台湾・ 国民党の鄭麗文(チェン・リーウェン)主席が就任して以来、同党と中国共産党との信頼関係修復に全力を注ぐ中、彼女が訪中して習近平総書記と行う「鄭・習会談」の行方が、党内外で大きな関心事となっている。
民進党の頼清徳政権は、国民党が立法院(国会)で国防特別予算を執拗に阻止している背景には、鄭氏が北京で習近平氏に会うための「交換条件」があるのではないかと繰り返し疑義を呈してきた。これに対し鄭氏は、「92年コンセンサス」と「台湾独立反対」以外に前提条件はないと否定。さらに最近では、「2026年上半期にまず訪中して習近平氏と会談し、その後に訪米する」という構想を度々公言している。
異例の「公言」と自信 中国人民解放軍が「正義使命-2025」と称する台湾包囲軍事演習の開始を宣言した2025年12月29日、鄭氏はラジオ番組の独占インタビューに出演した。この極めて敏感なタイミングにもかかわらず、彼女は臆することなく持論を展開し、「2026年上半期の北京訪問はずっと心に描いていたことだ」と明言した。北京訪問を米国訪問より優先させる理由について、習氏との会談には重大な戦略的意義とメッセージ性があり、国際社会の注目を集めることができるからだと説明している。
さらに、国民党の李乾龍(リー・チエンロン)副主席兼秘書長も、「鄭・習会談は2026年3月に行われる可能性がある」と発言し、情報をさらに具体化させた。鄭氏は即座にこの具体的な時期を否定したものの、党トップ層が訪中に向けて極めて積極的かつ確信めいた態度を見せていることから、党内外では「国民党と中国共産党 の間ですでに暗黙の了解があり、2026年6月末までの会談実現は既定路線ではないか」との見方が広がっていた。
中国人民解放軍が2025年末に台湾を包囲する形で「正義使命-2025」演習を実施する中、鄭麗文氏は中国訪問の構想について言及することを避けなかった。(写真/中国人民解放軍東部戦区の公式サイト提供)
鄭麗文氏の強気な言動に違和感 国民党内から漏れる懸念 しかし、中台関係に精通した国民党内の関係者の間では、2026年上半期の「鄭・習会談」実現に対して、当初の楽観論から慎重論へと空気が変わりつつある。その理由は、鄭氏らの会談に向けたアピールがあまりにも「高らか」すぎるからだ。これは、国共トップ会談の調整は極秘裏に進めるという過去の慣例に全くそぐわない。
北京の沈黙と「個人の期待」 この元高官は現状をこう分析する。「鄭氏が公然と習氏との会談意欲を語り、時期まで指定しているという事実は、逆に言えば国共両党間で正式な交渉が始まっていないことを露呈している」。つまり、鄭氏が個人の期待を一方的に語っているに過ぎないというのだ。
北京側もこのメッセージを認識しているはずだが、「鄭・習会談」のメリットとデメリットを天秤にかけている段階であり、彼女の希望に応えるかどうかは未定とみられる。実際、中国の対台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室(国台弁)の反応は保守的だ。「92年コンセンサスの堅持と台湾独立反対の立場であれば、交流強化を歓迎する」という原則論を繰り返すのみで、具体的な確約の兆候は見られない。また、鄭氏の意向は、張栄恭氏や蕭旭岑氏といった両岸事務担当の副主席を通じて既に北京へ伝えられている可能性はあるものの、北京高層部の判断要因は国民党側の想定よりはるかに複雑であると推測される。
「話が決まれば口をつぐむ」のが中台の流儀 中台関係に詳しい別の国民党関係者も、過去の事例を挙げて疑問を呈する。2005年の連戦氏による「連・胡会談」、2015年の朱立倫氏による「朱・習会談」、そして馬英九前総統によるシンガポールでの「馬・習会談」や2024年の「馬・習会談(第2回)」に至るまで、両岸の指導者会談はすべて、水面下での長期間にわたる隠密な交渉を経て実現した。
双方が対外発表を行うのは、日程が完全に確定してからである。さらに、国民党トップの北京入りが決まったとしても、胡錦濤氏や習近平氏といった最高指導者といつ会えるかは、会談の数時間前まで確定しないことが常であった。
この関係者は、「鄭氏や李氏が会談を話題作りとして公に語っているうちは、まだ何も具体化していない証拠だ」と断言する。「いつか鄭氏らが記者からの質問に対し、言葉を濁したり、話題をそらしたりし始めた時こそ、会談に向けた交渉が真に進展しているサインだろう」と分析している。
党内関係者は、かつて「連・胡会談」に関わった鄭麗文氏が、現在になって「鄭・習会談」について高らかに語っていること自体が、むしろ話がまだ具体化していない可能性を示していると指摘する。写真は2005年4月、当時の国民党主席・連戦氏(中央)が中国を訪問し、中国共産党総書記の胡錦濤氏と会談した際の様子。(写真/郭晋瑋撮影)
選挙前に「抗中保台」のカードを献上?鄭氏の訪中計画に地方候補が戦々恐々 「鄭・習会談」に進展が見られないことは、2026年の統一地方選挙を控える国民党内の候補者たちにとって、むしろ朗報と言えるかもしれない。
ある国民党のベテラン党務関係者は、「一部の党幹部が会談実現を急いでいるのを除けば、地方自治体の首長や立法委員(国会議員)を含む公職者の大多数は、2026年上半期の鄭氏の北京訪問に反対している」と明かす。
現在、野党である国民党が訪中して訴えられるのは「中台平和」や「中華民族としての感情」といった抽象的なテーマに限られる。これは鄭氏個人の政治的ステータス向上には寄与するかもしれないが、国民党の地方選挙情勢にとっては「百害あって一利なし」となる可能性が高い。民進党に「抗中保台(中国に対抗し台湾を守る)」というスローガンを煽る格好の燃料を与え、国民党候補者は「親中派(赤帽子)」というレッテル貼りの圧力に晒されることになるからだ。
台中市長・盧秀燕氏の地盤崩壊の懸念 台 湾中部の国民党選挙対策関係者はさらに深刻な懸念を口にする。「2026年上半期には、台中市第2選挙区の立法委員補欠選挙が行われる可能性がある。もしその時期に鄭氏が訪中すれば、選挙情勢に直撃するだろう。仮に国民党がこの議席を失えば、国会最大党の座を民進党に明け渡すことになるだけでなく、鄭氏の就任後初陣での敗北となり、求心力は大きく損なわれる。さらに致命的なのは、次期総統候補とも目される盧秀燕(ルー・シウイェン)台中市長の本拠地が崩されることであり、2026年の地方選、ひいては2028年の総統選において、国民党に壊滅的な衝撃を与えることになる」
党内主流派は「選挙後の訪中」を希望、だが決定権は北京に 現在、国民党内の主流意見は、「鄭・習会談」の推進を一旦保留し、まずは2026年の地方選勝利に全力を注ぐべきだというものだ。その上で、2026年末から2027年初頭にかけて、勝利の実績を引っ提げて堂々と訪中すれば、会談は中台平和により大きなプラス効果をもたらし、2028年の総統選にも弾みがつくという計算だ。
しかし、内情を知る関係者によれば、2026年上半期の訪中であれ、選挙後の訪中であれ、それは結局のところ国民党側の「片思い」に過ぎないという。「鄭・習会談」の有無を決定するのは国民党ではなく、中国の対台湾政策トップの意向次第だからだ。政治的な現実として、中国が「タイミングが悪く、メリットがない」と判断すれば、国民党側がいかに努力しても実現は不可能だ。逆に、習近平氏が「会うべきだ」と判断すれば、鄭氏に拒否権はなく、党内の反対を押し切ってでも北京へ行かざるを得ない。もし何らかの理由をつけて断れば、「次」の機会は二度と巡ってこないだろう。
党内関係者は、鄭麗文氏が習近平氏(左から2人目)と会談すれば、2026年の選挙情勢に影響を及ぼす可能性があると懸念している。(写真/米ホワイトハウス公式サイト提供)
多忙を極める習近平氏、鄭氏と会う「動機」はどこにあるのか 国民党に近い情報筋によると、仮に2026年上半期に「鄭・習会談」が実現するとしても、その時期は5月から6月の間になる可能性が高いという。その理由は、習近平氏および中国共産党指導部の過密スケジュールにある。
現在から4月にかけて、習氏の外交日程は極めてタイトだ。1月から2月の旧正月(春節)前にかけて、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領、アイルランドのマーティン首相、ドイツのメルツ首相、英国のスターマー首相ら各国首脳の訪中が相次いで予定されている。3月には中国の最重要政治日程である「両会(全国人民代表大会・政治協商会議)」が開催され、4月には米国のトランプ大統領による国賓訪中という一大イベントが控えている。
このため、3月から4月の間に「鄭・習会談」をねじ込むのは至難の業であり、習氏側に「どうしても鄭氏に会わなければならない」という強い動機がない限り、日程調整は困難を極めるだろう。
習氏にとってのメリットは? 国民党関係者は、「問題は、習氏にとって鄭氏と会う必然性があるかどうかだ」と指摘する。周知の通り、習氏は3期目に入り、台湾政策の基本方針を「新時代の党の台湾解決方略」として定めて以降、対米競争への対応に注力しており、台湾問題の最前線に自ら立つことは少なくなった。そのため、台湾からの来訪者が習氏と面会できるケースは稀だ。
2024年4月に慣例を破って馬英九前総統との「馬・習会談(第2回)」に応じたのは、馬氏が「古くからの友人」であることに加え、頼清徳新総統の就任(5月20日)直前というタイミングだったからだ。歴史的意義のある会談を通じ、台湾市民および民進党の新政権に対し、「台湾独立を企てず、両岸が同じ中華民族であることを認めれば、対話は可能だ」というメッセージを発信する狙いがあった。
2024年4月、習近平氏は台湾からの訪問者と会わないという従来の慣例を破り、馬英九氏と「第2回馬習会」を行った。旧知の友人である馬氏を重視したことに加え、台湾の人々や新たに政権を担う民進党に対し、「台湾独立を志向せず、両岸が同じ中華民族に属するとの認識に立てば、対話は再開できる」というメッセージを発信する狙いがあったとされる。(写真/AP通信提供)
習近平が会うかどうかを決める 国民党は受動的に対応 しかし、頼清徳政権発足後、台湾側はこのメッセージを受け取らず、対中強硬路線を堅持しており、中台関係の緊張は続いている。 事情通は、「もし習氏が『鄭・習会談』を行うなら、膠着した中台関係の未来について新たな論述を発表するか、台湾の与野党へ北京のレッドライン(許容限界線)を明確に伝える必要がある場合だろう」と分析する。
逆に言えば、単に鄭氏と握手を交わして一時的な融和ムードを演出し、「92年コンセンサス・台湾独立反対」という既定路線を確認する程度であれば、対台湾政策のナンバー2である王滬寧(ワン・フーニン)全国政治協商会議主席の対応で十分ということになる。王氏も共産党最高指導部(政治局常務委員)の一員であり、格としては申し分ないからだ。
しかし、鄭氏側は「王滬寧氏との面会にとどまり、習氏に会えないのであれば訪中しない」という意向を示しているという。トップ会談でなければ戦略的意義が薄れる上、「親中派」というレッテルを貼られるリスクだけが残り、政治的な収支が合わないためだ。
中国側に太いパイプを持つ国民党幹部は、次のように結論づけている。「鄭氏は習氏との会談を強く望んでいるが、現時点で習氏側に彼女と会うだけの強力な動機や理由が見当たらない。2026年上半期の会談実現の可能性を完全に否定はしないが、この件に関して国民党に主導権はなく、北京の決定を待つほかないのが実情だ」。