「2つの太陽」(2人の指導者を意味する)を持つとされる台湾の第三極・台湾民衆党(以下、民衆党)は現在、現職の党主席である黄国昌(こう・こくしょう)氏が党務を主導し、前党主席の柯文哲(か・ぶんてつ)氏が精神的指導者を務めている。しかし、柯氏は不動産開発「京華城」を巡る汚職事件の一審で懲役17年の判決を受け、2028年総統選への出馬資格を喪失した。
一方、黄氏も新北市長選に向けた予備選の世論調査で最大野党・国民党の候補である李四川(り・しせん)氏に敗北。主戦場を失ったうえ、党内規定の「2年条項」(同一公職を2年を超えて継続することを禁ずる党規)により立法委員(国会議員に相当)を辞職した黄氏は、公職にも就かず選挙の予定もない「実権のない野党党首」となった。
黄氏が新北市長の予備選で敗れた当日、党本部では涙を流す職員もいた。さらに嘉義市長選や宜蘭県長選の予備選も決して楽観視できない状況のなか、民衆党は今後どこへ向かうのか。かつて政界を左右するキャスティング・ボートを握っていたはずの同党が、なぜ最終局面で決定打となる影響力を発揮できずにいるのか。
黄国昌氏(左)は国民党・民衆党による新北市長候補の世論調査で李四川氏(右)に敗北し、次のステップとなる政治的動向に注目が集まっている。(写真/劉偉宏撮影)
民衆党に相次ぐ騒動、政党支持率は1桁台に急落 民衆党が直面する足元の危機は、黄氏の予備選敗北だけではない。4月上旬には、元立法委員の李貞秀(り・ていしゅう)氏が離党処分を受けた後、党内に対して猛烈な批判を展開し、黄氏を「偽善者」と非難した。4月中旬には、元報道官の楊宝楨(よう・ほうてい)氏が台中市議選への出馬を表明したものの、同党の熱狂的ネット支持層(通称:小草)から組織的なバッシングを受けた。これに対し楊氏も一歩も引かず反撃に出たことで、2年前に同氏が涙ながらに辞任し波紋を呼んだ騒動を各界に思い起こさせる事態となった。
4月下旬には、元雲林県党本部主委の林靖冠(りん・せいかん)氏が与党・民主進歩党(民進党)からの指名を受け市議選への出馬を表明。その後、複数の政治討論番組に出演し、柯氏が自らを「主君」と称していたと指摘したうえで「未公表の衝撃的な事実がまだある」と予告した。これに加え、立法院で審議が難航している武器調達条例、柯氏が夜間に新光病院へ見舞いに訪れた件、柯氏がペッパースプレーを浴びた騒動、そして比例代表候補の徐瑞希(じょ・ずいき)氏が党籍確認訴訟に勝訴し立法委員への繰り上げ当選が濃厚となった事態など、2026年4月の民衆党は連日のようにトラブルに見舞われた。
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台湾メディア『美麗島電子報』が発表した4月の世論調査によると、民衆党の支持率はわずか7.0%にまで落ち込み、国民党(25.1%)および民進党(38.5%)を大きく下回った。政党の好感度については、民衆党の好感度が25.5%、反感度が55.8%であった。好感度は国民党(33.9%)や民進党(44.0%)に及ばず、反感度は国民党(50.5%)や民進党(46.0%)を上回る結果となった。柯氏が総統選で26.46%の得票を獲得し、政党票でも22.07%を獲得した2024年の大型選挙時と比較すると、民衆党の退潮傾向は極めて顕著である。
民衆党を巡っては、李貞秀氏の一件のほか、かつて涙ながらに辞任した楊宝楨氏(中央)が熱狂的ネット支持層「小草」と対立するなど、最近は騒動が相次いでいる。(写真/顔麟宇撮影)
柯文哲氏の「理性・科学・実務」から一転、黄国昌体制で強まる「反民進党」路線 民衆党の危機はどこから生じたのか。党内幹部の一人は、黄氏のリーダーシップが問題の核心であると率直に認める。黄氏が掲げる「戦神(闘将)」「新しい政治」「反与党」という政治的キャラクターは、立法委員時代には党の存在感を高めるうえで機能したが、政党のトップとしては必ずしも適任ではないという。特に黄氏の指揮下において、民衆党のイメージは柯氏が標榜した「理性、科学、実務」からは程遠く、極端な「反民進党」へと変貌を遂げた。「野党勢力の結集」という名目は立つものの、結果として国民党とイメージが重複し、政党としての主体性を喪失していると指摘されている。
同幹部はさらに、黄氏のキャラクター自体は野党として本来あるべき姿であり、支持者に向けて明確なメッセージを発信できる利点があるとしつつも、同時に党に対する反感(ヘイト値)を著しく高めていると分析する。その半面、現在の民衆党および黄氏が民進党批判の手を緩め、「戦神」としての振る舞いをやめれば、メディアへの露出や影響力はさらに低下しかねない。それゆえ、現在の民衆党はジレンマに陥り、身動きが取れない状態にあるのだ。
黄氏が主導する民衆党の路線は果たして正しいのか、それとも誤りなのか。選挙戦略の面において、黄氏は新北市長選の予備選期間中や地方組織への指示のなかで一貫して「ネット上の話題性(声量)」を重視。空中戦(ネット戦略)を軸とし、ライブ配信、自転車での遊説、グルメ配信などで話題を喚起すべきだと主張してきた。
党内からは「地方選挙はそうした手法では勝てない。街頭演説や後援会回りといったドブ板選挙こそが不可欠であり、日々地道に行うべきだ」との忠告もあったが、黄氏は空中戦や話題作りに固執。終始自身のペースを崩さず、多くの時間を「ライブ配信」というコンフォートゾーンのなかで費やしてきた。
民衆党主席の黄国昌氏は空中戦(ネット戦略)に注力し、ライブ配信や自転車での遊説など、話題作りと知名度向上に力を入れている。(写真/柯承恵撮影)
「戦神」としての政治的キャラクター、身内を傷つける発言も 第二の問題として、林氏が民衆党の市議選公認を得られなかったことを理由に民進党へ移籍し、番組で再三にわたり民衆党を批判した事案が挙げられる。これに対し黄氏は自身のライブ配信で「私を脅迫できると思うな」と反論。さらに、ある党員から「地方勢力を安易に取り込むのではなく、党内の青年組織やスタッフから人材を育成すべきだ」とのメッセージを受け取ったと明かし、「その党員が指摘していることこそ、まさに私が現在取り組んでいることだ。それに不満を持つ者がいようとも、この私、黄国昌が地方派閥の脅威に屈するとでも思っているのか」と語気を強めた。
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党内関係者は、こうした発言は黄氏の「新しい政治」というキャラクターに沿ったものであり、本質的には政治的パフォーマンスであるとしながらも、一部の支援者の耳には極めて冷酷に響く可能性があると指摘する。というのも、民衆党の多くの地方組織は、実のところ「地方勢力」の支援に依存して運営されているからだ。例えば、彰化県党本部は国民党の元立法委員である陳杰(ちん・けつ)氏や全国商業総会理事長の温国銘(おん・こくめい)氏を中心とする地元の名家「温家」の支援を受けている。
また、現職の民衆党立法委員である蔡春綢(さい・しゅんちゅう)氏は、雲林県議会副議長の蔡咏鍀(さい・えいとく)氏の姉であり、地元で宗教・政界に強い影響力を持つ「蔡家」は民衆党の重要な後ろ盾となっている。ある地方幹部は、黄氏のこの発言は「地方で選挙活動を支えている人々の心を冷え込ませるものだ」と懸念を示している。
比例代表選出の立法委員である蔡春綢氏は、雲林県の名家「蔡家」の出身で、民衆党の地元における大きな後ろ盾となっている。(写真/陳品佑撮影)
民衆党が主導する『大気汚染防止法』厳格化案、産業界に広がる動揺 一方で、民衆党が法案において特定の価値観に固執する姿勢も懸念材料となっている。黄氏は現在、同党の政策委員長を務め、立法院における法案の方針を主導している。現在立法院で審議されている『空気汚染防制法』(日本の大気汚染防止法に相当、以下『空汚法』)の改正案において、現行法の第30条では「固定汚染源」の許可証の有効期限が切れた後も、審査が完了するまでの間は、従来の許可証の内容に基づいて設置・操作・使用を継続できると規定している。
しかし、民衆党議員団が提出した改正案では、「固定汚染源」の許可証の有効期限満了後、「2カ月が経過しても主管機関から更新の許否を得られない場合、従来の許可内容に基づく設置・操作・使用の継続を禁ずる」との条文が盛り込まれた。
現行の『空汚法』によれば、固定汚染源の設置許可証が失効しても、新たな許可証が交付されるまでの間は従来通り稼働を続けることができる。しかし民衆党案では、2カ月が経過して審査が通らなければ稼働を即時停止しなければならず、再度の申請が必要となる。
『空汚法』の定義上、「固定汚染源」とは「移動汚染源」以外のすべてを指す。南投県政府環境保護局の公式ウェブサイトの解説によれば、「固定汚染源」とは交通機関を除く、各種の大気汚染物質を排出する固定的な施設、プロセスユニット、または操作ユニットを指し、これには粒子状物質や硫黄酸化物、窒素酸化物などを排出する設備が含まれる。
国民党のベテラン国会スタッフは、「平たく言えば、煙突から排気を出している工場は原則としてすべて『固定汚染源』に該当する」と指摘する。民衆党議員団が2025年に説明したところによれば、同党案の本来の目的は、台湾電力(台電)の興達発電所が地方自治体の審査の空白期間中に「無許可で石炭を燃焼させ」、大気汚染を引き起こしている問題に対処することにあったという。
民衆党による『空汚法』(大気汚染防止法)改正案の本来の狙いは、台湾電力の興達発電所による「無許可での石炭燃焼」を取り締まることにあり、固定汚染源の設置許可証が2カ月の期限を経過しても更新審査を通過しない場合、継続使用を禁ずる内容となっている。(写真/頼慧津撮影)
工業総会「企業と行政の負担増」、経済部「産業界に操業停止リスク」 一方の国民党案でも、第30条に「審査は遅くとも許可証の期限満了後1カ月以内に許否の判断を下さなければならない」との規定を追加しているが、許可証の更新および更新前の継続使用に関する条文については修正を求めていない。国民党の改正案は主に第27条および第28条に焦点を当てており、地方自治体による汚染源管理権限の拡大を目指している。関係者によれば、国民党が法改正を主導する最大の理由は、台中市政府による台中火力発電所への監督体制を強化することにあるという。
前出の国民党ベテラン国会スタッフは、「民衆党は当初、改正の対象は高雄の興達発電所だと説明していたが、提出された法案は台湾全土のすべての『固定汚染源』を規制する内容となっており、実質的に煙突のある全国の工場を網羅している。基準を遵守していれば問題ないとはいえ、産業界に動揺が広がるのは避けられない。選挙イヤーにこのような強硬策に出れば、産業界からの票を取り逃がす可能性が高い」と指摘している。
実際、全国工業総会(日本の経団連に相当、以下「工総」)は4月24日に声明を発表し、民衆党案が審査期間を2カ月に制限している点について、企業と主管機関の行政負担を過大にする恐れがあり、地方自治体の審査が滞れば事業者が操業停止に追い込まれる可能性があると警告した。経済部(日本の経済産業省に相当)も、審査が完了する前に許可が失効する仕組みは産業界に操業停止のリスクを負わせるものであり、自治体の審査遅延の責任を企業に転嫁するのは極めて不合理であると指摘した。
全国で約8000社の中大型企業が操業許可に依存して事業を継続しており、そのうち5割以上をハイテク・半導体産業、石化産業、鉄鋼業、セメント業、国防産業、および中大型企業のボイラー設備が占める。地方自治体の審査手続きが長引いたという理由だけで強制的な操業停止となれば、サプライチェーン(供給網)の分断と甚大な経済的損失を引き起こす恐れがあり、さらに連続稼働が不可欠な設備を強制停止させた場合、不可逆的な損害をもたらすとして強く反対している。
国民党関係者は、民衆党議員団の改正案は実質的に台湾全土の煙突を持つ工場をすべて規制対象に含むものであり、基準を遵守していれば問題はないものの、産業界の動揺は避けられず、産業界からの票を取り込むうえで不利に働きかねないと率直に指摘している。写真はイメージ。(写真/顔麟宇撮影)
「黄国昌氏は対話が困難」産業界の代表は国民党に助け船を要請 関係者によると、立法院において国民党と民衆党の協力路線(藍白合作)により両党の改正案が統合され、民衆党の強硬な法案内容がそのまま組み込まれることを危惧した産業界や企業の代表者らが、最近になって相次いで立法院を訪問。国民党の立法委員に対し、性急な法改正を控えるよう陳情を行っているという。一部の産業代表は民衆党議員団も訪問したとされるが、民衆党側は法改正に対する強硬な姿勢を崩していない。
国民党の立法委員も産業界の懸念は理解しているものの、現段階では民衆党の面子を保つため、第30条の改正については一旦保留し、委員会通過後の院内会派間の協議で処理する方向で調整を進めているという。民衆党の姿勢について、ある企業代表は国民党の立法委員に対し非公式な場で「民衆党が提案する改正案はあまりにも世間知らずだ。民進党の『石炭燃焼』のイメージを叩くためだけに、他の中小企業まで巻き添えにしようとしている。直談判に行ってもまったく聞く耳を持たず、民衆党や黄氏との対話は本当に困難だ」と不満を漏らしたという。
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民衆党関係者は、現在黄氏が率いる民衆党が与える最大の印象や論調は「反民進党」に尽きると語る。しかし、こうしたメッセージはあまりにも大雑把であり、現在の民衆党が抱える最大のジレンマは、外側に支持を広げる底力に欠け、逆風下では岩盤支持層すら先細りしていく点にある。
同関係者は、「反民進党」という姿勢は、柯氏の勾留により民衆党と民進党の間に「不倶戴天の敵」という関係が生じた結果であると一定の理解を示しつつも、憎悪を原動力とした論調では支持者に将来のビジョンを提示できないと警告する。もし岩盤支持層が萎縮し続ければ、党自体が泡沫化する危機に直面しかねないと危機感を募らせている。
柯文哲氏の勾留により、民衆党と民進党の間には「不倶戴天の敵」とも言うべき対立関係が生じている。しかし、憎悪を原動力とした「反民進党」の論調では支持者に将来のビジョンを示すことは難しく、岩盤支持層が縮小し続ければ、民衆党は泡沫化の危機に直面しかねない。(写真/柯承恵撮影)
柯文哲氏、盲目的な「反与党」に懸念を示すも黄国昌主席の体制を尊重 では、柯氏本人の考えはどうなのか。関係者によれば、柯氏は立法院においても政策的言説においても、現在の民衆党がただ「反民進党」を叫ぶだけになっていることに実際に気づいていた。拘置所から釈放された後もその状況が変わらないため、柯氏自身が黄氏に対し「なぜそのような方針をとるのか」と直接尋ねたことがあるという。
これに対し黄氏は、一連のデータを示しながら「柯氏の事件以降、現在民進党を最も憎んでいるのは国民党ではなく民衆党だ。熱狂的ネット支持層の半数近くが民進党に骨の髄まで恨みを抱いており、もはやあなた(柯氏)自身が方針転換することすら困難な状況だ」と説明した。また別の場面で柯氏は、黄氏について「自分よりも意志が固く、原則を曲げない『道徳的な勇気』を持っている。政治的にすぐ妥協してしまう自分とは違う」と語っていたという。
黄氏による党運営について、柯氏は「盲目的に反民進党(反緑)を掲げることが、必ずしも民衆党の利益になるとは限らない」と懸念を示していた。しかし柯氏は周囲に対し、「黄氏が現在の党主席である以上、自分が直接介入するのは適切ではない。現在より良い方法が見つからないのであれば、今のやり方が最善なのかもしれない」と語っている。
さらに、黄氏が党首として歩む路線が最善ではないにせよ、少なくとも黄氏に党主席の座を委ねることで、黄氏に責任を負わせ、離党を食い止めることができると考えているようだ。そのため柯氏は、黄氏が立法院での活動や台北・新北両市での活動を好むことを理解したうえで、それらは黄氏に任せ、黄氏が敬遠しがちな中南部や地方での活動は柯氏自らがカバーし、党勢の修復に 努める役割分担を敷いている。
柯文哲氏(左)は、現在の民衆党がただ「反民進党」を叫ぶだけになっていることに気づいており、そのため黄国昌氏(右)に対し、「なぜそのような方針をとるのか」と直接問いただしたことがあるという。(写真/顔麟宇撮影)
高まる「戦神」への反発、キャラクター崩壊もまた致命傷に 黄氏のキャラクターは「悪を憎み、不正を暴く戦神」である。しかしこのキャラクターゆえに、柯氏のように政策や価値観の選択において柔軟性を持たせることは難しく、さらには不必要な反感を買うリスクを伴う。一方で、自らのキャラクターを放棄し、そのイメージが崩壊してしまえば、それはそれで新たな致命傷になりかねない。支持率の低迷に直面する民衆党において、当面戦うべき選挙区を持たない実権なき党首が、いかにして党を導いていくのか。今こそ、民衆党と黄氏は真摯に熟考すべき局面に立たされている。
(注:本記事で引用した世論調査は、『美麗島電子報』による2026年4月の国政世論調査である。同メディアの委託により、戴立安(たい・りつあん)氏がアンケートの設計と分析を担当し、ビコン市場調査会社が電話調査を実施した。調査期間は2026年4月22日から24日。調査対象は台湾全土22県市に本籍を置く20歳以上の有権者。調査方法は固定電話と携帯電話のデュアルフレーム・サンプリング方式を採用した。有効回答数は1074人(内訳:固定電話698人、携帯電話376人)で、信頼度95%における標本誤差は最大±3.0%である。)