【寄稿】トランプの混乱と失敗したイラン戦争 世界はなぜ中国へ傾くのか
米大統領・トランプ氏の行動様式は予測困難であり、国際問題においてもしばしば耳目を驚かせる発言をしている。(写真/AP通信提供)
シュペングラー『西洋の没落』が示したもの
第一次世界大戦の終結が近づいた1918年、ドイツの思想家オスヴァルト・シュペングラーは『西洋の没落』を著した。戦争で荒廃した欧州では、戦前に広く信じられていた進歩と繁栄への楽観は崩れ去っていた。シュペングラーは、貨幣経済と技術進歩がもたらす物質的繁栄の背後に、深刻な精神的危機が潜んでいることに失望した。
西洋の発展には、啓蒙思想、ルネサンス、宗教改革、産業革命など、社会の発展と繁栄に大きく寄与した面があることは否定できない。だがその一方で、資源、富、覇権をめぐる争いは、絶えず血なまぐさい戦争を生み出してきた。近代西洋の歴史とは、戦争と繁栄が交互に現れる循環であり、それが絶対的に善であるとも悪であるとも言い切れない。ただ一つ確かなのは、弱い国々が被る災厄は、豊かな国々のそれよりはるかに重いということだ。
シュペングラーは『西洋の没落』の「国家と歴史」の章で、「民主主義と金権政治は結局のところ同じものだ」と書いている。改革家や思想家たちは、金銭の力と戦っているつもりで、実際にはその影響力を広げる手助けをしていたにすぎない。民主主義は混乱した大衆の中の一つの階級的理想にすぎず、いわゆる世論の自由、特に新聞の言論の自由もまた理想にとどまる。なぜなら、世論の自由には世論の扇動が伴い、それには資金が必要だからだ。新聞の自由も所有権と切り離せず、これもまた金の問題である。投票権が広がれば選挙運動が必要となり、結局は資金を持つ者が大局を左右する。民主主義の理念を語る人々は一方しか見ないが、金の力を握る者たちは、もう一方で静かに全体を動かしている。
社会主義も自由主義も、現実においては資金を通じて初めて機能する。100年以上前に、シュペングラーが西洋の政治制度と経済制度の病理をここまで鋭く見抜いていたことには驚かされる。要するに、西洋世界の繁栄は最終的に行き詰まりを避けられず、その原因は財閥支配に対抗できる制度を持たないことにある。
ここ数百年、世界秩序は西洋が書き上げ、他の人々はそれを受け入れるしかなかった。民主主義や自由は、開放的で人道的な顔を見せる一方で、その裏では権力が静かに操作し、植民地化、拡張、戦争、搾取を進めてきた。そうした現実が、西洋の洗練された人文主義や法の支配の背後に隠されてきたのである。
トランプという率直すぎる人物が米大統領に当選したこと、そして中国が台頭したこと。この本来は交わらない二つの流れが交差したことで、弱い立場の人々にも、富裕国が主導してきた世界の不公平さを見直す契機が生まれた。世界は、豊かな国々が語る繁栄や美しさだけで構成されているわけではない。富裕国だけが富を収奪する裁量を持つわけでもない。権力の背後にある貪欲さを見過ごし、黙認するなら、その災いはいずれ自分自身にも、子孫にも及ぶ。
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いま世界では戦火が絶えず、難民は増え続けている。その一方で財閥はなお、自らの商業版図と利益計算に余念がない。流血を伴わない新疆は「ジェノサイド」と喧伝される一方、現実の戦争や民族浄化には目をつぶる。この世界の偽善は、もはや病的な水準に達している。
トランプ再登場は偶然ではない
気まぐれで一貫性を欠くトランプが再び大統領になったことは、西洋の没落がいまなお進行中であることを示している。ノーベル経済学賞受賞者ジョセフ・スティグリッツが指摘したように、2008年の金融危機後、オバマ政権は銀行家たちの声ばかりを聞き、銀行の崩壊が社会の崩壊につながると信じた。その結果、救済されたのは1%にも満たない頂点の金融エリートであり、多くの給与所得者は置き去りにされた。
オバマの政策は金融市場の利益を守る一方で、それ以外の大多数を遠ざけた。経済回復が弱々しいものに終わり、政治的には破滅的な帰結を招いたのは当然である。その代償として、誰も予想しなかったトランプの当選が起きた。原因は明快だ。問題を引き起こした当人たちが先に救われ、無関係な人々がその代償を払わされたのである。時間がたつにつれ、人々は政治家に裏切られたと感じ、怒りがトランプを押し上げた。
金融危機の背景には、カーター政権以来の金融規制緩和がある。レーガン、ブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)と続き、金融の自由化は共和・民主の垣根を越えた共通路線となった。資本の奔流は製造業を米国から押し出し、財閥主導の経済を決定的にした。
20世紀初頭のジョーンズ法は、その不条理を象徴している。米国内を航行する船は、建造、所有、運航、乗組員のすべてが米国本土のものでなければならないと定めた法律だ。その結果、米国の造船業は世界シェア0.04%未満にまで縮小し、国民には毎年数十億ドルの余分な負担が生じている。少数の大富豪だけが利益を得て、国民全体が損をする法律がなぜ成立し、なぜ改正されないのか。米船主協会の会長が下院議長に対する最大の政治献金者であることを見れば、米国の政・財の癒着の深さは明らかだ。
大富豪が容易に利益を得る一方、多くの庶民は生活の瀬戸際でもがいている。こうした資本の荒波に打ちのめされた人々こそ、トランプを支える最大の支持基盤だった。言い換えれば、トランプ以前の歴代大統領こそが、彼にとって最大の応援団だったのである。
失敗したイラン戦争
トランプは反戦を掲げて当選した。しかし年初にはベネズエラに侵攻し、ほぼ無傷のまま、長く反米姿勢を取ってきたマドゥロを制圧・拘束した。いわば「ベネズエラ・モデル」である。これは、トランプが好む短期決戦型の政治ショーにぴったり合っていた。
昨年、トランプは中国に対して大々的に関税戦争を仕掛け、100%超の関税まで口にした。だが、中国のレアアース禁輸を前に、すぐに後退した。関税を課すのか、引くのか。そうした不確実性が米国内経済にも影を落とした。そこへ国土安全保障省をめぐる異常な事件も続き、トランプの支持率は下がり続けた。だからこそ彼は、再び「ベネズエラ・モデル」の成功を再現し、内外の混乱から抜け出そうとしたのである。
一方、イスラエルはイランを中東覇権への最大の障害とみなし、神権体制を一気に倒したいと考えていた。米国とイスラエルは利害を共有し、共同で軍事行動に出た。トランプの開戦目的は、神権体制の打倒、核施設の破壊、イランの武装解除だった。開戦前には、1時間でイランを屈服させると豪語した。第1波の攻撃で最高指導者ハメネイは殺害された。だがその後、イラン革命防衛隊はより強硬な新体制をすぐに立て直した。
イランは米国に勝てない。だが湾岸諸国のエネルギー施設を破壊するには十分な力を残していた。米国による空爆にも革命防衛隊は崩れず、逆に湾岸の石油・ガス施設の一部が被害を受け、ついにはホルムズ海峡封鎖という最後の一手が打たれた。これによって原油と天然ガス価格は急騰し、肥料供給は細り、インフレ圧力が高まり、金融市場も揺れた。
戦争は6週間に及んだ。世界最強の軍事大国が、自国の備蓄兵器をすり減らしながら、結局は一国によるホルムズ海峡封鎖すら解けない。この現実は、米国が繰り返し唱えてきた「航行の自由」を皮肉るものであり、世界の安全保障を担うという米国の信用にも深い傷を残した。
湾岸の産油国は長年、安全保障を米国に委ね、その見返りとして得た石油収入を米国債に再投資してきた。このオイルダラー体制の前提は、イランの粘り強さによって揺らいだ。短期でペトロダラーが崩壊するわけではないにせよ、中国にとっては人民元建ての石油取引を広げる余地が生まれた。ホルムズ海峡は、トランプがイランに与えてしまった戦略的な贈り物だったのである。
トランプの性急さは、たとえイランを廃墟にしたとしても、最後には海峡封鎖という捨て身の手を招いた。米軍は日々の戦闘には勝っても、封鎖された海峡を前に有効打を持たなかった。こうした弱点を解決できない高価な兵器は、結局のところ軍産複合体を潤しただけであり、トランプ政権の官僚機構の混乱をさらけ出したにすぎない。
欧州もまた、バイデンの無力さとトランプの気まぐれによって、ほとんど意味を持たない第三者へと追いやられた。イラン戦争は欧州の戦争ではなく、欧州にはそれを戦い抜く余力もない。しかしトランプにとって欧州は、自分に従うべき存在だった。NATOがイラン戦争への全面関与を避けたことにトランプは激怒し、米欧分断をさらに加速させた。
この戦争を経て、中東の石油・ガス供給の不確実性は、代替エネルギーへの需要を一気に押し上げた。結果として、中国が抱えていたグリーンエネルギーやEVの過剰生産能力は、化石燃料の代替として新たな出口を得ることになった。戦争の結果、欧州の伝統的同盟国や湾岸の諸国は、米国を外した新しい道を探り始め、中国というより確実な選択肢へ視線を向けるようになった。全体として見れば、米国が損をし、中国が得をした戦争だった。トランプにとっては、なんとも皮肉な結果である。
台湾への示唆
ホルムズ海峡封鎖が示したのは、旧秩序が崩れ、新秩序はなお形成途上だという現実である。米国の伝統的な安全保障パートナーたちは一様に、米国から距離を置くヘッジの道を探っている。だが台湾の頼清徳政権は、親米路線に没頭し、トランプという嵐が台湾に向かっていることに気付いていない。最初の打撃は、石油と天然ガスの不足かもしれない。
トランプが世界に「保護料」を求める中で、彼を後退させ得る唯一の存在は習近平である。理屈の上では、台湾にとって最大の防波堤になり得るのは、頼政権が「悪しき隣人」とみなす中国そのものだ。もちろん頼政権がそう考えることはないだろう。しかし現実を無視する政策は、いずれ必ず代償を伴う。
トランプは、強い相手には引き、弱い相手には強く出る典型的な人物だ。弱者への威圧には容赦がない。だが、眠ったふりをしている者を起こすことはできない。目を開いている台湾の人々は、ただ胸を痛めるしかない。
イラン戦争が突きつけた現実は、誰もがサプライチェーンを見直さざるを得なくなったということでもある。平時には想像もしなかった供給途絶のリスクが、いまや現実になっている。TSMCはグローバルな供給網と自らの努力によって、世界最高のファウンドリー企業へと成長した。だが、その背後にある装置、設備、材料、ソフトウェアのどれだけが他国に握られているのか、我々は本当に理解しているだろうか。
米国がもはや世界の安全網を支えられないのであれば、台湾は何を根拠に、TSMCの供給網を米国が守ってくれると信じるのか。過去の成功は、未来の安泰を保証しない。カタール産ヘリウムが止まった場合、TSMCの生産ラインはどこまで持ちこたえられるのか。長年「護国神山」と持ち上げられてきたTSMCも、工程を細かく見れば、あらゆる部材と部品の供給源がリスクである。近くで見れば、その「神山」もまた脆さを抱えた存在なのかもしれない。
頼政権は、避けられない難題に直面した時も、選挙の局面でも、いつも同じ反応を繰り返す。台湾は自由民主主義陣営の確固たるパートナーだ、という主張である。どれほど先行きが不透明であっても、民主主義国は台湾を守るために迷わず介入する――そうした図式を信じているように見える。
だが、オバマには決定的な場面で少数の富裕層を優先する程度の道徳しかなかった。まして、教皇すら平然と侮辱するトランプが、道義にもとづいて台湾を守ると本気で言えるのだろうか。ジョン・ミアシャイマーが『大いなる妄想』で論じたように、小国にとって同盟はしばしば幻想であり、それは超大国の特権であり、小国を安心させるための装置にすぎない。小国がその幻想を信じ込む時、最も危険な状況に陥る。頼政権が台湾の安全保障を米国の空虚な約束に全面的に委ねることは、自ら墓穴を掘ることに等しい。
西洋の政治的自由や言論の自由は、財閥の影響と切り離せない。そうした自由が普遍的価値の唯一の基準であるかのように語ることには、私は賛同できない。少なくとも財閥寄りの自由よりは、マルクスの階級と剰余価値の議論の方がまだ筋が通っているように見える。トランプがイランで橋梁、学校、発電所を無差別に攻撃したことは、人権や人道をかなぐり捨てた行為だった。そのような人物を頼政権が救世主のように仰ぎながら、人権や自由民主主義を普遍的価値として称揚するのは、あまりにも空虚である。
米国に大量の武器を買わされることが、本当に台湾海峡での対立に勝機をもたらすのか。考えれば考えるほど、やりきれなさが残る。かつて台湾では「私は人間だ、私は反核だ」という選挙スローガンが、反対派を圧倒した。だが10年も経たぬうちに、台湾は安定したエネルギー不足という現実に直面している。短期的な選挙向け政策が、長期的には台湾の未来を傷つけることを改めて示している。
いまの頼政権の親米ぶりは、もはや「私は人間だ、私は親米だ」と言わんばかりだ。だが、その苦しくも空虚な判断は、逆に「私は人間だ、私は米国を疑う」という感覚を、非与党陣営の間で広げていくことになるだろう。
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