トランプ米大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談がワシントンで行われる中、台湾海峡には一時的な平穏が訪れたように見える。
米国家安全保障会議(NSC)で中国担当ディレクターを務めたジョナサン・A・ジン(Jonathan A. Czin)氏は25日、米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で、現在の平穏は平和の到来ではなく、北京が2028年の台湾総統選での政権交代に期待を寄せる中で見せている一時的な自制だと指摘した。
2028年の米国と台湾の大統領・総統選挙が北京の思惑通りの結果とならなければ、習氏がより強圧的な準封鎖や軍事的威圧に踏み切る可能性があり、米国と台湾は現在の時間を生かして防衛準備を進める必要があると警告している。
ジン氏は2021年から2023年まで米国家安全保障会議(NSC)の中国担当ディレクターを務め、それ以前には米中央情報局(CIA)で上級中国分析官を務めた。現在はワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所でマイケル・H・アーマコスト外交政策研究チェアを務め、中国センターの研究員でもある。
ジン氏は、中国軍機が日常的に台湾海峡の中間線を越え、軍艦が台湾東部海域で活動を続け、中国海警局も周辺海域で船舶への威圧を続けている一方、過去約1年間、北京はペロシ元米下院議長の2022年の台湾訪問後に常態化した大規模な対台湾軍事演習を実施していないと指摘した。
自制の背景にある「政権交代」への期待
ジン氏は、この変化の背景には、北京で再び高まった楽観的な見方があると分析している。
トランプ政権は台湾政策を正式に変更していないものの、トランプ氏が5月に習氏と会談した後の公の発言は、米国の台湾への関与に対する台北の信頼を弱めたという。
トランプ氏は当時、「誰かを独立させようとしているわけではない……それに、ご存じの通り、9500マイル離れた場所で戦争をしなければならない。私はそんなことは望んでいない」と述べた。
さらに重要なのは、習氏が台湾の野党・国民党による政権奪還に期待を寄せている点だ。
2025年11月、両岸はともに「中華」に属すると主張し、対話を重視する鄭麗文氏が予想外の形で国民党主席に就任。今年4月には北京を訪れ、習氏と会談した。
ジン氏は、習氏が鄭氏と会談したことには、自らの対台湾政策が強硬一辺倒ではないと対外的に示す狙いがあると分析する。また、鄭氏を2028年以降に両岸間の政治協議を始めるための重要な足がかりとみていると指摘した。
2028年の米台選挙が次の「転換点」に
ワシントンやアジア太平洋各国では長年、2027年が台湾海峡をめぐる潜在的な衝突の節目になるとの見方があった。中国人民解放軍の創設100年にあたり、習氏が同年までに台湾海峡での軍事衝突に備えられるよう軍に求めてきたためだ。
しかしジン氏は、現在の情勢からみて、習氏が近い将来に武力行使へ向けた準備を進めている可能性は極めて低いと分析する。
習氏が現在、軍上層部に対する組織的な粛清を進めていることも、中国共産党指導部が近い将来の台湾海峡危機を懸念しておらず、現時点ではワシントンと台北の双方を管理できるとの自信を持っていることの表れだという。
一方、次の重要な転換点は、米国と台湾でそれぞれ大統領・総統選挙が行われる2028年になる可能性がある。
ジン氏は、頼清徳総統が再選し、さらに民進党が立法院(国会)で再び過半数を確保した場合、あるいは北京に対して鄭氏より警戒的な国民党穏健派が政権を握った場合、習氏の期待は大きく裏切られることになると分析している。
北京は2024年の総統選で頼氏が得票の過半数に届かず、民進党が立法院の過半数を失ったことを、台湾の有権者の多数が頼氏の対中政策を支持していない証拠だと説明してきた。
しかし2028年に再び頼氏が勝利すれば、こうした説明は難しくなり、習氏は2016年に北京が台湾政府との公式接触を断って以降、12年以上にわたって対台湾政策を主導しながら政治的な進展を生み出せていない状況に直面することになる。
ジン氏は、習氏は4期目に入ると台湾問題の解決をより急ぐようになる可能性があり、その任期末には80歳近くになると指摘する。
来年の中国共産党第21回全国代表大会(第21回党大会)を経て指導部を刷新し、現在進めている軍上層部の再編を終えた後、2028年の選挙結果が期待に反すれば、習氏が2022年のペロシ氏訪台後を上回る強圧的な措置に踏み切る可能性があると警告する。
具体的には、台湾に出入りする外国商船を海上で停止させて検査することや、台湾周辺に複数の航行禁止区域を設定して国際的な海上交通を妨げること、民間貨物船による米国製兵器の台湾への輸送を意図的に妨害することなどを挙げた。
こうした措置は、全面的な封鎖(blockade)や隔離(quarantine)には至らないものの、「台湾が外部世界とつながるには北京の同意が必要だ」と世界に示す狙いを持つ可能性があるという。
さらに、中東でのイランとの衝突によって米軍の重要な弾薬在庫の不足が露呈し、その補充には数年を要する可能性がある。イランによる米軍基地への攻撃も、米国の海外基地や海軍の後方支援網の脆弱性を浮き彫りにした。
2028年の米大統領選で、従来の同盟・友好国との関係に懐疑的で、海外への関与に慎重な「抑制派」の大統領が誕生した場合、北京がより強硬な手段を選ぶ誘因はさらに高まるとジン氏はみている。
対台武器売却の遅延を批判 「今後2年」の機会を生かすべき
経済面では、2010年には台湾の対外投資の80%以上が中国向けだったのに対し、現在は10%以下まで低下した。
台湾は米国の第4位の貿易相手となり、大手半導体企業は米国に数千億ドル規模の投資を行うことを約束。今年2月にはトランプ政権との間で二国間貿易協定をまとめた。
しかし、台湾が自国防衛と経済面で積極的な対応を進める一方、ワシントンでは外交や実質的な安全保障支援をめぐり慎重な姿勢が目立つとジン氏は指摘する。
トランプ氏はインタビューで台湾向け武器売却を中国との交渉カードとして扱う考えを示しており、総額140億ドル規模の新たな対台湾武器売却案はいまだ承認されていない。
ジン氏は、米国の防衛産業の生産能力や調達制度の制約により、この武器売却案に含まれる装備は、仮に直ちに承認されたとしてもトランプ氏の今期任期中には台湾に到着しないと指摘した。これがトランプ氏に売却を進める動機が乏しい理由の一つかもしれないとの見方を示している。
ただ、装備の導入後も、台湾軍が新たな能力を部隊に組み込み、実際に運用できるようにするには時間を要する。
だからこそジン氏は、台湾に兵器購入のための財政的余力があり、習氏が2028年の選挙結果を見極めようとしている現在の2年間を生かし、米政府は支援を急ぐべきだと主張する。
トランプ政権は少なくとも140億ドル規模の武器売却を承認すべきであり、北京との緊張を過度に高めることを避けるため、売却案件を複数の小規模な案件に分ける形でもよいとの考えを示した。
政治的な理由から武器売却を先送りすれば、北京が米国の対台湾武器売却に事実上の拒否権を持とうとする動きを米政府が容認することにつながりかねないと警告した。
さらに、2028年以降は、高齢化する習氏が台湾問題でこれ以上の先送りは自らに有利ではないと判断する可能性があり、台湾への支援に伴う米国の外交的なコストはさらに高まる可能性があるとしている。