授が登壇した。
中国共産党の権力集中、台湾海峡への圧力は段階的に強まる恐れ 政治権力 習近平氏の権力がさらに集中 全面従厳治党、反腐敗粛清、人事異動を通じ、政治的忠誠が官僚昇進の鍵となる。
政治的シグナル 「民主集中制」 中国共産党の既存の政治原則であり、習近平氏の権力弱体化を意味するものではない。
軍の粛清 軍の指揮・決定権を習氏に再集中 軍中枢の粛清と指揮系統の再編を通じ、「中央軍事委員会主席責任制」を強化する。
2027年の節目 官僚の忠誠競争が激化する恐れ 第21回党大会と人民解放軍建軍100周年が迫る中、政策がさらに硬直化・過激化する可能性がある。
台湾海峡情勢 対台湾圧力の日常化 中国海警の活動、グレーゾーン圧力、法律戦、経済的威圧が強化される可能性がある。
安保リスク 誤算と偶発的衝突のリスク上昇 軍の粛清が情報や意思決定の質に影響し、誤算や偶発的な衝突のリスクを高める恐れがある。
アジア政経・平和交流協会は2日、「5中全会後の中国はどこへ向かうのか――内政の変動、両岸関係と国際情勢」と題する座談会を開催した。左から洪耀南氏、呉瑟致氏、洪浦釗氏、沈有忠氏、蔡文軒氏、王占璽氏、王智盛氏。(主催者提供)
全面従厳治党で一党支配を強化 沈氏は、中国共産党が政治的粛清を通じて内部の挑戦を排除している一方、外部からの監視や権力の抑制・均衡を欠いており、意思決定が一層硬直化し、強硬な判断に傾く恐れがあると指摘した。
沈氏は3つの観察を示した。第1に、中国共産党は全面従厳治党を通じて一党支配体制を固め、政治改革を排斥している。第2に、民主主義国の選挙を利用して認知戦を展開し、特にAI(人工知能)で生成した偽の映像・音声や偽・誤情報を使って社会の分断や対立を深め、選挙の公平性や民主主義制度に対する市民の信頼を損なおうとしている。第3に、軍事面やグレーゾーンでの圧力を強化し、中国海警の船艇、海洋調査船、民兵船を国内法や主権の主張と組み合わせ、台湾海峡やインド太平洋地域の既存秩序に挑戦している。
沈氏は、米国の中間選挙や台湾の地方選挙の結果にかかわらず、台湾海峡の平和と安定を維持することは国際社会の共通利益だと強調した。また、「まず自らを助けてこそ、他者からの支援も得られる」と述べ、台湾自身が自己防衛の決意を示してこそ、国際的な力を結集して国家主権と民主主義・自由を守ることができると強調した。
公報の「民主集中制」強調は習氏の権力低下か 蔡氏は、公報が「民主集中制」を繰り返し強調している点について、これは中国共産党の既存の政治原則であり、これだけを根拠に習氏の権力が低下したとみなすことはできないと指摘した。
蔡氏の分析によると、全面従厳治党や反腐敗粛清は明確な基準を欠いており、地方官僚の職務への消極姿勢、いわゆる「躺平(事なかれ主義)」を深刻化させているという。一部の地方政府は、公開の場での叱責など懲罰的な手法で官僚に職務遂行を促しているが、消極的な職務姿勢は依然として解消されていない。
また、中国はフードデリバリー配達員や配車サービスの運転手などを「移動型の網格員(地域監視要員)」として活用し、地域社会の監視を強化することで、社会的不満が拡大する前に抑え込もうとしているという。
対外戦略について蔡氏は、中国が「魯班工坊(ルーバン工房)」と一帯一路構想を結びつけ、グローバルサウスに向けて技術教育や中国の製造規格・標準を普及させ、国際的な影響力を拡大していると指摘した。台湾は中国共産党の統治思想とグローバルな戦略的布陣を深く理解してこそ、中国の今後の発展方向を効果的に把握できるとした。
官僚の忠誠競争、2027年に過激な政策の恐れも 王占璽氏は、習氏が経済的な困難や社会統治上の課題に直面する中、政治的忠誠と幹部粛清によって権力を固める選択をしていると指摘した。
王占璽氏の分析によれば、人民解放軍中枢の粛清は統合作戦能力を弱める一方、中国は引き続き対外的な圧力を強める可能性がある。外交や対台湾部門では人事の交代期を迎えており、官僚が習氏の意向に迎合するため、グレーゾーン行動、法律戦、世論戦、国境を越えた弾圧を強化し、地域の摩擦や偶発的なリスクを高める恐れがあるという。
同氏はさらに、習氏が米中関係の戦略的安定を維持しながら、内部の権力や人事の布陣に集中して取り組む傾向があると指摘した。今後1年間、中国は米中関係の安定を図る一方、台湾や周辺地域への圧力を強める可能性があるとの見方を示した。
中国共産党の習近平総書記兼国家主席が5中全会に出席した。専門家は、今後1年間、中国が米中関係の安定を図る一方、台湾や周辺地域への圧力を強める可能性があると分析している。(AP通信)
偶発的衝突リスクの増大 王智盛氏は、5中全会後の習氏が軍中枢の粛清や指揮系統の断絶に直面しており、全面戦争を遂行できるとの確信が弱まっていると指摘した。そのため短期的には対台湾圧力の手段を調整し、中国海警による法執行活動、法律戦、国境を越えた弾圧、経済的威圧といった強制的な手段の比重を高める可能性があるとの見方を示した。
王智盛氏の分析では、人民解放軍のベテラン将官が大規模に粛清されたことで、軍種間の連携や統合作戦能力が弱まった。今後、中国は単一の軍種や中国海警、武装警察による独自行動を増やし、「以演代訓、以訓代戦(演習を訓練として活用し、訓練を実戦さながらに行う)」ことで、習氏への政治的忠誠を示す可能性があるという。特に人民解放軍建軍100周年となる2027年には、台湾に対する軍事演習や威圧行動がさらに頻繁になる恐れがある。
同氏はまた、習氏の周辺で軍事問題に精通していた中核的な幕僚らも粛清されており、軍事情報の質や意思決定に影響を及ぼす恐れがあると警告した。習氏が十分かつ信頼できる軍事情報を得にくくなれば、誤算や偶発的衝突のリスクも高まると強調した。
対台湾圧力が段階的にエスカレートする恐れ 呉氏は、中国共産党が5中全会で全面従厳治党を強調したことについて、習氏が組織人事、党紀による粛清、意思決定の仕組みを通じて党・政府・軍の権力を個人に集中させ、政治的忠誠を官僚の昇進や地位を維持するための重要な基準に据えていると指摘した。
呉氏の分析によれば、権力が高度に集中することで党内の異論が抑え込まれ、官僚は保身のため正確な情報を提供したり、異議を唱えたりすることを避けるようになる。その結果、意思決定の質の低下や末端での消極的な職務姿勢につながり、政策上の誤りも修正しにくくなるという。
習氏が明確な権力継承の仕組みを確立しない限り、中国共産党の権力継承は個人の意思にさらに依存することになり、権力集中と統治機能の低下という矛盾に直面することになると述べた。
同氏は、官僚が上層部の意向への迎合を行動基準とするようになれば、台湾への圧力も段階的にエスカレートする可能性があり、台湾海峡や地域の安全保障をめぐる不確実性が高まると指摘した。
中国共産党中央軍事委員会の習近平主席(左から3人目)は2022年、張又俠副主席(右から2人目)、何衛東副主席(左端)、苗華委員(右端)、李尚福委員(右から3人目)、張升民委員(右から4人目)、劉振立委員(左から2人目)とともに、中央軍事委員会聯合作戦指揮センターを視察した。当時の7人のうち、現在も在任しているのは習氏と張升民氏のみ。(新華社)
洪耀南氏「軍事決定権を習氏に集中」 洪耀南氏は、5中全会後、習氏による軍中枢の粛清は段階的な目標に近づいており、主な目的は「中央軍事委員会主席責任制」を徹底し、軍事の意思決定権を習氏自身に集中させることにあると指摘した。
今後、中央軍事委員会の人事が再編される可能性はあるものの、人民解放軍の既存の指揮・作戦体系は引き続き機能するとの見方を示した。
洪耀南氏の分析によると、習氏の次の粛清の焦点は、表向きは忠誠を示しながら裏では異なる行動を取る、いわゆる「両面人」に移るという。また、人事異動を通じて、地方の「一把手(トップ)」が形成する権力中枢を弱めるとの見方も示した。
官僚が政治的リスクを優先的に考慮し、頻繁な人事異動が重なれば、地方官僚の消極的な職務姿勢がさらに深まり、長期的なインフラ整備や経済発展にも影響を及ぼす可能性があるという。
同氏は、中国の経済的な困難は政治的要因にも制約されており、官僚の不作為が投資の勢いを弱めていると強調した。習氏は引き続き軍事への投資を拡大するとみられ、台湾への脅威は日常的かつ小規模な圧力行動へ移行する可能性があると指摘。台湾は軍中枢が粛清されたからといって警戒を緩めてはならないと警鐘を鳴らした。