台湾で10月に行われた国民党主席選挙は、元立法委員の鄭麗文氏の当選で幕を閉じた。しかし、この選挙の過程と結果、さらには誰が立候補し、誰が身を引いたのかという構図を左右した最大の要因の一つが、前主席・朱立倫氏による「黄復興党部」廃止の決断だった。 朱氏は2024年3月、国民党内で唯一残っていた特種党部である黄復興党部の廃止を正式に決定した。これは長年タブー視されてきた措置であり、深藍と呼ばれる保守強硬派から激しい反発を招いた一方、党内、とりわけ過去に党中央を率いた経験を持つ重鎮層からは一定の支持も集めた。
しかし代償は大きかった。朱氏は深藍系団体から「裏切り者」とまで激しく非難され、退役軍人向けの新組織を立ち上げても怒りは収まらなかった。党主席選への出馬を検討していた時期、投票権を持つ深藍系党員の反発の強さを前に、朱氏は最終的に立候補を断念する。この余波は、朱氏と直接関係のない人物にも及んだ。故・郝柏村元参謀総長の息子で、台北市長を務めた郝龍斌氏は、黄復興廃止とは無縁だったにもかかわらず、選挙戦の中で「廃止の責任」を負わされ、軍系票を大きく失う結果となった。これが敗因の一つになったと見る関係者は少なくない。
朱立倫氏(中央)は国民党主席在任中に黄復興党部の廃止を決定し、党内の保守派から反発を招いた。(写真/柯承惠撮影)
歴代主席が「考えただけ」で終わった決断を、朱立倫は実行した 黄復興党部の廃止は、実は朱氏以前の歴代主席も一度は検討したテーマだった。しかし、実際に手を付けた者はいなかった。黄復興は強固な動員力を持ち、党内選挙においても無視できない影響力を有していたからだ。 それでも廃止論が消えなかった理由は大きく二つある。一つは、黄復興党員の党籍管理が地方党部とは別系統で行われ、党内に「二重構造」を生んでいた点。もう一つは、財政難が続く国民党の予算の中で、黄復興党部が全体の3分の1から4分の1を占め、他の重要部門の運営を圧迫していた点だ。
12月15日、国民党は「黄復興再造準備委員会」の初会合を開催した。鄭麗文氏は席上、「再造の目的は党に貢献することであり、混乱を持ち込むことではない」と強調。過去の栄光に浸るのではなく、現在の厳しい現実を直視する必要があると訴えた。再造には党内の結束と継続的な努力が不可欠であり、全体の状況を正しく認識しなければ、内部対立や外部からの批判を招くだけだと指摘。問題から目を背けず、一つずつ解決し、困難な中でも成果を積み重ねていくことで、将来の選挙で有権者の信任を得るべきだと語った。
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鄭麗文はまた、黄復興の精神は引き継がれ、生まれた世代や若い幹部を中堅から育成し、参加を通じて学びながら、実践を通じて認識を築き、世代交代を達成し、組織の持続可能な発展を確保すべきだと強調した。時間が迫る中で、謙虚で現実的かつ堅実な態度を貫き、共通の信念と価値を持って共に戦うことこそが黄復興の再造を成功させ、党内の最も堅実で信頼できる核心勢力となる」と述べた。 鄭氏はさらに、黄復興の精神そのものは継承されるべきだとし、中堅世代や若手、青年層の幹部育成を重視する方針を明確にした。参加を通じて学び、実践の中で組織への帰属意識を育て、世代交代を進めることで、持続可能な組織を築く必要があると強調した。「時間は限られ、責任は重い。謙虚さ、現実性、そして粘り強さを持ち、共通の価値観のもとで共に前進してこそ、黄復興の再造は成功し、党内で最も堅実で信頼できる中核勢力になれる」と述べた。
鄭麗文氏(写真)は国民党主席選の公約の一つとして、黄復興組織の復活を掲げていた。(写真/顏麟宇撮影)
「憲法を守り、台湾独立に反対し、民進党を下野させる」 鄭麗文体制で進む「黄復興」再編の実像
鄭麗文氏が主導して「黄復興」を再編したことで、党内では黄復興委員会が今後どのように運営されるのかに関心が集まっている。結論から言えば、かつてのような特種党部としての復活ではない。関係者によると、新たな黄復興委員会は、各県市党部の外側に付随する形の組織と位置づけられ、各地域に存在する軍関係団体を横断的に束ねる枠組みとなる。 各地に陸軍官学校や憲兵学校の期別組織など、軍系団体があれば、県市ごとの黄復興委員会に参加可能で、正式な国民党党籍は必須条件とされない。党籍管理は従来通り地方党部が担い、黄復興側が独自に党員を管理する仕組みは採られない。
中央レベルでは、各県市の黄復興委員会が1人ずつ代表を選出し、当該県市党部の黄復興委員会主任委員を務めると同時に、地方党部の副主任委員を兼任する。その後、全国の主任委員の中から総会長を選ぶ形となる。経費については、中央党部が一部の車馬費を支援する予定だ。これにより、黄復興委員会は柔軟な組織となり、軍系団体との連携を強化しつつ、従来問題視されてきた財政負担や党籍管理の二重構造を解消する狙いがある。
党内では、退役軍人部が幅広く意見や提言を吸い上げ、黄復興に対する従来の固定的なイメージを転換できるかが鍵とみられている。時間との競争の中で、2026年の統一地方選挙、さらには2028年の政権交代を見据え、党内および国民党陣営における新たな戦力となることが期待されている。
黄復興委員会の中心思想は、「本党総理・総裁の遺訓を奉じ、三民主義を実践する」ことに加え、「憲法を守り、台湾独立に反対し、民進党を下野させる」ことだ。あわせて、台湾海峡やアジア太平洋、さらには国際社会の平和維持も掲げている。主な役割は、党員勧誘や人材推薦、失聯党員の党籍回復支援、党中央の方針や動員の周知、支援が必要な同志への調整、候補者決定後の配票や選挙動員など多岐にわたる。
黄復興委員会は「柔軟な組織」として位置づけられ、これまで指摘されてきた資金面や党籍管理の二重構造の課題解消を目指す。(写真/顏麟宇撮影)
黄復興の「体質転換」 焦点は組織より舵取り役の火種に 注目されるのは、黄復興委員会の準備委員会で主任委員を務める国民党副主席の季麟連氏だ。朱立倫氏の主席時代に黄復興党部が裁撤された後、季氏は朱氏への不満を強め、「将来、黄復興が裁撤された真相を明らかにする」とも口にしてきた。さらに主席選の期間中には、鄭麗文氏を強く後押しする中で「4号(選挙番号4号の郝龍斌氏を指す)は死んだ」といった発言もしており、党内でも問題視されている。孫文学校の張亜中氏の報道官である何啓聖氏は、季氏を疑問視する投書を2度行ったという。
準備委員会の執行長を務める羅睿達氏も、波紋を呼ぶ存在とされる。朱氏が主席に就任した当初は季氏と同様に朱氏を支持していたが、黄復興党部の裁撤をめぐっては「本当に裁撤するなら、朱氏は黄復興と進退を共にし、主席を辞任すべきだ」と批判した。加えて、羅氏については、メディアが過去に本名が羅星亞であること、憲兵の上尉として連長を務めていた時期に事件で服役した経歴があることを報じたこともある。
黄復興委員会が国民党の体制内で復活すること自体は既定路線で、鄭麗文氏も主席選で掲げた公約を実行に移した形だ。ただ、党内の不安は、かつての黄復興党部という「特種組織」そのものへの警戒から、いまや黄復興委員会を誰が率いるのか、その指導部への懸念へと移りつつある。