2026年の台湾統一地方選挙(11月28日投開票)は、首都・台北の市長選の過熱とともに次第に盛り上がりを見せている。各県市の候補者陣営が対立候補の動向や政策を精査し、有権者の支持獲得に力を注ぐ一方、検察・警察・法務部調査局も票の買収など選挙違反の摘発に全力を挙げている。
国家安全保障部門も手をこまねいてはいない。頼清徳総統は2026年2月下旬、国家安全局の創設71周年記念式典で、中国が選挙の年に偽情報や偽の世論調査、地下賭博などを通じて選挙介入を強めると警戒し、国家安全保障・情報部門に対し、国境を越えた悪意ある操作を防ぎ、選挙が外部勢力に干渉されないよう求めていた。
外国勢力による台湾の選挙への干渉については、総統が繰り返し注意を促しているだけでなく、各国の駐台湾代表も相次いで警鐘を鳴らしている。
米国在台湾協会(AIT)台北事務所のレイモンド・グリーン(Raymond Greene、谷立言)所長は9月、人工知能(AI)技術を組み合わせた、より巧妙な情報操作に台湾は備えなければならないと2度にわたって公に指摘した。欧州経済貿易弁事処のルッツ・ギュルナー(Lutz Güllner)処長、英国在台弁事処のルース・ブラッドリー・ジョーンズ(Ruth Bradley-Jones)代表も同様の注意喚起を行っている。
ブラッドリー・ジョーンズ氏は、インターネットとAIの時代、世界各国が外国による選挙への情報干渉という問題に直面しているが、台湾は世界の民主主義国の中で「最も火に近い」(closest to the fire)最前線にあると率直に語った。
台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』はかつて、内政部が2026年7月末、親中国の政党「中華統一促進党」(統促党)の解散を憲法法廷に請求すると発表した背景について、統促党総裁で「白狼」の異名を持つ張安楽氏を背後で注視していたのは、より大きな力、すなわち以前から張氏を調査していた米国であり、米国がそのために台湾の情報機関に直接接触していたと報じた。
そして今、統促党を注視する米国、公に警告を発した英国に加え、英語圏の国々でつくる情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」(FVEY)の別の一国も、2026年統一地方選挙をめぐる情報戦の現場で台湾に手を差し伸べている。
頼清徳総統(左)は、外国勢力による台湾の選挙への干渉に警戒を呼びかけている。米国在台湾協会(AIT)台北事務所のレイモンド・グリーン所長(右)をはじめ、各国の駐台代表も相次いで懸念を示している。(資料写真、中央通信社)
外国の偽情報攻撃を最も受ける台湾 ファイブ・アイズの一国が支援に 会談の大半は経済・貿易がテーマだったが、注目されるのは、ハナン氏が双方の協力を振り返る中で、カナダが2024年から同弁事処にサイバー担当官を駐在させ、台湾と協力して外国による情報操作・干渉(FIMI)への対策を進めていると明らかにし、台湾の年末の地方選挙にも協力したいと述べたことだ。
台湾が中国からサイバー攻撃や偽情報による影響工作を受けていることは、目新しい話ではない。スウェーデンのヨーテボリ大学が主導する国際調査をはじめ、多くの国際的な研究で、台湾は長年にわたり外国からの偽情報攻撃を世界で最も受けている国だとされている。
ただ、台湾にとって最大の後ろ盾とみなされてきた米国が2019年から台湾と共同で「大規模サイバー攻防演習」(CODE)を実施しているのに比べ、北大西洋条約機構(NATO)とファイブ・アイズの一員でもあるカナダと台湾の関連協力は、ほとんど外部に公表されてこなかった。
ある台湾政府当局者は、国内の北米への関心はほとんど米国に向いているが、台湾とカナダは「外国による情報操作・干渉」(FIMI)やサイバーセキュリティーなどの分野で、実は2年前から協力を始めていたと指摘する。
関係者によると、2026年に開設40周年を迎えたカナダ駐台北貿易弁事処には現在50人余りの職員がいる。カナダ政府は2024年から同弁事処にサイバー担当官を駐在させ、ハッカーや偽情報への対策で台湾政府との協力を深め、目立たない形で情報を交換してきたという。
カナダは2024年から、サイバー攻撃や偽情報への対策をめぐり台湾政府との協力を進めている。写真はカナダ駐台北貿易弁事処のマリールイーズ・ハナン代表。(資料写真、中央通信社)
なぜカナダは台湾を支援するのか 移民社会が直面する外国の干渉 外交に詳しい台湾当局者によると、誤情報・偽情報や外国勢力の影響といった問題は、カナダ政府が以前から非常に重視してきた課題だ。
カナダ政府が2022年に発表した「インド太平洋戦略」にも、偽情報対策などの分野で台湾と交流・協力することが明記されている。
『風傳媒(ストームメディア)』が近年、カナダの国会議員や研究者、国家安全保障関係の訪問団が台湾の総統府や外交部を訪れた際の発言を調べたところ、外国による情報操作への対抗、民主主義の強靱性、情報セキュリティーなどは、ほぼ必ず取り上げられる話題だった。
実際、カナダは2018年から、主要7カ国(G7)の下に設けられた「即応メカニズム」(RRM)の議長国を務めている。G7の議長国が毎年持ち回りで務めるのとは異なり、RRMの事務局は常設でカナダに置かれ、カナダが恒久的な議長として、国境を越えた弾圧やFIMIへの対応などで各国の調整に当たっている。
さらにカナダは2019年、カナダ安全情報局(CSIS)、通信保安局(CSE)、カナダ外務省(グローバル・アフェアーズ・カナダ)、王立カナダ騎馬警察(RCMP)などで構成する省庁横断の「選挙に対する安全保障・情報上の脅威タスクフォース」(SITE)を設置した。
カナダはなぜこれほどRRMやFIMIを重視するのか。
カナダ安全情報局が2024年の公聴会で公開した文書では、中国がカナダの2019年と2021年の総選挙に干渉していたことが示された。
さらに、カナダの与党・自由党の2025年の党首選では、SITEが、クリスティア・フリーランド前副首相が中国側と関連が指摘される情報操作の標的になったと明らかにしている。
カナダはG7の「即応メカニズム(RRM)」の恒久議長を務め、国境を越えた弾圧や外国による情報操作・干渉(FIMI)への対応で各国の調整に当たっている。写真は2025年にカナダで開かれたG7サミットに出席したトランプ米大統領(右)とカナダのマーク・カーニー首相(左)。(資料写真、AP通信)
偽情報対策で台湾とカナダの当局者が公の場でも交流 台湾とカナダによるFIMIに関する情報交換など具体的な協力内容は、政府の機密情報に関わるため外部からはうかがい知れない。
ただ、関係者によると、台湾と米国が共同で立ち上げ、カナダが2024年に正式加入した「グローバル協力訓練枠組み」(GCTF)も、この分野での台湾とカナダの重要な協力の枠組みの一つだ。
カナダが正式加入する前の2024年4月には、台湾の駐カナダ代表処と米国の駐カナダ大使館がオタワ大学と協力し、カナダの首都オタワで初めてGCTFのワークショップを開催。「偽情報に対抗する民主主義の強靱性の構築」をテーマに、多くのカナダ政府当局者も出席した。
『風傳媒(ストームメディア)』の調べでは、GCTFが2025年9月に台北の円山大飯店で「民主主義の強靱性の構築:情報空間を守るメディアリテラシーの役割」と題する国際研修を開いた際、着任して間もなかったハナン氏が出席して開会のあいさつをしたほか、カナダ外務省RRM部門のサリウ・バブー(Saliou Babou)部長も自ら参加し、「偽情報対策の国際協力」のセッションで座長を務めた。
「グローバル協力訓練枠組み(GCTF)」は、台湾とカナダの重要な協力枠組みの一つとなっている。2025年に開かれた「GCTF創設10周年ハイレベル記念ラウンドテーブル」には、カナダ駐台北貿易弁事処のマリールイーズ・ハナン代表(左から2人目)も出席した。(資料写真、鍾秉哲撮影)
外国専門家が指摘 台湾地方政府の住民向け情報発信に課題 一方、総統府が設けた「全社会防衛レジリエンス委員会」では、民間の人的資源の活用や物資の配送など五つの柱に加え、省庁間、さらには異なるレベルの政府が情報戦や認知戦にどう対応するかも重要な課題となっている。
ただ、ある委員によると、外国の代表やシンクタンク、専門家が以前、台湾の「都市レジリエンス演習」を視察した際、台湾の地方政府の住民向け情報発信やコミュニケーション体制が「ほぼ空白に近い」と受け止め、多くの課題があると指摘したという。そのうえで一様に、台湾は認知戦や社会コミュニケーションの面で改善を続けるべきだと助言した。
『風傳媒(ストームメディア)』の観察では、総統府の全社会防衛レジリエンス委員会の演習や行事では、米国の駐台代表は毎回のように前列で視察し、欧州連合(EU)の駐台代表もほぼ毎回出席している。
台湾が社会の強靱性を築くうえで参考にしているイスラエルやフィンランドなども招かれて視察する。一方、それより外側の、カメラに映りにくい場所に目をやると、「カナダ弁事処」と書かれた赤いベストを着たハナン氏が、時折首を伸ばして演習を見つめている姿がある。全社会防衛レジリエンスの国際フォーラムでも、ハナン氏は客席で耳を傾けていた。
ある台湾政府当局者は、米国が台湾の社会防衛レジリエンス強化への支持を公式に何度も表明し、それを優先課題とまで明言しているのに比べ、カナダははっきりとは口にしていないが、実質的には台湾の社会防衛レジリエンスの取り組みを支えていると読み解く。
頼清徳総統(中央)は、台湾の「全社会防衛レジリエンス」強化を進めている。『風傳媒(ストームメディア)』の取材では、関連する演習や行事で米国在台湾協会(AIT)台北事務所のレイモンド・グリーン所長(右から2人目)が前列で視察するほか、カナダ駐台北貿易弁事処のマリールイーズ・ハナン代表(右端)もたびたび姿を見せている。(資料写真、中央通信社)
中国の圧力を考慮 カナダは台湾と目立たない形で協力 2026年5月下旬、ハナン氏が部下を伴って行政院に卓院長を訪ねる数日前、カナダ海軍のフリゲート艦が再び台湾海峡を通過した。
カナダは2022年11月に発表したインド太平洋戦略で、中国を「ますます破壊的なグローバルパワー」と位置付け、「台湾海峡の現状を脅かす一方的な行動に反対する」と明記しており、それ以来、軍艦による台湾海峡の通過は8回目となった。
その前には2025年9月上旬、カナダ海軍のフリゲート艦がオーストラリア海軍のミサイル駆逐艦と共に台湾海峡を通過していた。
外交に詳しい台湾政府当局者は、カナダやオーストラリアなどの中堅国は米国とは事情が異なり、台湾と協力する際には中国からの圧力も気にしなければならないため、相対的に目立たないようにせざるを得ないと指摘する。
別の事情に詳しい台湾当局者は、近年、軍艦による台湾海峡通過を行っている欧州諸国についても、伝統的な軍事分野での台湾との交流が目に見えて活発になっているわけではないが、社会の強靱性、情報操作、認知戦といった非伝統的な安全保障分野では、水面下で多くの交流を進めていると話す。
しかし、カナダのマーク・カーニー(Mark Carney)首相は就任後、2026年に入ってから、長く冷え込んでいた対中関係の立て直しに積極的に動いている。
1月中旬には北京を訪問し、長年停止していた両国の軍事対話の枠組み「中加防衛協調対話」も2026年9月上旬に再開した。同時に、カーニー政権は2022年に公表したインド太平洋戦略についても、新たな外交方針に合わせた調整を進めている。
カナダが対外戦略を練り直す中で、外国による情報干渉への対抗や社会の強靱性強化をめぐる台湾とカナダの協力は、今後も深まっていくのか。
2026年末の統一地方選挙で、台湾とカナダが情報交換を続け、さらに具体的な協力を深められるかどうかは、その試金石となるかもしれない。