台湾の労働部長(労働相に相当)は先日、立法院(国会)での質疑に対し、インド人労働者の導入が今年末にも実現する見通しであることを明らかにした。現在は最終段階の体制構築と行政手続きが進められているという。メディアの報道を受け、社会では再び議論が巻き起こっているが、かつての激しい反対運動に比べれば、今回の反応は相対的に落ち着きを見せている。政府の公共政策プラットフォーム上でも、条件付きの導入を求める声は上がっているものの、全面的な反対意見は影を潜めている。台湾の経済発展において、インド人労働者の導入は不可欠であり、今回は初めて「直接雇用」と「仲介業者」の併用制が採用される点に、大きな意義がある。
導入の背景、1990年代から続く深刻な人手不足
台湾とインドは2024年に「労働協力覚書(MOU)」を締結した。第一弾として製造業に従事するインド人労働者1000人の受け入れを予定しているが、現時点では導入に至っていない。どの国においても、外国人労働者の導入背景には深刻な労働力不足がある。今回のインド人労働者の導入も、1990年代に始まった東南アジアからの労働者受け入れと同様、切実な人手不足が発端となっている。
労働力不足の要因と対策については、これまで多くの専門家によって研究や提言がなされてきた。かつての議論では、少子化が現在ほど深刻ではなかったこともあり、主な原因は「低賃金」「過酷な労働環境」「不十分な福利厚生」にあるとされていた。また、産業構造の高度化に対応するための教育政策の転換により、技術教育体系の発展が阻害され、技能職の社会的意義が損なわれたことも一因とされている。
少子化と労働力不足、供給源の多角化が急務
現在、台湾が直面している深刻な労働力不足は、国家安全保障に関わる重大な課題、すなわち「少子化」と密接に関連している。メディアがインド人労働者の年内導入の見通しを報じる一方で、出生率向上のための補助金が十分な効果を上げられず、人口減少が加速している現状も浮き彫りになっている。これら二つの課題に対処するため、労働力供給源の多角化は火急の的であり、インド人労働者の導入決定は、供給国を拡大するという観点からも極めて重要である。
現在、台湾の主な労働力供給国はタイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアの4カ国であるが、これらの国々は主要な労働力輸出国であり、台湾は他国との激しい人材獲得競争にさらされている。インド人労働者の獲得において、主な競合相手はアラブ首長国連邦(UAE)などのペルシャ湾岸諸国や、東南アジアのシンガポールである。深刻化する労働力不足への主要な対応策として、供給国の拡充は避けられない選択となっている。
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なお、台湾における外国人労働者は主に「産業分野」と「家事・介護分野」に分類される。統計データによると、インドネシア人は主に一般家庭の家事や介護に従事し、他の3カ国からの労働者は、建設現場、工場、公共事業などの産業分野を支える主力となっている。
慎重な段階的導入と「直接雇用」の意義
台湾国内ではインドに対する馴染みが薄く、メディアやインターネットの情報に依存しているため、導入に対する懸念の声も上がっている。政府はこうした懸念を払拭するため、台湾インド研究協会などの専門家団体や労働部主催の会議における各界代表の提言を真摯に検討。その結果、まずは1,000名の産業分野の労働者を導入するという「段階的な受け入れ」を決定した。導入数や対象職種の制限は、国民の不安に対する前向きな回答といえる。
今回の導入における大きな意義の一つは、人権団体の提言に応える形で「直接雇用(ダイレクト・ハイアリング)制度」を試験的に導入することである。これは、既存の仲介業者制度下で労働者が負ってきた過度な手数料負担を軽減することを目的としている。長年、仲介業者に依存してきた台湾にとって、直接雇用と仲介業者利用を併用する「双軌制(ツイントラック制)」は現実的なアプローチであり、制度移行に伴うコストも抑えることができる。
2024年の立法院(国会)の決議に基づき、導入数の少なくとも5%を直接雇用、残りを仲介業者経由とする方針だ。初年度の1,000人を例に挙げれば、少なくとも50人が直接雇用され、950人が仲介業者を通じて導入される計画である。
直接雇用と仲介業者、二つの採用ルート
直接雇用(ダイレクト・ハイアリング)のプロセスでは、まず台湾の事業者が求人を出し、労働部の「直接雇用共同サービスセンター」がその情報をインド側の協力機関に伝達する。インド側で募集が行われた後、候補者の情報が同センターを通じて台湾の事業者に届けられ、最終的な選考が行われる。採用決定後、労働者はインド現地での健康診断とビザ申請を経て、台湾での就労を開始する流れだ。
一方、仲介業者を経由する場合、インド政府は仲介手数料の上限を「給与の1カ月分」と定めており、送り出し国側での深刻な搾取が起こりにくい仕組みとなっている。手続きとしては、労働部がインドを労働力供給国として正式に公告した後、インドの業者が台湾で登録を行い、台湾の仲介業者と提携する。インドの業者が募集した人材を台湾の業者が雇用主に紹介する形式となり、直接雇用と同様に、現地での健康診断とビザ申請が必要となる。
製造業からの段階的開放と「深刻な人手不足」の現状
段階的な導入計画に基づき、第一弾として製造業に限定して1,000人を受け入れる。これは国民の懸念に配慮したもので、まずは労務管理の経験が豊富な産業から着手し、その状況を見極めた上で家事・介護分野への拡大を検討する方針だ。
インド人労働者の導入は、台湾の経済および産業発展において不可欠である。美容院や飲食店、ホテル、スーパーや伝統市場など、日常生活の至る所で深刻な人手不足を実感する場面が増えており、中には人手不足を理由に閉店を余儀なくされる店舗も少なくない。また、公共事業の建設現場においても、多くの外国人労働者が社会インフラを支える不可欠な存在となっている。
人手不足は台湾が直面している現実的な問題であり、極めて深刻な課題である。少子化問題の改善と解決は根本的な対策として不可欠だが、即効性は期待できない。国民がインドに対して馴染みが薄いために不安を感じるのは理解できるが、メディアや政論番組における批判、あるいは政策プラットフォームに寄せられた訴求内容を精査すると、その多くは導入自体に反対しているのではなく、付随する施策や受け入れ体制の重要性を強調するものとなっている。
外国人労働者の導入に関する議論において、1990年代初頭の東南アジアからの受け入れ時も、現在のインド人労働者の導入時も、我々が看過しがちなのは、制度上の規範や施策以外の部分、すなわち「人と人との交流」である。互いの信頼関係、そして平等かつ尊重し合えるかどうかが、我々の抱く懸念が現実のものとなるか否かを決定づける最大の要因となるだろう。
*筆者:魏玫娟(国立政治大学国家発展研究所副教授、台湾インド研究協会理事)