米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)CEOのジェンスン・フアン氏は先日、著名なポッドキャスト番組「レックス・フリードマン・ポッドキャスト(Lex Fridman Podcast)」の第494回に出演し、2時間以上にわたる対談を行った。世界のテクノロジー業界から高い注目を集めたこのインタビューで、フアン氏はAI革命や計算能力の拡張、リーダーシップの哲学について語ったが、最も波紋を呼んだのはTSMCに対する同氏の評価である。
フアン氏は、エヌビディアとTSMCは30年にわたり協力関係にあり、その取引額は数百億ドル、あるいは1000億ドル規模に達する可能性があるにもかかわらず、両社間で正式な契約を交わしたことは一度もないと明かした。さらに「TSMCに対する外部の最も深い誤解は、技術こそが彼らのすべてだと思い込んでいることだ」と直言している。
トランジスタではなく数百社の需要を調整する「奇跡のシステム」
インタビューの中で、番組ホストのレックス・フリードマン氏がTSMCの企業文化と成功の秘訣をどのように理解しているかと問うと、フアン氏の回答は多くの人の予想を裏切るものだった。
同氏は、TSMCに対する最も深い誤解は、その競争力が完全に技術に由来すると見なされている点にあると指摘した。まるで他の企業がより優れたトランジスタを開発すれば、TSMCは取って代わられるかのような見方だ。フアン氏は、トランジスタ、メタライゼーション(金属配線)システム、パッケージング技術、3Dパッケージング、シリコンフォトニクスなど、TSMCの技術が世界トップレベルであることは認めつつも、これらがTSMCの真の代替不可能性の理由ではないと強調した。
フアン氏は、TSMCの最も卓越した点は、数百社に上る顧客の動的な需要を同時に管理する能力だと分析している。顧客の需要は絶えず変動し、生産能力を拡大する企業もあれば縮小する企業もあり、急遽ウエハーの投入を求めるケースや一時停止を求めるケースなど、各社の優先順位が複雑に交錯する状況を説明した。TSMCがこのような流動性の高い環境下で精密な調整を行えることについて、フアン氏はその製造システムを「奇跡的(miraculous)」と称賛している。
30年無契約:1000億ドル規模の「握手による取引」
フリードマン氏がエヌビディアとTSMCの緊密な関係に言及した際、フアン氏は驚くべき事実を明かした。この協力関係は30年に及び、取引額は数百億から1000億ドルに上る可能性があるものの、両社間には正式な商業契約が存在しないというのだ。
この発言はインタビュー開始から1時間13分付近で飛び出したものだが、わずかな言葉が世界のテクノロジーメディアやSNS上で瞬く間に議論を巻き起こした。法的文書を積み重ねることが常識となっている現代のビジネス界において、時価総額の合計が5兆ドルを超える両社が、最も中核的なビジネス関係を「信頼」のみで維持しているという事実は、それ自体が極めて常識外れの物語である。
技術と顧客サービス:TSMC独自の双軌文化
フアン氏はTSMCの企業文化をさらに踏み込んで分析し、同社が一見矛盾する2つの特質を併せ持っていると指摘した。極めて技術の推進に注力する一方で、強力な顧客サービス志向も持ち合わせているという。
半導体業界において、純粋な技術系企業は往々にして顧客関係の構築を苦手とし、サービスを得意とする企業は技術面で後れを取ることが多い。しかしTSMCはその両方を同時に実現しており、この双軌並行の文化こそが、世界のファウンドリ(半導体受託製造)市場においてTSMCの地位が揺るがない根本的な理由だとフアン氏は見ている。
チャン氏からのトップ就任打診を固辞「私にはすでに仕事がある」
インタビューの中でフアン氏は、業界で長年囁かれていた噂を初めて自らの口で認めた。2013年に、TSMC創業者のモリス・チャン(張忠謀)氏からTSMCのCEO就任を打診されたという。フアン氏は軽率に断ったわけではなく、深く名誉なことだと感じたが、最終的にはエヌビディアに残る道を選んだと語った。
これについてフアン氏は、当時から認識しており、現在も変わらず「TSMCは歴史上最も影響力のある企業の1つである」と考えていると述べた。さらに、チャン氏については生涯で最も尊敬するビジネスリーダーであり、個人的な友人でもあると評した。
この事実の開示は、両者の関係に新たな理解をもたらした。フアン氏とチャン氏の間の信頼関係は、単なる両社のビジネス上の付き合いにとどまらず、深い個人的な友情に裏打ちされたものだということだ。
サプライチェーンへの懸念と「必要なものを伝え、実現すると信じる」姿勢
インタビューの別の場面で、フリードマン氏はサプライチェーンのボトルネックに対する懸念についてフアン氏に尋ねた。具体的には、オランダの半導体製造装置大手ASMLが手掛けるEUV(極端紫外線)露光装置、TSMCの「CoWoS」と呼ばれる先端パッケージングの生産能力、そして韓国のSKハイニックス(SK Hynix)のHBM(広帯域メモリー)などを挙げた。
フアン氏の回答は簡潔かつ力強いものだった。常にこれらの問題に注視しているのは事実だが、焦りはないという。なぜなら、すでにパートナー企業に自らのニーズを伝え、相手もそれを明確に理解して達成を約束しており、彼自身もパートナーを信じているからだという。
このような「信頼主導型」のサプライチェーン管理モデルは、契約による保証やマルチベンダー戦略が重んじられる現代のビジネスにおいて極めて稀である。しかし結果を見れば、エヌビディアは過去数年間で前例のないスピードで成長し、現在も拡張を加速させている。この信頼関係は、いかなる法的文書よりも効果的に機能しているようだ。
信頼をめぐるビジネスの寓話
フアン氏はインタビューの中で、パートナー企業のCEOに対して業界のトレンドを説明し、第一原理に基づいて未来を演繹し、図表を描いて論理を解説するために膨大な時間を費やしていると何度も言及した。彼らがフアン氏を信頼し、フアン氏もまた彼らを尊重しているからこそ、数十億ドル規模の設備投資を依頼した際にも、最終的には実行に移してくれるのだと語る。
AIの計算能力に対する需要が爆発的に増加し、世界の半導体サプライチェーンが極度の緊張状態にある中、フアン氏はこのインタビューを通じて明確なメッセージを発信した。それは、テクノロジー業界の最高峰におけるパートナーシップにおいて、信頼の価値は契約を遥かに凌駕するということだ。
そしてTSMCが代替不可能である理由は、世界で最も先進的な半導体を製造できるからというだけでなく、世界の数百社に上る巨大テクノロジー企業が自社の命運を喜んで委ねるほどの信頼システムを築き上げたことにある。