台湾の行政院が提出した、期間8年、予算上限1兆2500億台湾ドルの「防衛強靭性および非対称戦力調達特別条例」(通称:国防特別予算条例)草案を巡り、立法院で7日(木) に4回目となる与野党協議が行われたが、合意には至らなかった。早ければ翌8日(金) の本会議で採決が行われる見通しだ。
米国は同条例の審議状況に高い関心を寄せている。米国在台協会(AIT) 台北事務所のレイモンド・グリーン所長が国民党主席の鄭麗文氏を2度訪問したほか、先日台湾を訪問した元米海軍情報局長(ONI) のマイケル・スチュードマン氏 (退役少将) も、「台湾が中国共産党の専制支配を望まないのなら、立法院は同条例を可決し、自己防衛の手段を増やすべきだ」と明言した。
スチュードマン氏は 、中国共産党高官でさえ平穏な生活を送れていない現状を例に挙げ、「専制主義や暴政の下での生活は、常に恐怖と隣り合わせだ」と指摘する。さらに、「もし暴政を味わいたいなら、何もせず、いかなる法案も通過させなければいい。そうすれば、暴政の方からやって来るだろう」と警告した。
「自らの未来を切り開きたいと願うのであれば、自分を守るために多大な時間、労力、そして資源を投じなければならないことを理解すべきだ。これこそが、国防特別条例の意義である」と同氏は強調している。
米海軍のマイケル・スチュードマン退役少将は、2022年8月に海軍情報局長に就任した。(写真/米海軍公式サイト提供)
「暴政を味わいたいなら何も法案を通さなければいい、暴政の方からやって来る」 現在58歳のスチュードマン氏 は、2023年に米海軍情報局(ONI)局長(少将) を退役した。それ以前には、台湾を管轄地域に含む米インド太平洋軍の情報部長や、中南米を管轄する米南方軍の情報部長を歴任している。
特筆すべきは、米インド太平洋軍情報部長の在任中に2度にわたり極秘で台湾を訪問し、当時の蔡英文総統および国家安全保障の高官に対しブリーフィングを行った点だ。これは、1979年の米台断交後、台湾を訪問した現役米軍将官として最高位の記録となっている。
同氏は今月1日、台北で台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の単独インタビューに応じた。中国共産党中央軍事委員会高官の粛清が、習近平・中国国家主席の台湾侵攻計画に与える潜在的な影響について、次のように分析した。「党の体制下で高位にある人物であっても、必ずしも党国体制の全貌を把握しているとは限らない。現状を理解するだけで毎日多くの時間を費やしており、指導的地位にある者は皆、常に不安定で恐怖から逃れられない状態にある」
共産党の体制は事実上の全体主義であり、あらゆる事象が党と国家のために機能していると同氏は指摘する。他の高官が粛清され、瞬く間にその地位から引きずり下ろされるのを目の当たりにすれば、安心感など得られるはずもなく、自己保身のために言動に細心の注意を払い、常に周囲を警戒するのは当然であるとした。
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「これこそが、専制支配や暴政の下での生活の実態だ。もし台湾が自己防衛に必要な資源を投じる覚悟を明確に持たなければ、一般的な台湾市民もこのような現実に対峙することになるだろう」
スチュードマン氏、台湾有事の最大危機は2027年ではなく2028年以降 「2027年デービッドソンの窓」という概念は、近年、米ワシントンにおいて台湾海峡の安全保障を議論する際のキーワードとなっている。これは、当時の米インド太平洋軍司令官であったフィリップ・デービッドソン氏(大将) が2021年に米議会で行った証言に由来する。同氏は、中国が2027年までに米国の介入を阻止し、武力による台湾侵攻を可能にする軍事力を獲得すると予測。米国と同盟国はこの7年間を活用し、中国の軍事的台頭を相殺、あるいは遅延させるための抑止力を構築する必要があると警鐘を鳴らした。
これに対しスチュードマン 氏は、台湾にとって最も危険な時期は2027年ではなく、習氏が2027年秋の第21回中国共産党全国代表大会(第21回党大会)で4期目(1期5年) の任期を獲得した後、すなわち2028年から2032年にかけてであるとの見解を示した。
さらに、「2027年デービッドソンの窓 」はデービッドソン氏個人の見解というより、米国の政治・軍事機関における共通認識に近いと指摘する。習氏自身の発言や米国が収集したインテリジェンスを総合しても、2027年以降に台湾海峡情勢が重大な局面を迎えることが示唆されている。「これは中国共産党が2027年に台湾への武力行使や海上封鎖を直ちに実行するという意味ではない。習氏が人民解放軍に対し、2027年までに台湾侵攻能力を具備するよう命じているということだ」と述べた。
2026年5月1日、元米海軍情報局長のスチュードマン氏が『風傳媒』の単独インタビューに応じた。(写真/柯承惠提供)
「中国に平和的台頭の意図はなく、強大な軍事力による目的達成を狙う」 肯定的な側面として、デービッドソン氏が2021年にこの見解を提示して以降、ワシントンの政策決定者や国家安全保障関係者の間で警戒感が効果的に高まったことが挙げられる。すなわち、米国は中東情勢や対テロ作戦にのみ注力するのではなく、今後10年以内に東アジアで勃発し得る危機にも目を向けるべきだという認識である。その結果、米国は近年、中国の冒険主義的な行動に対する対抗策の構築に資源を投入し始めた。万全な態勢とは言えないまでも、少なくとも無策ではなくなっている。
「(2021年以降の) 中国のあらゆる変化は、我々の見解が正しかったことを証明している。人民解放軍の近代化、対外的な威嚇行動、第一列島線および第二列島線への軍事展開、さらには日本、オーストラリア、フィリピンの周辺を軍艦で周回する動きなど、これらはすべて中国が対外的に自信を深めていることの表れである」
来年の第21回党大会まで、習氏は台湾に対し軽挙妄動を控える見通し スチュードマン氏 の分析によれば、習氏は2027年秋の第21回党大会まで、台湾に対して軽率な行動に出ることはないという。なぜなら、同氏が第21回党大会で中国共産党中央委員会総書記および国家主席の4期目へ順調に移行するためには、この期間、国内外の情勢を安定させる必要があるからだ。
しかし、2027年に4期目の任期を確実なものとした場合、習氏はより忍耐力を失い、冒険主義的な行動に出る可能性が高まると指摘する。さらに、同氏の高齢化(現在72歳) に加え、張又侠氏のように真実を進言できる中央軍事委員会の将官らが粛清され、新たに登用される将官がすべてイエスマン(唯々諾々と従う者) で占められるリスクがある。そうなれば、習氏に対し直言し、歯止めをかけられる軍最高幹部は存在しなくなる。
これらの複合的な要因により、2028年から2032年にかけてが台湾にとって最も危険な期間となるのである。
「習氏はいわゆる『台湾問題』の解決に強い執着を見せており、イデオロギー、軍事力、そして経済の安全保障化において多大な準備を進めている。これらの動きは、ある超大国が台湾情勢の処理(武力侵攻) 後に待ち受ける苦難の時期を見据え、既に各種の事前準備を整えていることを示しており、極めて憂慮すべき事態だ」
スチュードマン氏、 自らの運命を掌握し、強靭化を図ることで「くみしやすい相手」と見なされないことが重要 習氏および中国共産党の目論見に対し、スチュードマン氏は、台湾、米国、そして同盟国がなし得る対応策は「中国政府の計算に生じる変数を増やすことだ」と指摘する。同盟国(特に米政府)の政治的決意、軍事力、各国間の連携深化の度合いに加え、中国国内の情勢変化などが、中国政府にとって再考を迫る重要な要素となる。
「特定の条件下において、習氏は武力行使への強い欲求を抱く可能性がある。したがって、我々はその状況に流されるのではなく、主体的に条件を操作しなければならない。自らの運命を切り開くためには、前提条件に影響を与え、実力を養い、より強大で強靭な存在となる必要がある。他国からくみしやすい相手と見なされてはならない」
「未来は決して宿命づけられたものではない。上述した要因は常に変化し続ける。我々にできることは、中国から見てこれらの要因を極めて厄介な障壁と認識させ、彼らが冒険的な行動に出る機会を減らすことである」