日本は急速な円安を食い止めるため、過去最大規模の資金を為替介入に投じたが、市場では再び1ドル=160円の節目を試す動きが強まっている。
日本財務省が8月28日に公表したデータによると、7月30日から8月26日にかけて、日本は総額15兆3993億円の円買いを実施した。ロイター通信の換算では約965億ドルに相当し、単月として過去最大の規模となった。
日米による協調的な円買いを受け、円相場は一時、1ドル=164円に迫る水準から155円付近まで反発した。しかし、その効果は長続きしなかった。
8月29日午前の市場では、ドル円相場が一時1ドル=160.20円まで上昇し、それまでの160.16円を上回った。円相場は再び1ドル=160円台まで下落したことになる。1000億ドル近くに相当する介入も、現時点では1カ月足らずの時間を稼ぐにとどまった形だ。
過去最大規模の介入も、円は再び1ドル=160円台に
日本銀行(日銀)の制度説明によると、為替介入は財務大臣が決定し、日銀がその指示に基づいて市場で実務を担う。
今回の対応が異例なのは、介入額が過去最大規模となったことに加え、米国も異例の形で円買いに協調した点にある。急激な円安がアジアの金融市場におけるシステミックリスクへと発展することを防ぐ狙いがあった。
ロイター通信や米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』によると、日米の協調的な対応を受け、円相場は40年ぶりの安値圏から1ドル=155円台まで反発した。円売りポジションの買い戻しや、キャリートレードの巻き戻しも一部で起きた。
しかし、市場が日米金利差や財政政策、資金の流れを改めて見直すなか、円相場は短期間で再び160円近辺まで下落した。
8月29日午前にドル円が一時160.20円をつけたことは、日本政府が介入によって短期的に大きな相場変動を生み出すことはできても、外貨準備を使った円買いだけで為替相場の方向を変えることの難しさを示している。
円安をもたらしている基本的な条件が変わらない限り、当局による円買いも最終的には市場に吸収される可能性がある。
ウォーシュ氏のタカ派発言、日本の円防衛をさらに難しく
円相場が再び1ドル=160円台まで下落した主な要因の一つが、米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長が示したタカ派姿勢だ。
FRBが公表したジャクソンホールでの講演によると、ウォーシュ氏は米国のインフレ率が依然として高すぎると指摘し、直近の経済指標だけでは基調的なインフレが明確に改善したと判断するには不十分だとの見方を示した。
同時に、米国経済や雇用、企業投資は引き続き底堅く、現在の金融環境を「引き締め的」と表現するのは難しいとも指摘した。
発言を受け、市場ではFRBが9月に利上げするとの観測が強まり、米国債利回りとドルがともに上昇した。
米国の金利見通しが上向き、ドル建て資産の利回りが高まれば、投資家にとって低金利の円を売り、米国債などの高利回り資産へ資金を振り向ける動機が強まる。
これが、日本の為替介入の効果が短期間で薄れた主因の一つだ。財務省は市場で大量の円を買うことはできても、米国の金利動向を単独で変えることはできない。
ウォーシュ氏のタカ派姿勢が強まるほど日米金利差の縮小は遅れ、円相場を下支えするための日本側のコストも高まる。
ヘッジファンド、2週連続で円売りポジションを積み増し
8月29日午前の市場報道によると、ヘッジファンドは2週連続で円のショート(売り)ポジションを積み増している。
これは、日本政府が過去最大規模の資金を投じて介入した後も、機関投資家が円安を見込む取引から完全には撤退していないことを示している。
こうした取引の背景にあるのは、日本政府が日米金利差、財政拡張、エネルギー輸入といった構造的な問題を短期間で同時に解決するのは難しいとの見方だ。
日銀の利上げペースがFRBに比べて遅い状態が続けば、低金利の円を借り、高い利回りが期待できるドル建て資産に投資するキャリートレードは続きやすい。
一方、円売りポジションが集中するほど、市場のリスクも大きくなる。
日本政府が再び大規模な介入に踏み切ったり、日銀が突然利上げしたりすれば、投資家が円の売りポジションを一斉に買い戻す可能性がある。その場合、円相場が短期間で急上昇し、世界の株式・債券市場の値動きが大きくなる恐れもある。
ドル円が160円台にある現在、市場では相反する二つの力が働いている。
一方では、米国の金利上昇とヘッジファンドによる円売りの積み増しが、円安圧力を強めている。もう一方では、日本政府による再介入への警戒が、投資家による一段の円売りを抑える要因となっている。
財政拡張と利上げ、政策は相互に制約
日本政府は為替相場の安定を目指す一方、減税や歳出拡大を求める政治的な圧力にも直面している。
ロイター通信が日本政府や『読売新聞』の情報を基に報じたところによると、2027年度の各省庁による概算要求は130兆~140兆円規模に達し、4年連続で過去最大を更新する可能性がある。
財務省が計上する国債の償還費と利払い費も36兆6400億円と、過去最高の水準に達している。
高市政権は、新規国債の発行額を40兆円程度に抑える方針を示す一方、食料品の消費税率引き下げを掲げ、外貨資産を政策財源として活用する案も検討している。
経済学者からは、歳出の増加ペースが実際の債務削減を上回れば、政策全体としては財政拡張的な効果を持つとの指摘が出ている。
日銀が政策金利を引き上げれば、日米金利差を縮め、円相場を下支えすることができる。一方で、政府の利払い費や住宅ローン、企業の資金調達コストは上昇する。
逆に低金利を維持すれば、円安がさらに進み、エネルギーや食料品、工業用原材料などの輸入価格を押し上げる可能性がある。
金融政策、財政政策、為替政策は、互いに制約し合う状況にある。このため市場では、日本は単独の為替介入に依存するのではなく、財務省、日銀、首相官邸が連携して包括的な政策を打ち出す必要があるとの見方が出ている。
円安、台湾の輸出競争力にも影響
円相場が1ドル=160円台まで下落したことで、台湾への第一の影響として浮上するのが産業競争力だ。
日本の工作機械、機械設備、自動車、化学素材、電子部品などでは、円安によって日本企業がドル建ての販売価格を引き下げやすくなる。国際市場で競合する台湾製品にとっては、価格面での圧力が強まることになる。
特に影響を受けやすいのが、工作機械や産業用設備、一部の伝統産業だ。
これらの分野では日本企業との競争が激しく、先端半導体ほど利益率が高くないため、為替による価格差が顧客の発注判断に影響しやすい。
台湾企業が受注を確保するため値下げすれば、粗利益率が低下する。一方、価格を維持すれば、市場シェアを失う可能性がある。
日本から輸入する設備や素材、部品の価格が相対的に割安になるため、日本製設備を調達する企業にとってはコスト面で追い風となる。
ただしその一方で、日本の重要な素材や設備への依存度がさらに高まる可能性もある。
円ショート反転なら台湾株にも波乱
世界の投資家は長年、低金利の円を借り入れ、米国株やハイテク株、米国債など、より高い収益が期待できる海外資産に投資するキャリートレードを活用してきた。
ヘッジファンドが2週連続で円の売りポジションを増やしていることは、こうした取引がなお拡大している可能性を示している。
日本政府が再び市場介入に踏み切ったり、日銀が利上げを加速させたりすれば、円相場が短期間で急上昇する可能性がある。
そうなれば、円建ての負債を返済するため、投資家が海外の株式や債券を売却する動きが広がり、アジア株や台湾株の値動きを増幅させる恐れがある。
台湾にとって、円安の長期化はすでに輸出競争の圧力となっている。一方、円相場が急反転すれば、今度はキャリートレードの巻き戻しに伴う資金流出が金融市場を揺さぶる可能性がある。
円安が続く場合も、円相場が急速に上昇する場合も、台湾の産業と金融市場にはそれぞれ異なる形で影響が及ぶことになる。