舞台裏》台湾国産潜水艦「海鯤号」は本当に大丈夫か 台湾海軍と台船が「ある時期」を待つ理由

台湾初の国産潜水艦「海鯤号」は試験期間中も波乱が続き、任務を遂行できるか注目が集まっている。(写真/台湾国際造船提供)
台湾初の国産潜水艦「海鯤号」は試験期間中も波乱が続き、任務を遂行できるか注目が集まっている。(写真/台湾国際造船提供)

台湾が総額500億台湾ドル(約2400億円)を投じて建造している国産潜水艦「海鯤(ハイコン)号」をめぐり、試験の進捗と信頼性に注目が集まっている。現在、「海鯤号」は海上試験(SAT)のうち浮上航行試験を終え、造船元の台船は、最終的な調整作業を経て潜航試験に移る計画だと説明している。ただ、この重要な段階に差しかかる中で、「錨が搭載されていない」「一部主機が未装備」「X字型舵(X舵)が人力操作のみ」といった否定的な情報が相次いで流れ、海軍や台船関係者の間では「意図的な印象操作ではないか」との見方も出ている。

台船はこれまで複数回にわたり説明資料や声明を出し、報道内容の一部を否定・補足してきたが、憶測は収まっていない。立法院では野党議員を中心に、海鯤号の完成度や安全性を問う質疑が相次ぎ、こうした過程で海軍司令官も唐華氏から蒋正国氏へと交代した。「これだけ流言が飛び交えば、『計画は破綻したのではないか』との声が出るのも無理はない」。そうした空気の中で、関係者の一人は『風傳媒』の取材に対し、「技術的に造れない理由は見当たらない」と語っている。

20240713-総統頼清徳13日午前に基隆を訪問し、海軍131艦隊を激励、海軍司令唐華上将(左)、海軍副参謀総長蒋正国中将、海軍艦隊指揮部指揮官呉立平中将が出席。(張曜麟撮影)
海軍司令官は唐華氏(左)から蔣正國氏(中央)に交代したが、海鯤号の試験工程はなお続いている。(写真/張曜麟撮影)

相次ぐ「攻撃的報道」 背景に何があるのか

契約上、海鯤号の引き渡し期限は2025年11月とされており、11月末までに引き渡しができなければ、台船には1日あたり19万台湾ドル(約95万円)の違約金が科される。現時点で期限内の引き渡しは難しいとみられ、台船側は事実上、時間との戦いを強いられている。海鯤号は2025年11月28日、5回目となる海上浮上航行試験を完了。その後はドックに戻り、艦体や装備の最終調整に入った。台船は「各項目は想定された目標を達成している」とし、調整後に計画通り潜航試験を実施するとしている。

ところが、浮上試験終了の翌日には「5回の海上試験で錨が搭載されていなかった」との報道が出るなど、否定的な指摘が一気に噴出した。事情を知る関係者は、「指摘の中には事実のものもあるが、すでに解消済みのものも含まれている」と説明する。現在の最大の要因は、時期的な問題だという。台湾では年末年始も稼働が続く一方、海外から招かれている専門技術者の多くは、12月から1月中旬にかけて長期休暇に入る。いわゆる「クリスマス休暇」で、3週間から長い場合は4週間程度不在になるケースもある。

このため、海鯤号は潜航試験に向けた最終確認を進めつつも、肝心の海外専門家が復帰するのを待っている状態だ。具体的な出航時期はまだ確定していないが、関係者の間では「最も早くても1月中旬から下旬になる」との見方が広がっている。

20251128-「海鯤号」は本日(28日)海上浮航テストを完了し、今後は潜航テストを実施します。(台船提供)
海鯤号は11月28日に海上での浮航試験を終え、次の工程として潜航試験の実施が予定されている。(写真/台湾国際造船提供)

実際の進捗は99% 最後の関門は最終確認

関係者によると、国産潜水艦「海鯤号」の最終段階に残っているのは、海外技術者による確認作業のみだという。これが完了すれば、次の工程として浅水域での潜航試験に移行する予定だ。一方で、かつて「海外技術者ですら乗船を拒んでいる」といった情報が流れたが、関係者はこれを明確に否定する。「これまでの海上試験では、海外技術者は毎回乗船している。彼らがいなければ、そもそも試験航行自体が成り立たない」と語る。さらに、国内要員の訓練についても「航空機の訓練で、シミュレーターを終えただけで単独飛行ができるわけではない。最初は必ず教官が同乗する。それと同じだ」と例え、段階的な習熟の必要性を強調した。

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