【寄稿】なぜ長崎原爆平和祈念式典で台湾代表が抗議したのか 「被害者コスプレ」から考える日台関係

2026-10-02 18:34
米国による原爆投下から81年となる2026年8月9日、長崎市の平和公園で平和祈念式典が行われ、平和祈念像の上空をハトが舞った。(AP)
米国による原爆投下から81年となる2026年8月9日、長崎市の平和公園で平和祈念式典が行われ、平和祈念像の上空をハトが舞った。(AP)

日本のプロ野球界で長年活躍した張本勲が9月9日に亡くなった。享年86歳だった。「安打製造機」の異名を取った張本は、NPB唯一の通算3000安打達成者で、通算安打のNPB記録保持者。またNPB唯一の通算500本塁打・300盗塁達成者。

さらに史上最多の16度のシーズン打率3割、史上最長の9年連続打率3割のNPB記録保持者。長年のプロ野球ファンにとっては、忘れることのできない名選手だ。

後に、数々の輝かしい記録を残した張本が、元在日韓国人二世の野球選手として、日本球界のみならず韓国でも尊敬を集める存在だとを知った。深刻な民族差別が横行した時代、壮絶な貧困の中で育った在日韓国人二世の少年が、日本プロ野球界を代表する選手となって活躍したサクセスストーリーが、韓国の人々に感銘を与えたことは想像に難くない。

1990年代のある年、ソウルの食堂のテレビで野球中継が流れていた。アナウンサーが「장훈씨(張勲さん)」というのでテレビを見やると、解説席に張本が座って韓国語で受け答えしていた。

筆者は韓国語使いではないので、文法や言い回しなどの細かい点についてはよく分からなかったが、やや日本訛りながらも、けっこう流暢に、そして楽しそうに話していたことが印象に残っている。彼の韓国語は在日一世の母上と対話することで鍛えられたと聞き、合点がいった。やはり母の影響は絶大なのだ、と。

張本は晩年、幼少時に広島で被爆した体験をメディアや講演などを通じて語り継ぐことに力を注いだと聞く。張本は1945年8月6日、5歳の時に爆心地から約2kmの広島市内の自宅で被爆した。

6歳上の姉が爆心地近くで全身に大火傷を負い、数日後に亡くなった。母もガラスの破片が刺さる重傷を負った。張本少年も被爆後、焼けただれた人々や、暑さからドブ川に飛び込む人々の姿など、壮絶な情景を目の当たりにしたという。

しかし、家族にとってのあまりに辛い記憶と悲しみから、現役時代の張本が原爆被害について語ることは絶えてなかった。敗戦後の日本では、原爆被害者に対するいわれのない差別もあったという。

そんな張本が重い口を開くようになったのは、2005年ごろ、テレビの街頭インタビューで戦争に無関心な若い世代の姿を見て危機感を抱いたためだという。傷ましい歴史と経験を風化させないためにも、自分の被爆体験を語り始める決意をしたという。

プロ野球で多くの記録を残した名選手が、長年にわたって封印してきた自らの被爆経験を語ることで、多くの人々がその悲惨さを改めて感じるようになった。爾後、張本は「最後の伝え手」として、二度と戦争を起こしてはならないと訴え続けた。 (関連記事: 「台湾有事」の遠因は「二・二八事件」にあり 歴史はいかに政治利用されたか【本田善彦・早田健文】 | 関連記事をもっと読む )

張本は9年前、NHKのインタビューに対し「(夏になると原爆を投下されたときのことを)必ず思い出しますよね。70何年ですけども、戦争は終わりましたけどね、われわれ被爆者には(戦争は)もう終わりはないですからね。ですから、8月になると本当にいやな思いをしますよね。6日と9日、広島と長崎に原爆を落とされましたからね」と語っている。

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