「民族の魂が奪われる」韓国キムチ、国内市場で絶滅危機 改名も効果なし、安価な中国産が席巻の衝撃

辛奇、韓国式キムチ(キムチ、김치。)(画像/unsplash)
辛奇、韓国式キムチ(キムチ、김치。)(画像/unsplash)

韓国政府は2021年、食文化の主権を守るため、韓国のキムチ(Kimchi、김치)を中国の「泡菜(パオツァイ)」と区別するため、国際表記を「辛奇(シンチ)」と位置付けた。しかし、この「正名」の試みも、厳しい市場の現実の前では歯止めになっていない。

英紙『ガーディアン』によると、2025年の最初の10か月間に韓国が輸入した辛奇の総額は1億5900万ドル(約240億円)に達し、そのほぼ全量が中国産だった。輸入額は輸出額を上回り、価格差が2倍以上ある状況の中で、韓国の飲食店は国産を断念し、安価な中国製キムチへと切り替えつつある。業界関係者からは、「民族の魂が込められた料理が、自国市場で根こそぎ失われつつある」との声が漏れる。

ニュース用語解説:シンチ(辛奇)とは

「シンチ(辛奇)」は、野菜を発酵させて作る韓国の保存食で、ほぼ毎回の韓国料理に添えられるなど、朝鮮半島の食文化を支える代表的な存在だ。海外でよく知られる辛い白菜キムチだけでなく、辛奇が指す範囲は幅広い。公認されている種類は150以上あり、大根、きゅうり、ねぎなど様々な野菜を材料に、唐辛子粉、にんにく、生姜、魚醤などを合わせて味付けする。風味は地域の気候や嗜好によって異なるとされる。発酵の過程で乳酸菌が増えることから、健康食品として注目されることもある。

価格差は2倍以上 韓国製キムチ、飲食店が使えない現実

ソウルから約30キロの仁川(インチョン)で30年以上キムチ工場を営むキム・チウン氏の工場には、今も唐辛子粉の香りが立ち込め、漬け込まれた白菜が大型の金属容器に並ぶ。しかし、その生産ラインを前にした同氏の表情は重い。

韓国ではすでにキムチの輸入量が輸出量を上回り、安価な中国産が市場に定着するにつれ、その差は拡大している。中国製キムチは1キログラム当たり約1700ウォン(約190円)で飲食店に供給される一方、韓国製は約3600ウォン(約400円)と、コストは2倍以上に達する。今年最初の10か月で、韓国は1億5900万ドル(約248億円)相当のキムチを輸入したのに対し、輸出額は1億3700万ドル(約205億円)にとどまった。

キム氏は、地元の飲食店が自社製品をやめ、輸入品に切り替えていく現状について、「キムチは韓国発の世界的な料理だが、いまの状況はどう考えても理不尽だ。市場はすでに奪われてしまった」と語る。

韓国では、キムチ工場の約75%が従業員4人以下の小規模事業者で、労働集約型の生産体制に依存している。中国の大規模・工業化生産と正面から競争するのは難しい。伝統的に、韓国では冬に大量のキムチを仕込む「キムジャン」が無形文化遺産として受け継がれてきた。しかし、2000年代以降、単身世帯が全体の36%を占めるまでに増加し、外食文化も定着。家庭でキムチを手作りする習慣は急速に薄れている。

飲食店では小鉢としてキムチを無料提供する慣行があるため、家庭消費が減る一方で、業務用キムチの需要はむしろ拡大している。メーカーは飲食店や大口取引先への依存を強めざるを得ず、価格面で有利な中国産が選ばれる構造が固定化されている。

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