第二次世界大戦の終結から間もない1946年、トルーマン大統領率いる民主党は中間選挙で下院の56議席を一挙に失い、多数派の座を共和党に明け渡した。
米下院の公式記録によると、1946年から2022年までに実施された20回の中間選挙のうち、大統領の所属政党が下院で議席を減らしたのは18回に上る。例外的に議席を増やしたのは、1998年のクリントン政権と2002年のジョージ・W・ブッシュ政権の2回だけだ。
それから約80年。トランプ大統領は、米誌『タイム』が「トルーマン氏以来の低水準」と伝える選挙前支持率で、11月3日(日本時間11月4日)の中間選挙を迎える。
共和党は、戦後3度目となる「大統領与党の議席増」を実現できるのか。
なぜ中間選挙では大統領与党が苦戦するのか 米連邦下院歴史局 による歴代の議席推移を見ると、第二次世界大戦後の中間選挙は、大統領与党にとって厳しい結果が続いてきた。大統領の所属政党は平均して約26議席を失っており、2010年にはオバマ政権の民主党が64議席、1994年にはクリントン政権の民主党が54議席を減らした。トランプ氏の1期目だった2018年も、共和党は42議席を失っている。
米国政治における「中間選挙のジンクス」について、専門家の説明はさまざまだ。
コーネル大学政府学部のピーター・エンス教授(Peter Enns)は『タイム』誌 に対し、中間選挙では二つの方向から政権への不満が表面化すると指摘する。大統領の支持層は政策の進展が遅いことに不満を抱き、反対層は政権運営への不満をさらに強めるという。
ノースイースタン大学の政治学教授、コスタス・パナゴプロス氏(Costas Panagopoulos)は、有権者がワシントン政界の「政党間のバランス」を保とうとする心理が働く可能性を指摘する。
一党がホワイトハウスと連邦議会上下両院をともに掌握している場合、「有権者が政府の対応や現行政策に不満を持った際、共和党以外に責任を問う対象がない」ためだ。
ジョージタウン大学のミシェル・スワース教授(Michele Swers)は、中間選挙は「事実上、大統領への信任投票になる」と説明する。大統領自身の名前は投票用紙になくても、有権者の政権に対する評価が所属政党の候補者に反映されるためだ。
1946年の中間選挙で大敗した2年後、トルーマン大統領は1948年大統領選で再選を果たした。写真は1948年11月、ミズーリ州セントルイスのユニオン駅で、「デューイ、トルーマンを破る」と誤報した米紙シカゴ・トリビューンを掲げるトルーマン氏。(AP通信)
ジンクスを打ち破った2つの例外、トランプ氏に欠けるものは 大統領与党が中間選挙で議席を増やすには、例外的な政治環境が必要になる。
一方、『タイム』誌は、ピュー・リサーチ・センターが10月上旬に実施した世論調査でトランプ氏の支持率が30%となったことについて、中間選挙前の大統領支持率として「トルーマン氏以来の低水準」と伝えた。
CNN が10月21日に発表した世論調査でも、トランプ氏の支持率は32%にとどまり、2018年の中間選挙前を7ポイント下回った。
共和党支持層での支持率も、2025年2月の88%から74%へと低下している。
保守系のFOXニュース で選挙分析を担当するレミ・ヌマ氏(Rémy Numa)は、支持率低下の背景としてイラン戦争を挙げる。トランプ氏の支持率は開戦前の44%から36%へ低下したと分析している。
ヌマ氏は、トランプ氏がこれまでさまざまな政治的逆風を乗り越えてきた一方、新型コロナウイルス禍では大きな打撃を受けたとし、現在はイラン情勢が新たな対外リスクになっているとの見方を示した。
AP通信とシカゴ大学NORC公共問題研究センターが9月下旬に実施した世論調査では、生活費問題へのトランプ氏の対応を支持する米国の成人は17%にとどまった。
2026年10月25日、米ミシガン州ポートヒューロンのマクモラン・プレイスで開かれた選挙集会で、映像を見るトランプ大統領。(AP通信) トランプ氏は選挙終盤、各地で集会を重ね、自ら前面に立つ戦略を取っている。
AP通信によると、トランプ氏は支持者に「目を閉じて、私が投票用紙に載っていると想像してほしい」と呼びかけた。
ホワイトハウスのデービス・イングル報道官(Davis Ingle)は、トランプ氏について共和党の「疑う余地のない指導者であり、最高の代弁者、比類のない動員者」と評価した。
共和党全国委員会(RNC)のジョー・グルーターズ委員長(Joe Gruters)も今年初め、FOXニュースのインタビューで「我々の秘密兵器はトランプ大統領だ」と語っている。
ただ、AP通信は、トランプ氏が2018年にも同様に選挙集会を重ねたものの、民主党による下院の多数派奪還を阻止できなかったと指摘している。
ミシガン州の世論調査専門家リチャード・チュバ氏(Richard Czuba)は、「選挙の分岐点は、有権者がトランプ氏をどう評価するかだ」と指摘する。現在はトランプ氏を支持しない有権者が、支持する層を上回っている。
選挙集会に出席するトランプ米大統領。(AP通信) トランプ氏の1期目にあたる2018年は、経済への評価は悪くなかったものの、支持率はすでに低い水準にあった。
ギャラップ が同年10月15~28日に実施した調査では、トランプ氏の支持率は41%で、1974年以降の中間選挙前の平均52%を下回っていた。
その一方、米国人の55%が経済状況を「極めて良い」または「良い」と評価し、経済評価の差し引きはプラス43と、1994年以降の平均プラス10を大きく上回っていた。
ギャラップは当時、好調な経済だけではトランプ氏の低支持率を相殺しきれない可能性があると分析していた。
結果として、共和党は下院で42議席を失い、民主党は41議席を増やした。一方、共和党は上院では2議席を増やし、知事選では6ポストを失った。
トランプ政権1期目の中間選挙 上下両院の議席増減。(ストームメディア作成) トランプ政権1期目の中間選挙 全米の知事ポスト増減。(ストームメディア作成) 米紙『ワシントン・ポスト 』、ABCニュース、調査会社イプソス(Ipsos)が10月9~13日に共同で実施した世論調査では、トランプ氏の支持率は33%と、1期目を含めた同調査での最低水準となった。
経済政策への支持率も28%にとどまり、2018年の同時期の49%を大きく下回った。
回答者の約4分の3が、トランプ氏のインフレや生活費への対応を支持していない。48%は、トランプ氏が2025年にホワイトハウスへ復帰した時点と比べ、自身の家計状況が悪化したと答えた。
『ワシントン・ポスト』とABCニュースによると、この割合は1986年以降に歴代大統領について同様の質問をした中で最も高い。
2026年10月23日、米フロリダ州フォートマイヤーズのフロリダ・ガルフ・コースト大学内アリコ・アリーナで開かれた選挙集会で演説するトランプ大統領。(AP通信)
トランプ氏の低支持率は共和党の選挙戦にどう影響するのか トランプ氏の支持率低迷を受け、民主党系の選挙ストラテジストからは、大幅な議席増を予測する声も出ている。
民主党のベテラン選挙ストラテジスト、ジェームズ・カービル氏(James Carville)は今年初め、今回の選挙について共和党の「全面的な潰走」になるとの見方を示した。
カービル氏は、民主党が下院で「少なくとも」25議席、最大45議席を増やし、上院でも多数派を奪う可能性が高いと予測している。
保守系雑誌『ナショナル・レビュー 』のコラムニスト、ジェフリー・ブレハール氏(Jeffrey Blehar)も8月のコラムで、世論調査が正しければ共和党は11月の選挙で大きく議席を失うとの見方を示した。
パナゴプロス氏は、大統領の支持率について、中間選挙の結果を予測する上で「最良の指標の一つ」だと説明する。
米公共ラジオNPR の集計では、大統領の支持率が50%を下回る場合、大統領与党は下院で通常より平均9議席多く失う傾向がある。
ただしNPRは、直近3回の中間選挙では、大統領の支持率が低くても与党の議席減が比較的小幅にとどまったと指摘する。その大きな理由の一つとして、実質的に競争力のある選挙区そのものが減少していることを挙げている。
FOXニュースのヌマ氏は、今回の選挙を左右する有権者を二つのグループに分けて分析している。
一つは、トランプ氏への不満が強く、共和党への反対票を投じる可能性が高い層だ。ヌマ氏は、この層の動向によって民主党が下院多数派を奪う可能性があるとみており、FOXニュースの選挙予測では民主党が少なくとも223議席を獲得するとの見通しが示されている。
ヌマ氏は、こうした有権者が必ずしも上院の多数派を民主党に委ねるとは限らないと分析する。民主党が上院で多数派を奪うには、2024年大統領選でトランプ氏が2桁差で勝利した州でも議席を獲得する必要があるためだ。
パナゴプロス氏も、大統領与党が一部の議席を失うことと、野党が議会の多数派を奪うことは同じではないと指摘している。