【米国経済の岐路】三つの構造変化が迫る政策転換の必要性
『ニューヨーク・タイムズ』は17日、2024年ノーベル経済学賞受賞者のダロン・アセモグルによる客員評論「米国は経済の嵐の中を夢遊病のように歩いている」を掲載した。インフレは抑制されているように見え、雇用市場も好調を維持し、低賃金の仕事でさえ賃金は上昇している。しかしアセモグルは「これは一時的な現象に過ぎず、経済の嵐が迫っている」と指摘し、「人口高齢化、AI台頭、新グローバル化という三つの課題に対して、米国は準備ができていない」と述べている。
【将来予測】1970年代以降の賃金格差拡大が示す構造的問題
『権力と進歩』『国家はなぜ失敗するのか』『自由への狭き道』の著者であるマサチューセッツ工科大学教授のアセモグルは、これらの変化が労働者階級の生活にどのような影響を与えるかは、まだ十分に理解されていないと強調する。特に1970年代以降、米国の賃金格差は急増し、低賃金労働者の賃金は停滞または低下するという前例のない状況が続いている。
【政策課題】機能不全に陥る政治システムと近視眼的な対応
アセモグルは、今後5~10年の政策決定が決定的な影響を及ぼすと分析する。しかし、米国の政治システムが近視眼的になっており、これらの変化に対する準備ができていないと指摘。カマラ・ハリスとドナルド・トランプも今回の選挙戦でこれらの問題を真剣に検討しておらず、包括的な対策を提示する政党も見当たらないという。
【人口動態】急速に進む高齢化―働き手の確保が製造業の課題に
アセモグルは、米国の労働人口がかつてないほど高齢化していると指摘する。2000年時点では、働き盛り(20~49歳)の米国人100人に対して65歳以上は約27人だったが、2020年には39人に増加した。この変化は主に出生率低下によるもので、そのため米国の労働人口の成長は著しく鈍化している。米国への移民が減少すれば、人口高齢化の問題をさらに助長することになるが、製造業や建設業では労働力が必要とされている。
【国際比較】日独韓の経験から学ぶ高齢化対策の実践例
過去30年間、日本、ドイツ、韓国の人口高齢化は米国の現在の約2倍のペースで進んだ。アセモグルによれば、これらの国々の経験から重要な教訓を得ることができるという。特筆すべきは、これらの国々の経済成長が大きく妨げられていないことだ。労働力依存度の高い産業(自動車、工作機械、化学品など)も深刻な影響を受けていない。その理由として、産業用ロボットなどの自動化技術の導入と、労働者の再訓練の成功を挙げている。
(関連記事: 【独占】新宿唯一の台湾バー「紅楼」開業15年へ―文化交流の架け橋として歩み続ける | 関連記事をもっと読む )【製造業の課題】人材育成投資の不足が招く競争力低下
米国のロボット投資は急速に増加しているものの、人材への投資が不十分だとアセモグルは指摘する。その結果、労働力が新しい任務に対応する準備ができていない。TSMCの米国半導体工場の進捗遅れはその典型例だという。新しい機械と訓練された労働者を効果的に組み合わせる方法を見出せなければ、これまで高給で安定した職を提供してきた製造業の競争力は一層低下する恐れがある。