11月3日、全米の有権者が投票所に足を運び、今後2年間の連邦議会の議席を決める。共和、民主両党の力関係が塗り替わる可能性もある。この中間選挙は、ホワイトハウスに返り咲いた「トランプ2.0」の政治的な成績表であり、2029年1月の退任までトランプ大統領が大統領権限をどう行使できるのかを左右する。
共和党は現在、上院で53議席を握る。下院では共和党218議席、民主党214議席、無所属1議席、欠員2となっており、共和党が僅差で多数派を維持している。
民主党が下院を奪還すれば、トランプ氏の立法アジェンダを阻むことができるほか、委員会の調査権や召喚権を手にし、トランプ氏により大きな圧力をかけることが可能になる。上院も民主党が多数派となれば、閣僚人事や司法関係の人事への制約も一段と強まる 。
では、トランプ氏は早くも「レームダック(任期末で政治的影響力が低下した状態)」の大統領になるのだろうか。
過去16年を振り返ると、オバマ、トランプ、バイデンの3人はいずれも中間選挙で上下両院の少なくとも一方の多数派を失った。だが、その後の対応は三者三様だった。妥協に転じた者もいれば、行政権への依存を強めた者もおり、膠着の中でも従来路線を貫いた者もいる。
議会多数派を失ったからといって、それだけでホワイトハウスの権限が縮小するわけではない。
議会多数派を失ったオバマ氏は何をしたか 2010年の中間選挙で、民主党の下院議席は257から193に減った。米下院歴史室 の各期議席数で計算すると、一気に64議席を失い、共和党が下院を奪還した。
民主党が両院を握っていた時期に医療保険改革を成立させたオバマ大統領は、以後、共和党主導の財政交渉に向き合うことになる。2010年12月にはジョージ・W・ブッシュ政権時代の減税を延長する法案に署名。2011年には共和党下院が債務上限を盾に圧力をかけ、ホワイトハウスは歳出を抑制する「予算管理法」を受け入れた。同法は同年8月2日に発効した。
2014年には共和党が下院での優位を広げ、上院でも54議席を得て多数派を奪還した。両院の主導権を失ったオバマ氏は、大統領令や連邦機関の規則、外交権限への依存を強めた。
同年12月17日にはキューバとの「国交正常化の開始」を表明し、2015年には米国を含む主要6カ国などとイランの間で核合意(JCPOA)が成立した。ただ、その後はいずれも大きく後退した。
一方、オバマ氏が2014年に打ち出した移民関連の行政措置は連邦裁判所に差し止められ、2016年6月には連邦最高裁で4対4の同数となり、措置は復活しなかった。
議会多数派を失った大統領は手段を変えることはできても、議会と裁判所による抑制からは逃れられない。
退任を控え、在任中に成立させた医療保険制度改革法(オバマケア)を守るため議会を訪れたオバマ大統領。(AP通信)
弾劾された第1次トランプ政権、路線は変わったか 2018年の中間選挙では、民主党の下院議席が194から235に増える一方、共和党は上院で2議席を純増させた。2019年からは下院のナンシー・ペロシ議長が政権調査の主導権を握り、トランプ氏は共和党が多数派を占める上院の支持を保った。
2018年中間選挙(トランプ政権1期目)における上下両院の共和、民主両党の議席増減。出所:MIT Election Lab、米下院歴史局、米議会調査局。ストームメディア作成 中間選挙での敗北後、ホワイトハウスと議会の衝突はすぐに表面化した。
トランプ氏はメキシコ国境の壁の予算にこだわり、2018年12月21日に暫定予算が期限切れとなって連邦政府の一部が閉鎖された。閉鎖は2019年1月25日にトランプ氏がつなぎ予算に署名するまで続き、35日間に及んだ 。
トランプ氏は2019年2月15日、南部国境に国家非常事態を宣言し、予算を流用して壁を建設しようとした。
同年、民主党が多数派を占める下院は、トランプ氏とウクライナ大統領の電話会談をめぐる調査に乗り出し、12月18日に2つの弾劾条項を可決した。だが、2020年2月5日、共和党が多数派を占める上院での弾劾裁判で、トランプ氏は有罪評決を免れた。
激しい対立もトランプ氏に方針転換を迫ることはなく、米中貿易戦争は激化し続けた。
2020年1月には米国防総省が、米軍が「大統領の指示により」イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を殺害したと発表した。
一方、分割政府のもとでも協力が皆無だったわけではない。北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の実施法は、2020年1月29日にトランプ氏の署名で成立した。
第1次トランプ政権の経験が示すのは、議会は大統領の政策遂行に伴う政治的コストを引き上げ、弾劾まで発動できても、大統領に方針転換を迫れるとは限らない ということだ。
大敗しなかったバイデン氏は、なぜ身動きが取りにくくなったか 2022年、高インフレに直面したバイデン大統領に対し、選挙前には共和党の「赤い波」が予想された。
だが、英誌『エコノミスト』が10月15日に振り返ったように、民主党の下院での純減は9議席 にとどまり、上院では1議席を純増させて多数派を守った。選挙後、何を変えるつもりかと記者に問われたバイデン氏は「何も」と答えた。
2023年、バイデン氏は共和党下院と債務上限で合意し、歳出上限と引き換えにデフォルト(債務不履行)を回避した。「財政責任法」は6月3日に発効した。
2024年には、ウクライナ、イスラエル、台湾への支援を盛り込んだ補正予算が長い交渉を経て、4月24日に成立した。
バイデン政権の経験から分かるのは、議会がねじれても大統領の路線がすぐに変わるとは限らないが、新たな法案を推進する余地は確実に狭まり、政治資源が予算交渉や防戦に費やされるということだ。
2023年2月8日、米連邦議会議事堂で2回目の一般教書演説を終え、マッカーシー下院議長と握手するバイデン大統領。(AP通信)
再選を目指す必要のないトランプ氏は、共和党と一枚岩でいられるか 同じトランプ政権でも、2026年と2018年には根本的な違いがある。
2018年のトランプ氏には2020年の再選がかかっていたが、2026年のトランプ氏はすでに2期目にあり、憲法上、再び大統領に選出されることはできない 。
トランプ氏にとって今回の選挙が左右するのは、自らの去就ではなく、残り2年の立法の余地だ。
この点は、トランプ氏と共和党の政治的な関係を変える可能性がある。トランプ氏個人の政治的利益、2028年の共和党大統領候補の利益、そして2028年に再び有権者の審判を受ける議員たちの利益は、常に一致するとは限らないからだ。
2026年11月1日、米アイオワ州ダビュークのファイブ・フラッグス・センターで開かれた選挙集会で演説する共和党のマイク・ジョンソン下院議長。右は演説を聞くトランプ大統領。(AP通信) 『エコノミスト』誌は、トランプ氏が政治的な挫折を受けたからといって、自制に転じると期待するのは誤算かもしれないと指摘する。議会や金融市場が制約となっても、大統領権限を使って国際情勢に影響を及ぼし続ける可能性があるからだ。
同誌 は、共和党や公共政策、財政赤字といった問題は他の政治家に任せればよい、という姿勢をトランプ氏が取る可能性を論じている。
英王立国際問題研究所(チャタムハウス) で欧州・ロシア・米州プログラムの研究ディレクターを務めるアンドリュー・ペイン氏(Andrew Payne)は、ミシガン州の共和党上院候補マイク・ロジャース氏がイラン戦争について「終わらせなければならない、それも早く」と述べ、アイオワ州選出の共和党下院議員で上院選候補のアシュリー・ヒンソン氏も、州民がガソリンスタンドやレジでイラン戦争のツケを払うべきではないと語ったことを紹介している。
ブルッキングス研究所 のサラ・バインダー氏(Sarah Binder)は、2028年大統領選はすでに始まっており、議員たちが実績を携えて選挙に臨むのか、それとも両党とも膠着を選んで非難し合うのかは未知数だと指摘する。
議会がねじれた場合、トランプ氏は行政権をより頻繁に使うのか。それとも共和党内で、その政策コストを負いたくないという声が増えるのか。これも考えるべき問いだ。
ブルッキングス研究所の外交政策研究ディレクター、マイケル・オハンロン氏(Michael E. O'Hanlon)は、戦争権限や武力行使の決定については、民主党がわずかな多数を得ても、トランプ氏は重要法案への拒否権を維持するのに十分な共和党議員の支持を確保できる可能性が高いとみる。
一方、議会が実際に影響力を行使しやすいのは国防予算だ と指摘する。トランプ氏が求める3500億ドルの「義務的経費(mandatory funding)」としての国防費は、民主党主導の議会のもとでは「通る可能性はほぼない」と述べた。
議会がねじれたら、トランプ氏はどこに力を注ぐか 民主党が下院を奪還すれば、2027年のワシントンでは、調査、予算対決、立法の膠着という第1次トランプ政権の構図が再演される可能性がある。主要な選挙予測機関の多くも、民主党が下院多数派を獲得する可能性を指摘している。
米外交誌『フォーリン・ポリシー』は10月26日、民主党が勝利した場合の外交政策の5大優先課題として、政権の利益相反と腐敗の調査、イラン戦争の制限(戦費の打ち切りを含む)、ウクライナ支援の強化と欧州からの米軍撤退への抵抗、ベネズエラ・カリブ海での軍事行動の監視、人工知能(AI)の規制立法を挙げた。
民主党が上院も制すれば、トランプ氏の人事はさらに難しくなる。
ただ、民主党が両院を握ったとしても、大統領の拒否権を覆すのに必要な3分の2の多数を確保する可能性は低い。まして、上院で3分の2の賛成を得て大統領を弾劾裁判で有罪とし、罷免するのはさらに難しい。
選挙によってトランプ氏の立法は難しくなっても、大統領令の発令や、貿易、移民、外交における大統領権限の行使まで難しくなるとは限らない。
ブルッキングス研究所 ジョン・L・ソーントン中国センターのライアン・ハース所長(Ryan Hass)は、議会の主導権が変わった後も、トランプ氏は貿易政策で「絶え間なく積極策を打ち出し」、自らの権限の限界を試すとみる。
議会の批判や法廷闘争を避けることもなく、ハース氏は、こうした貿易をめぐる対立を、議会による政権調査から論点をそらす手段として利用する可能性もあるとみている。
ハース氏は、トランプ氏が対イラン軍事行動の縮小や欧州の兵力態勢見直しを理由に中東や欧州の駐留米軍を減らし、代わりに中南米で麻薬対策や移民阻止を名目に武力を誇示する可能性があると分析する。残り2年の任期では、中国やロシアといった大国との直接衝突を避ける可能性が高い との見方を示している。
ペイン氏は別の警告を発している。有権者の審判が大統領を自制させるとは限らないという。
2006年の中間選挙では、共和党がイラク戦争をめぐって大敗したが、ジョージ・W・ブッシュ大統領は方針を転換せず、その後イラクへの米軍増派に踏み切った。
ペイン氏は、中間選挙はトランプ氏の任期中最後の大きな選挙の関門であり、選挙の制約から解放された「レームダック」期は、国際舞台でかえって大きな混乱をもたらす可能性があるとみる。
『フォーリン・ポリシー』誌はイラン戦争を「終わりが見えない」と表現した。ペイン氏によれば、トランプ氏は中間選挙前にはイランを攻撃しないと約束しており、選挙後に緊張緩和を探るのか、それとも圧力を強めるのか、専門家の見方は分かれている。
任期最後の2年のトランプ氏は、世界に何をもたらすか 『エコノミスト』誌 は、各国はトランプ氏が単純なレームダックになるという幻想を捨てるべきだと警告する。
政界では、トランプ氏が「かつてないほど影響力を失ったレームダック」になるとの見方が広がるかもしれない。議会がその意志に挑み、金融市場も経済政策に高い代償を突きつける可能性があるためだ。
だが同誌は、トランプ氏がそうした制約を意に介さず、軍の最高司令官である限り、「世界を作り変える、あるいは壊す」ことで歴史に名を残そうとする可能性があると論じる。
同誌はトランプ氏を年老いたシルバーバックのゴリラにたとえた。群れの中で従わない者にはとりわけ攻撃的だが、他の群れの強いオスと向き合うときは、実際の格闘より威嚇を好む、というものだ。
これは同誌の政治的な比喩であり、トランプ氏の今後の行動を確定的に予測したものではない。
退役海軍大将のウィリアム・マクレイブン氏(William McRaven)は10月20日、米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』に「米国の力の限界」を寄稿し、別の角度から警鐘を鳴らした。
米国は長年、軍事力によって政治目的を達成できると過信してきた。イラン戦争はその最新の例であり、戦争目的は二転三転し、結果は米国の利益にとっても中東にとっても非常に悪いものになったという。
この二つの見方を合わせると、トランプ政権後半の核心的な矛盾が浮かび上がる。
大統領にはなお強大な行動力が残されている一方、その行動がもたらす結果まで同じようにコントロールできるとは限らない。
議会の影響力は確かに存在する。2024年4月に成立した安全保障補正予算には、台湾を含むインド太平洋地域への支援が盛り込まれ、米国が台湾に提供した軍需品の補充にも充てられた。
『エコノミスト』誌は、トランプ氏が同盟国により多くの怒りを向ける可能性があるとし、習近平国家主席のような強力な相手は報復の対象になりにくいと比喩的に指摘した。
ハース氏も、トランプ氏が残り2年で中国やロシアとの直接衝突を避ける可能性が高いとみている。
いずれも分析者の判断であり、既定の政策とみなすことはできない。
議会は国防権限法や予算、人事を通じて政策に影響を与えられるが、重要な外交交渉や安全保障上の意思決定では、なお大統領が大きな権限を持つ。
国内の予算闘争もワシントンの注意を分散させるだろう。
バインダー氏は、新議会が処理すべき課題として、ほぼすべての政府機関の通年予算、国防計画の授権、政府の債務上限の引き上げを挙げる。
政治資源がこうした争いに費やされるなか、ワシントンがアジアの安全保障にどれだけの関心を注げるのか。台湾が引き続き注視すべき問題だ。
任期最後の後半戦、権力は議会に戻るのか 過去3人の大統領の経験が示すのは、中間選挙は大統領権力の終点ではなく、権力の再配分の起点だということだ。
この歴史的な考察は、「議会の主導権を失ったトランプ氏はレームダックになるのか」という問いに答えようとするだけではない。
より長期的な問いにも触れている。米大統領の最後の任期が後半に入ったとき、議会が権力を取り戻し始めるのか、それともホワイトハウスが手元の行政権をさらに集中的に使うのか、という問いだ。
ブルッキングス研究所 のウィリアム・ガルストン氏(William A. Galston)は「民主党議会は行政権を抑制し得る」とする節で、トランプ氏の2期目は主に大統領令など行政権を使って政策を進めてきたと指摘する。
民主党が議会を握り、政権の措置に異議を唱え続ければ、行政権の拡大を遅らせ、あるいは阻止し、後任の大統領が同じ手法を取るのも難しくなる可能性があるという。
一方、マクレイブン氏の見方はより悲観的だ。行政権の集中は歴代政権に共通しており、議会から時折異論が出ても、この流れが変わる兆しは今のところ見えないとみる。
11月3日、投票所に向かう米国の有権者が議会の主導権を決める。
さらに問われるのは、議会を通じて自らのアジェンダを進められなくなり、自身の再選のために票を求める必要もなくなったトランプ氏が、手元に残る権力をどう使うのかだ。
それは今後2年間の米国、さらには世界の公共の課題の基調を形づくる。
議会で抑制される米大統領が、国際舞台でも自制するとは限らない。