「台湾を訪れた人なら、特に台北の夜市を歩けば気づくはずです。普段何気なく食べているストリートフードが、本当においしい。風味があり、厚みがあり、奥行きがあり、そして豊かな旨味がある。だからこそ、ワインと合わせる可能性も、さらに洗練された料理へと発展していく可能性も、非常に大きいのです」
アジア初のマスター・オブ・ワイン(Master of Wine、MW)、ジーニー・チョー・リー (李志延、Jeannie Cho Lee)氏の目に、台湾は「まだ十分に開拓されていない一方で、食においてもワインにおいても、大きな可能性を秘めた市場」と映っている。
世界における台湾の食のイメージは、いまだ「夜市」にとどまっている。ジーニー氏が、台湾の食文化が大きく過小評価されていると考える理由もそこにある。
9月13日、2021年にフランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ章を授与されたジーニー氏は、台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の英語ニュースサイト「The Storm Media 」と「1%Style 」の独占インタビューに応じた。
その中で、代表作『Asian Palate 』(中国語版タイトル『東膳西釀』)の改訂作業を進めており、新版には台湾についての内容を盛り込むことが決まっていると明かした。完成は来年のいずれかの時期を目指しているという。
それは台湾のワイン市場の可能性を公に認めたものでもあり、同時に、長年にわたり台湾の食文化を見てきた彼女からの一つの明確なメッセージでもある。
台湾料理は夜市だけではない 世界が見落とすワインとの相性 台湾料理が秘めるワインとのペアリングの可能性は、ジーニー氏が特に強調するテーマの一つだ。
国際的なワインの世界では、台湾料理についての理解がまだ十分ではないと、彼女は率直に語る。
日本料理については、京都の懐石料理から東京の寿司まで、世界中の食通がすでに高い理解を持っている。一方で、「台湾料理とは何か」という問いについては、世界ではまだ十分に理解されていない。
だがジーニー氏は、夜市そのものが、その可能性を示す何よりの証拠だと考えている。
「台湾を訪れた人なら、特に台北の夜市を歩けば気づくはずです。普段何気なく食べているストリートフードが、本当においしい。風味があり、厚みがあり、奥行きがあり、そして豊かな旨味がある」
「だからこそ、ワインと合わせる可能性も、さらに洗練された料理へと発展していく可能性も、非常に大きいのです」
言い換えれば、「夜市」という国際的なイメージだけでは、台湾の食文化が本来持っている深みを十分に捉えきれていないということだ。
「台湾の歴史全体の中で形作られてきた食文化とアイデンティティは、とても力強いものです」
台北・遼寧街夜市の人気店「鵝肉城活海鮮」。(Googleマップ/Vic Pengさんより)
アジアの食卓とワインをつなぐ 45〜50度の温かいお茶 ワインをアジアの共食文化に取り入れるには、かなりの工夫が必要だとジーニー氏は認める。
料理が一斉に食卓へ並び、高価な食材が宴席の前半から登場する。さらに、赤身肉と魚介類が次々に入れ替わるため、そのたびにワインのスタイルも変えなければならない。
こうした食卓の構成が、ペアリングを難しくしている。
ジーニー氏が考える解決策は、料理を二つ、あるいは三つのグループに分け、順番に出すことだ。そしてワインのスタイルが切り替わる間に、摂氏45〜50度ほどの温かいお茶を口直しとして挟む。シャーベットや甘いものではなく、舌をやけどするほど熱いお茶でもない。
「西洋料理にはワインが必要。でも私たちには必要ない」 ペアリングの技術以上に根本的なのは、考え方そのものだ。
西洋の伝統では、料理とワインを完璧に組み合わせることで、双方がさらにおいしくなるという考え方がある。
一方、アジアにおける理想的な組み合わせとは、料理とワインのどちらかが主役を奪うのではなく、互いに並び立ち、邪魔をしないことだとジーニー氏は語る。
「私たちの料理は、それ自体ですでにバランスが取れていて、おいしいのです」
「西洋料理にはワインが必要です。でも私たちには必要ありません。私たちはワインを飲みたいと思い、自分で選んで飲む。でも、なくてはならないものではないのです」
では、アジアの食卓においてワインにはどのような価値があるのか。彼女の答えは「リズム」だ。
「ワインは、食事のペースをゆっくりにしてくれます。私たちは食べるのが速すぎる。それが私たちの大きな欠点の一つです」
ロブスターやサーモンなど、豊富な海の幸を使ったアジアの米料理は、欧米でも徐々に人気を集めている。(ジーニー・チョー・リー氏のInstagramより)
なぜ台湾は香港・シンガポールに後れを取るのか その構造的な理由 アジアのワイン市場について語るとき、台湾は香港やシンガポールほど目立った存在として語られることが少ない。
その理由について、ジーニー氏は構造的な違いを指摘する。
「香港とシンガポールはハブ都市です。シンガポールは東南アジアのハブであり、香港は大中華圏のハブです。それが、両都市が発展してきた大きな理由の一つです」
ワインの輸入量を見ても、台湾が両地域に後れを取っているのは事実だと彼女は指摘する。
「台湾には天然資源があり、土地も広く、人口も多い」とジーニー氏は言う。そのため自給自足できる部分が多い。これは二つの都市国家にはできないことだ。「ある意味で、皆さんはより内向きです。外の人を必要としないのです」
しかし、それは台湾のワイン文化がまだ始まったばかりだという意味ではない。
ジーニー氏によれば、台湾のトップクラスのワインコレクターは、すでに非常に高い水準にある。
問題は、そうしたハイエンドのコア層が、これまで十分にその下の層へ広がってこなかったことだ。
中間の消費者層はいまだ限られている。いわば、ピラミッドの頂点はあっても、中間層が薄い状態だ。
だが、その状況は変わり始めているとジーニー氏は見る。
デジタル時代になり、情報の流通によって知識や認識の差は急速に縮まっている。
彼女は、『風傳媒(ストームメディア)』が複数の言語で掘り下げた報道を届けていることを例に挙げた。同サイトは現在、中国語、英語、日本語の3言語で情報を発信している。
メディア環境の変化によって、市場の成熟はこれまで以上に速く進む可能性があるという。
「次の世代では、それが非常に速いスピードで起こる可能性があります」
2026年9月13日、アジア初のマスター・オブ・ワイン(MW)、ジーニー・チョー・リー(李志延)氏が、台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の英語ニュースサイト「The Storm Media」と「1%Style」の独占インタビューに応じた。(蔡親傑撮影)
韓国料理が10年で世界的な存在感を高めた理由 官民が「同じ物語」を語る 韓国の食文化が世界で存在感を高めてきた過程について語るとき、ジーニー氏の言葉には、台湾への期待もにじむ。
20年前、韓国料理は国際的にはほとんど存在感がなく、多くの人にとっては「安価なストリートフード」という程度のイメージしかなかったという。
その評価が大きく変わったのは、多くの人が想像するよりも最近のことだ。
「20年、30年前は、まったく違いました」とジーニー氏は言う。「ほんの10年ほどのことです」
その変化に必要な時間について、彼女の見積もりはあえて短い。「一国の料理が変わるのに必要なのは、10年、あるいは一世代ほどです」
ジーニー氏が挙げる条件は二つある。一つは、才能ある料理人がいること。もう一つは、食を含めた自国の文化全体を世界へ発信しようとする政府の存在だ。
韓国政府は食を文化資産の一つと位置づけ、さまざまな貿易関連機関や非営利団体を通じて世界へ発信した。そして、公的機関と民間が同じメッセージを伝え続けた。
「観光局、文化省、農業省、対外貿易を担う部門、そして民間の飲食業界団体が、一緒に動かなければなりません」
「それが韓国がやったことです。政府から多くの支援を受けていて、民間だけでやったわけではありません」
インタビューでは、記者がストリーミングサービス上の韓国料理番組についても触れた。世界中の視聴者が韓国の台所の日常を直接目にするようになったことが、韓国料理の認知拡大につながっているのではないかと問いかけた。
そして台湾についても、「まったく同じことができる」と語る。
足りないのは、さまざまな主体をつなぐ統合と、それを後押しする力だ。
Netflixの人気料理番組『白と黒のスプーン ~料理階級戦争~』は、韓国の食文化を世界に広く発信する一助となった。(Netflix公式Instagramより)
次世代のアジアの飲み手 名門ワイナリー信仰から「本物らしさ」へ アジアの若い世代のワインとの向き合い方は、根本から変わりつつある。
ジーニー氏は、世界的に若い世代の飲酒量が減っていることを率直に認める。
さらに、現在は世界的にワインがやや供給過剰の状態にあり、業界全体が調整するには数年を要する可能性があるとも指摘する。
若い世代は、心身のウェルネスをより重視するようになっている。
求めているのは、本物らしさ、オーガニックであること、そして意味のある消費だ。
AIで生成された画像やSNSのフィルターがあふれる時代だからこそ、「本物であること」自体が希少な価値になっているとジーニー氏は考える。
「ワインは、最も分散した産業の一つです」とジーニー氏は言う。「ビール産業や蒸留酒産業とは違い、生産者の数で見れば、ワイン生産者の90%以上が家族経営の中小規模の事業者です」
大規模な醸造グループももちろん存在し、販売量で見れば大きな比率を占める。だからこそ消費者はそれらのブランドを覚えている、とジーニー氏は付け加えた。
「彼らは小さいながらも本物の作り手であり、なかには『匠』と呼ぶべき人さえいます。本当に最高の品質を目指し、その土地のありのままの姿を表現しようとしているのです」
「そうしたメッセージは、本物らしさを大切にする若い世代に、いずれ響いていくはずです」
アジアでは、この変化はワインの選び方にもはっきり表れ始めている。
次世代の消費者は、著名なワイナリーやヴィンテージ、評価点だけを基準にするのではなく、ブドウがどのように育てられているのかを問い始めている。
その生産者は家族経営なのか、それとも大手グループなのか。
「こうした細かな点が、彼らにとって重要になっていくのです」
ジーニー氏は、これからのワインブランドをファッション業界になぞらえる。
一方、新しい世代のアジアの消費者は、名門ワイナリーだけにとらわれず、異なるスタイルや産地にも目を向けるようになる。
「もっとオープンになり、品質についての考え方も変わっていくでしょう」
「私たちは読者や消費者に対して、正直でなければなりません。何があなたの時間を使う価値があるのか。何があなたの味覚にとって価値があるのか。何が健康という面から見ても選ぶ価値があるのか」
「飲むのが2、3杯なら、その一杯一杯に価値があってほしいと思うはずです」
女性が半数を占める時代へ 白ワインが変えるアジア市場 ジーニー氏がアジア市場について語るもう一つの変化には、より大きな産業的意味がある。女性が、これからのアジアのワイン市場を変える重要な存在になるという見方だ。
彼女の推計では、現在、ワイン消費者に占める女性の割合は25〜30%ほどで、まだ少数派だ。だが、この世代が生きている間に、その割合は急速に50%まで高まる可能性があると考えている。
一方、女性は一度ワインの世界に入り、その魅力を知ると、長くワインを飲み続ける傾向があるという。
「一度ワインを好きになれば、一生ワインとともに歩んでいくのです」
記者はさらに、台湾ではミドル世代の女性の間で白ワインの人気が高まっていること、また台湾では夏が長く、高温多湿な気候のため、白ワインがより飲みやすく感じられることを挙げ、こうした傾向が市場を変える力になるのかと尋ねた。
ジーニー氏はこれに同意し、この現象をアジア全体のより大きなトレンドとして捉えていると話した。
彼女が訪れてきたアジアの各市場で、女性は重要な消費者層になりつつある。
日本ではすでにそうした傾向が見られ、韓国、香港、シンガポール、中国沿岸部の都市でも、その動きがますます明確になっているという。
「だから今後のトレンドの一つは、より軽やかで、よりエレガントなワインへ向かうことだと思います。白ワインの比率は、今よりも高くなるでしょう。現在はまだ赤ワインが中心ですが」
「私は何でも食べます。でも、もし選べるなら、魚介類を選ぶことが多いです」
「では、そういう料理には何を合わせるのか。多くの場合は白ワインか、軽やかな赤ワインになります」
そして、これは単にジェンダーだけの問題ではなく、世界の食そのものが向かっている方向でもあると強調する。
例として挙げたのが、ニューヨークの三つ星レストラン「Eleven Madison Park」だ。
同店は2021年、モダンフレンチから完全植物性のメニューへと転換した。なお同店は2025年10月、4年間続けた完全植物性の路線を改め、肉と魚介を再びメニューに戻している。
ジーニー氏は、こうした変化の背景には、より軽やかで、より健康的な食事が世界的なトレンドになっていくという、業界の認識があると指摘する。
インタビューの最後に、ジーニー氏は、ブルゴーニュ(Burgundy)と10年以上にわたって深く関わってきたことについても語った。
現在も毎年3〜4カ月を現地で過ごし、ブルゴーニュ利き酒騎士団(Confrérie des Chevaliers du Tastevin)韓国支部のグラン・セネシャル(Le Grand Sénéchal)を務めている。
ブルゴーニュのピノ・ノワール(Pinot Noir)は軽やかで繊細であり、白ワインは透明感のあるものから豊かな味わいのものまで、さまざまな表情を持つ。
そうしたワインは、ジーニー氏自身が好む食の哲学とも深く重なっているという。
『The 100 Burgundy』第2版は、すでに中国語版が先行して出版されており、英語版と韓国語版は年内の刊行が予定されている。
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