【コラム】台湾を米中の「戦利品」にしてはならない トランプ・習近平会談を前に問う「中国は何を求めるのか」
2026年5月14日、北京の天壇をともに訪れたトランプ米大統領(左)と習近平中国国家主席。(写真/AP通信)
トランプ米大統領は9月末、習近平中国国家主席と再び首脳会談を行う予定だ。米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』は3日、米国務省政策企画スタッフを務めた経験を持ち、現在はジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)「米中・グローバル問題の未来研究所」(ACF)所長を務める白潔曦(ジェシカ・チェン・ワイス、Jessica Chen Weiss)氏へのインタビューを掲載した。ワイス氏は、ワシントンが長年、米中対立を単純な「ゼロサムの覇権争い」として捉えてきたことは重大な戦略的誤算であり、半導体をめぐる対立とレアアース規制の応酬を経た今、双方にとって最も重要な課題は相手を打ち負かすことではなく、現実的な「共存関係」を築くことだと指摘した。
超党派の対中コンセンサス崩壊 封じ込めは中国の技術的自立を止められず
『フォーリン・アフェアーズ』編集長のダン・カーツ=フェラン(Dan Kurtz-Phelan)氏はインタビューの中で、ワシントンがかつて鉄則と見なしていた超党派の「対中コンセンサス」が、トランプ政権2期目に入って急速に緩んでいると指摘した。これに対しワイス氏は、このコンセンサスはもともと脆弱であり、各方面とも中国の台頭に懸念を抱く一方、その課題の本質や具体的に何を目標として対応すべきかについては、共通認識を欠いていたと述べた。
ワイス氏によると、バイデン政権期の「スモールヤード・ハイフェンス」(small yard and high fence)戦略は、先端半導体や計算能力へのアクセスを遮断することで、米国が人工知能(AI)モデルの分野で優位を維持することを狙ったものだった。しかし、単純な技術的封じ込めは中国の歩みを鈍らせることができず、むしろオープンソース基盤や実用化、国産技術スタックによる代替を急速に進める結果となった。
「近ごろの米国内の世論調査には変化の兆しが見える。単純な封じ込めよりも、協力によって米中の対立を解消しようとする声が増えている」。ワイス氏はこう述べ、ハーバード・ビジネススクールのメグ・リスマイア(Meg Rithmire)教授やカリフォルニア大学サンディエゴ校のピーター・カウヒー(Peter Cowhey)教授がかつて指摘したように、米国は閉鎖的な「アメリカ要塞」に立てこもるのではなく、グリーンエネルギーやコスト低減・効率向上といった分野では、中国に対して「選択的な開放」を進める必要があると強調した。
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トランプ氏についてワイス氏は、今年5月の北京訪問で米中関係の大きな方向性を定めた点は評価できるとする一方、トランプ氏の意思決定は、極限まで圧力をかけた後、経済的な負担に耐え切れず、急いで妥協へ転じる傾向があると指摘する。その結果、北京から譲歩を引き出す前に軟化のシグナルを発し、戦略的な主導権をみすみす手放しているという。
「レアアースカード」の正体 米国の極限的圧力が引き出した対抗措置
2025年に起きたレアアース輸出規制をめぐる騒動について、ワイス氏は研究者グロリア・シオン(Gloria Xiong)氏と共同で発表した論考「中国はいかにして最強の武器を手にしたか」(How China Found Its Most Potent Weapon)の中で、西側諸国が長年、北京の意図を見誤ってきたと指摘している。
鄧小平が1990年代初頭に語ったとされる「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」という言葉はしばしば引用され、中国の「レアアースカード」は長年温めてきた大戦略だとみなされてきた。しかし、ワイス氏とシオン氏は、鄧小平がこの発言をしたのは湾岸戦争終結直後で、当時北京はエネルギーと原材料への高い依存を問題視していた時期であり、鄧小平は資源の流出を防ぐよう強く警告したにすぎないと指摘する。
「中国が1990年代に世界のレアアース精錬を引き受けるようになった主な理由は、西側諸国が環境保護を求める動きやコスト面の事情から、汚染度の高い工程を相次いで海外へ移転したことにある」。ワイス氏によると、2010年に至っても中国南部では違法採掘が横行し、超過採掘量は公式割当を35%上回り、戦略資源が「二束三文」で投げ売りされる状況すらあったという。
地理学者ジュリー・クリンガー(Julie Klinger)氏の研究も、2010年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をきっかけとするレアアースの対日供給停止が、当初は北京指導部による全体的な戦略ではなく、地方の港湾当局者が独断で行った非公式な報復にすぎなかったことを裏付けている。
ワイス氏は、北京が本格的にレアアースを対抗カードと位置づけるようになったのは、米国によるファーウェイ制裁からバイデン政権期の半導体規制に至る一連の流れを経てからであり、3代にわたる米政権から圧力を受け続けたことで、中国は次第に域外適用を可能とする規制の仕組みを整えていったと強調する。
「ベッセント財務長官(Scott Bessent)は貿易戦争の初期、『中国の手札は「2のワンペア」にすぎず、いずれ降りる』と豪語したが、こうした自らに『エスカレーション優位』があると考える発想は、もはや現実離れしている」。
現在、中国は世界のレアアース永久磁石生産能力の80~85%を掌握し、重希土類の「イットリウム」(Yttrium)など重要元素に至っては唯一の供給源となっている。北京が握る「レアアースカード」は、ワシントンが思い描いていた「全面デカップリング」の構想を根底から突き崩した。
台湾は米中の戦利品ではない
台湾問題についてワイス氏は警鐘を鳴らす。「戦略的競争」という枠組みで台湾問題を捉えること自体が極めて危険であり、台湾を米中が奪い合う「戦利品」として位置づけてはならないという。
台湾問題をひとたびゼロサムの争奪戦と定義してしまえば、北京は平和統一に望みがないと判断し、ワシントンも台湾を中国から完全に切り離さなければならないという極端な立場に追い込まれ、軍事衝突を回避するための政治的なバランスそのものが崩れてしまうとワイス氏はみる。
ワイス氏は、台湾海峡問題の専門家であるボニー・グレイザー(Bonnie Glaser)氏、トーマス・クリステンセン(Thomas Christensen)氏と共同で提示した枠組みを引用し、軍事的抑止には「信頼性のある安心供与」(Credible Assurances)が伴わなければならないと強調する。
経済学者トーマス・シェリング(Thomas Schelling)の言葉を引き、「『これ以上進めば撃つ』という言葉は、『止まるなら決して撃たない』という暗黙の保証を伴って初めて、有効な抑止として機能する」と述べた。
ワイス氏はまた、トランプ氏による台湾に対する不友好的な発言――台湾は「良い交渉カードだ」との発言――や、台湾への武器売却の先送りは、歴代の米大統領はもとより、連邦議会の大多数の議員ですら取り得なかった態度だと率直に語る。
問題は、米側が台湾への武器売却を引き続き保留することを検討するのであれば、北京に実質的な見返りを求めなければならず、そうしなければ明らかな失策になるという点だ。
ワイス氏は、米側が首脳会談で武器売却問題を取り上げるのであれば、双方向の交換を徹底し、中国側に対して「軍事活動を後退させ、台湾海峡の中間線を越える行動を停止すること」を実質的な見返りとして明確に求めるべきだと提言した。
「2027年台湾侵攻説」や「2028年の米台選挙をめぐる情勢変化」への懸念について、ワイス氏は元CIA東アジア上級分析官ジョン・カルバー(John Culver)氏の見立てを引用する。
「北京にとって台湾は、何としても回避すべき危機であって、急いで手に入れるべき好機ではない」。
ワイス氏は、習近平氏は中国の体制内で最も強硬な武力統一派ではなく、加えて人民解放軍の高官が近年相次いで粛清の対象となっていることから、現時点で中国が戦争を望んでいる兆候は見られないと指摘する。
さらに、台湾では現在、北京が強く反発する民進党が政権を担っている一方、立法院(国会)では野党勢力が過半数を占めており、総統の政治的な行動には一定の制約がある。こうした権力の均衡も、北京に情勢が完全に制御不能になったと判断させない要因になっているという。
米台の指導者は、こうした政治的な緩衝空間を維持し、行き過ぎた行動によって全面対決を招くことを避けるべきだとワイス氏は述べる。
北京の戦略目標 主権を最優先
ワイス氏の分析によれば、国際秩序に対する中国の核心的な要求は、本質的に「主権・安全・発展」であり、「自らの体制に基づいて世界を作り変える」という普遍主義(universalism)ではない。
ワイス氏は研究者ユナ・ジョー(Eun A Jo)氏との共同研究で、北京が採るのは「ナショナリズム的・特殊主義的な指導モデル」(particularist leadership)であり、主権を最優先し、内政不干渉を重視するウェストファリア型の保守的な国際秩序を重んじ、「権威主義にとって安全な世界」(A World Safe for Autocracy)を追求していると指摘する。
ワイス氏は、他国が国連の場で新疆、香港、台湾といった中国の核心的利益に関わる問題を提起しない限り、北京は他国の政治体制や政権を担う政党を気にかけていないとみる。
北京がロシアとの間に戦略的な距離を置こうとしない主な理由は、現在の米国との緊張緩和が長続きするか確信を持てないためであり、米国の政策がいつ反転してもおかしくないとみる以上、北京は依然として中露関係を対米関係における地政学的な緩衝材として維持する必要があるからだと分析する。
ワイス氏はさらに、北京の指導部に助言することの多い、ある中国のシンクタンク関係者の見方を紹介する。
かつて中国は、卒業を目指す学生のように、脇目も振らず米国の封じ込めに抵抗してきた。しかし、ワシントンの圧力を乗り越え、米国と互角に渡り合えるようになったと自任する現在、目の前に開けた広い道と、それに伴う国際的な代償を前に、かえって進むべき方向を見失っているという。
米側の戦略的な緊張緩和がどこまで続くかについて北京が深い疑念を抱き、政策の再反転を恐れているからこそ、現段階でもなお、米国に対する地政学的な緩衝材としてロシアとの緊密な関係を手放さずにいるのだとワイス氏は述べた。
ワイス氏は最後に、ワシントンは対中政策における「成功」の定義を見直す必要があると結論づけた。
成功とは中国を打ち負かすことではなく、米国内の繁栄、手頃なエネルギー価格、サプライチェーンの強靭性、そして科学技術革新を維持しながら、人工知能の安全性(AI Safety)や国境を越えた危機管理といった分野で、北京とともにガードレールを備えた安定的な関係運営の枠組みを築き、両国関係を制御可能で、相互破滅に至らない軌道に安定させることだと述べた。
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