かつて台湾と韓国は「アジア四小龍」の競争相手として、経済でもスポーツでも激しくしのぎを削ってきた。台湾社会では長年、「韓国に勝ちたい」という感情が広く共有されてきた。だが、国際通貨基金(IMF)がこのほど公表したデータによると、これまで経済規模や1人当たり所得で台湾を上回ってきた韓国が、いまや台湾に急速に差を広げられている。人工知能(AI)と半導体のスーパーサイクルがもたらす新たな富の再配分の中で、台湾はファウンドリ(半導体受託製造)の圧倒的優位を武器に韓国を大きく引き離しており、韓国国内では「台湾に追い抜かれた」という危機感が広がっている。
台湾は4万ドル台、韓国との差は拡大へ
韓国紙『韓国経済新聞』がIMFデータを引用して報じたところによると、2026年の韓国の名目1人当たり国内総生産(GDP)は3万7412ドルの見通しであるのに対し、台湾は4万2103ドルに達する見込みだ。台湾はすでに韓国を上回っており、その差は4691ドルに広がる。
さらに韓国にとって重いのは、為替要因を除き、実質的な生活水準を反映しやすい購買力平価(PPP)ベースの1人当たりGDPだ。2026年の韓国は6万8624ドルと見込まれる一方、台湾は9万8051ドルに達する見通しで、差は2万9427ドルに及ぶ。実質購買力でみると、台湾は韓国を43%上回る計算になる。
韓国の1人当たりGDPは2014年に初めて3万ドル台に乗せて以来、長く伸び悩んできた。IMFは韓国が4万ドルを突破する時期について、従来見通しの2029年から2028年へと前倒ししたものの、予測値は4万695ドルにとどまり、依然として台湾との差は大きい。『韓国経済新聞』の主筆、李心基(イ・シムギ)氏は「なぜ韓国は台湾に遅れを取り始めたのか」と題した論考の中で、この差は単なるウォン安による見かけの問題ではなく、経済構造そのものの違いが表面化した結果だと指摘している。
『朝鮮日報』もIMF推計を引用し、台韓の1人当たりGDP格差は今後さらに拡大すると伝えた。差は2026年の4691ドルから、2027年に5880ドル、2028年に6881ドル、2029年に7916ドルへと広がり、2030年には9073ドルに達する見通しという。2031年には韓国が4万6019ドル、台湾が5万6101ドルとなり、差は1万ドルを超える見込みだ。
同じく伸び悩みが目立つのが日本だ。IMFによると、日本の2026年の1人当たりGDPは3万5703ドルと、前年より約300ドル減少する見込みで、4万ドルの大台を超えるのは2029年になる見通しだ。世界順位も43位にとどまる。台湾は韓国を上回っただけでなく、東アジアのハイテク製造業の中で主導的な位置をさらに強めつつある。
AI特需の恩恵を国家の成長に結びつける台湾
同じくAI投資拡大と半導体市況の回復という追い風を受けながら、なぜ台湾は技術の果実を国家全体の成長へと結びつけ、韓国はそこまでの勢いを示せていないのか。その答えは、半導体エコシステムにおける主導権の差にある。
台湾の主計総処が4月30日に発表したデータによると、台湾の2026年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比13.7%に達した。これはブルームバーグのエコノミスト予想である11.3%を大きく上回り、1987年第2四半期(14.4%)以来、39年ぶりの高い伸びとなった。第1四半期の輸出も前年同期比35.3%増と大幅に伸び、3月単月の輸出額は804億ドルと過去最高を更新した。前年比では約62%増だった。
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の大中華圏チーフエコノミスト、楊宇霆氏は、中東で軍事衝突が起きたにもかかわらず「AI技術のスーパーサイクルは依然として堅調だ」と指摘する。こうした基調のもと、台湾はアジアの成長をけん引する存在になるとの見方だ。
これに対し、韓国の2026年第1四半期の成長率は1.7%で、市場予想の0.9%を上回り、5年半ぶりの高水準となったものの、台湾との差はなお大きい。しかも韓国の輸出は半導体への依存度が極めて高く、第1四半期は輸出全体の40%を半導体が占めた。半導体を除けば、他分野の輸出はむしろ1%減少したという。
野村証券のエコノミスト、朴正宇氏は、「AI時代にメモリー半導体輸出だけに依存し続ければ、韓国は台湾のために働くような構図に陥るリスクがある」と指摘している。
『リード経済』の分析によれば、2025年の半導体によるGDP成長への寄与度は台湾が約70%に達する一方、韓国は約30%にとどまる。韓国のサムスン電子やSKハイニックスはメモリー市場で圧倒的地位を築いているが、台湾のTSMCはAI向け先端半導体の受託製造を握り、エコシステム全体の価格決定権と利益分配で優位に立っている。メモリーがAI演算に不可欠であることに変わりはないが、最終的な付加価値の配分では、ファウンドリ側の影響力がはるかに大きいという構図だ。
韓国の国際金融センターによると、3月末時点で主要海外投資銀行8行による台湾の2026年成長率見通しの平均は7.1%だった。中東情勢という地政学リスクがありながら、2月末時点の見通しから約1ポイント引き上げられている。
台湾経済研究院の景気予測センター主任、孫明徳氏は、AI普及を契機に台湾の輸出構造が伝統産業中心から情報通信技術(ICT)製品中心へと急速に転換しており、すでにICT製品が総輸出の約8割を占めていると指摘する。同研究院の張建一院長は、台湾の通年GDP成長率予測を7.56%へと大幅に引き上げ、商品輸出の伸び率見通しも13.84%から27.11%へと上方修正した。背景にあるのは、TSMC、聯発科技(メディアテック)、日月光投資控股(ASE)などが支える、盤石な半導体エコシステムである。
韓国の半導体大手は好業績でも、国家全体には波及しにくい構造
もっとも、韓国の半導体大手2社が利益を上げていないわけではない。SKハイニックスは第1四半期に大幅な増益を記録し、営業利益率も高水準に達した。サムスン電子も同様に好業績を示し、両社ともに半導体回復局面の恩恵を受けている。
しかし問題は、こうした財閥企業の収益拡大が、台湾のように経済全体を広く押し上げる力につながっていないことだ。台湾ではAI関連需要が、半導体のみならず設計、封止、ICT輸出、設備投資へと連動して広がっている。一方、韓国では利益が大企業に集中し、内需や中小企業、サービス産業へと波及しにくい構造が残っている。
低迷する内需と財政負担 韓国経済の構造課題
半導体分野での主導権の差に加え、韓国内部の経済構造の弱さも、台湾に差をつけられる背景となっている。李心基氏は、台韓の1人当たりGDP逆転をもたらした最大の要因として「内需不振」を挙げる。
IMFデータによると、2020年から2024年にかけて韓国の民間消費は年平均1.3%の増加にとどまり、同期間の実質GDP成長率2%を下回った。不動産プロジェクトファイナンス危機や建設業不振の影響もあり、過去5年間の投資の成長寄与度は18%にすぎない。輸出が好調でも、消費と投資が弱ければ、富は国内全体に浸透しにくい。
もう一つの問題は、生産性の二極化だ。李氏は、韓国経済の本当の課題は半導体そのものではなく、「半導体以外のサービス業、中小企業、内需部門があまりに脆弱なことにある」と指摘する。資源配分の非効率や過剰規制により、サービス業や中小企業では新技術導入が遅れ、生産性の停滞が深刻化している。AI需要が減速し、メモリー市況が反転すれば、偏った産業構造は大きな揺り戻しに直面する可能性がある。
財政面でも懸念は強い。韓国政府とIMFの『Fiscal Monitor』によると、韓国の一般政府債務残高の対GDP比は、2026年の54.4%から2027年には56.6%へと上昇し、IMFが分類する非準備通貨先進国11カ国の平均(約55.0%)を上回る見通しだ。2020年から2025年にかけて韓国の名目GDPは年平均5.3%成長したが、国家債務(D1)の年平均増加率は9.0%に達している。
これに対し、台湾の2026年の国家債務比率は約27.6%と見込まれ、韓国の半分程度にとどまる。将来の産業再編や景気変動に対応する余力という点では、台湾の方が明らかに大きい。
李氏は、韓国の経済規模そのものは台湾を上回るものの、IMFの見立てでは成長速度、産業競争力、財政余力のいずれにおいても台湾が優位に立っていると指摘する。IMFも韓国に対し、経済が潜在成長率水準に戻った後は、高齢化に伴う医療・社会保障支出の増加に備え、速やかに財政健全化路線へ回帰すべきだと求めている。
李氏は、韓国が台湾に抜かれたのは一時的な現象ではなく、持続的成長を実現するには産業構造全体の再設計が必要だと強調する。半導体好況という目先の追い風だけで、構造問題を覆い隠すことはできないというのが、いま韓国国内で強まっている危機感の本質だ。