「台湾放棄論(棄台論)」とは、米国は台湾の防衛から手を引くべきだ、あるいはいずれ手を引くことになるという主張を指す。その源流は1950年、ディーン・アチソン国務長官が台湾を米国の西太平洋防衛線の外に置いたことにさかのぼる。
2014年にはシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授が論文「台湾にさよならを」を発表し、2026年10月には米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」のジェニファー・カバナー氏が、米国の台湾防衛へのコミットメントは「負担」だと断じた。米中首脳が会談したり、対台湾武器売却が停滞したりするたびに、台湾放棄論は再び表舞台に浮上する。
台湾放棄論は台湾国内でも活発な議論を呼んでいる。台湾の国家安全局は2026年5月の書面報告で、中国共産党が米国の対中譲歩を誇張し、台湾に「疑米論」(米国は台湾を見捨てるかもしれないという疑念)や「台湾放棄論」を広めていると指摘した。
台湾の安全保障関係者も2025年5月、中国が新たな台湾放棄論を組織的に仕掛けていると明らかにしている。
ただ、台湾放棄論は単なる認知戦の文句にとどまらない。ワシントンには戦略的抑制や関与縮小を唱え、台湾のために戦争をすべきではないと公然と主張する研究者が実際に存在する。
一方、台湾防衛を主張する研究者は、台湾が陥落すれば米国の経済、半導体供給、同盟の信頼性に打撃が及ぶと反論し、なかにはトランプ大統領がすでに習近平国家主席に多くの譲歩を重ねていると批判する声もある。
台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』はこれまでの報道、インタビュー、論評、シンクタンクの議論をもとに、台湾放棄論がどこから来たのか、賛否両派がどう論じているのか、そして報道をどう読み解けばよいのかを整理した。
台湾放棄論Q&A
台湾放棄論とは何か
台湾放棄論とは、米国は台湾の防衛から手を引くべきだ、あるいはいずれ手を引くことになるという主張で、よく引用されるのがミアシャイマー(John Mearsheimer)氏の2014年の論文「台湾にさよならを」(Say Goodbye to Taiwan)だ。
主張する側は、台湾は中国に近く米国から遠いため、台湾をめぐって中国と戦争をする代償は大きすぎると考える。反対する側は、台湾が陥落すれば米国の経済と同盟体制が深刻な打撃を受けると考える。
台湾では「台湾放棄論」という言葉が、台湾社会に対する認知戦の一環を指す場合もある。国家安全局の2026年5月の報告は、中国共産党が台湾に「疑米論」や「台湾放棄論」を広めていると指摘した。
安全保障関係者も2025年5月、中国が仕掛ける新たな台湾放棄論には、台湾はインド太平洋戦略において重要ではない、台湾は挑発者だ、台湾の防衛を強化・支援することは中国への挑発だ――という三つのナラティブ(物語)が含まれていると説明している。
米国は台湾を見捨てるのか
米政府はこれまで台湾を見捨てると表明したことはない。2025年10月にはルビオ国務長官が、米国は貿易協定のために台湾を見捨てることはないと述べ、2026年5月にはトランプ氏も北京での首脳会談後、米国の対台湾政策は変わっていないと語った。
だがトランプ氏は同時に、誰かが独立に向かうことは望まないと述べ、米国は9500マイル(約1万5000キロ)も離れた場所まで行って戦争をしなければならないと例に挙げて、戦争に巻き込まれたくないとの考えを示した。
140億ドル(約2兆2000億円)規模の対台湾武器売却案もいまだ署名されておらず、ワシントンの決意を疑問視する論評は少なくない。
見方は一様ではない。李忠謙氏のコラムは、台湾放棄論はワシントンの主流意見ではないと指摘する。
一方、ワシントンのシンクタンク研究者であるカバナー氏は、米国が台湾防衛の扉をはっきりと閉ざすことこそ、米国の国家安全保障にとって最善だと主張している。
英誌エコノミストも2025年5月、中国との核戦争の危険を冒すくらいなら、トランプ氏は「台湾を手放すかもしれない」と警告した。
誰が台湾放棄論を唱えたのか
台湾放棄論に単一の提唱者はいない。
よく名前が挙がるのは、ジョージ・ワシントン大学のチャールズ・グレーザー(Charles Glaser)名誉教授が2011年に米外交誌フォーリン・アフェアーズで米国は「台湾からの後退を検討すべきだ」と主張したこと、ミアシャイマー氏の2014年の論文「台湾にさよならを」だ。
近年では、ディフェンス・プライオリティーズの軍事分析ディレクター、カバナー(Jennifer Kavanagh)氏や、米海軍大学校のジョナサン・カバレー(Jonathan Caverley)教授がいる。
グレーザー氏は2015年、学術誌「インターナショナル・セキュリティー」でさらに踏み込み、「米中グランド・バーゲン(大取引)」を提案した。
米国が台湾防衛への関与を終わらせる代わりに、中国は海洋紛争の平和的解決と、米軍の東アジアへの長期駐留を受け入れるという構想だ。
カバナー氏は、ブルッキングス研究所とランド研究所が共催したワークショップでの報告で、米国が2030年までに台湾海峡の防衛責任を台湾に移すことを、台北に非公式に伝えるよう提言した。
ミアシャイマー氏は台湾放棄を主張したのか
ミアシャイマー氏本人は否定している。
同氏は「台湾にさよならを」で、中国の国力が増すにつれ、米国の政策決定の中枢には最終的に台湾を手放す「十分な理由がある」と推論した。
だが2022年の『風傳媒(ストームメディア)』のインタビューでは、雑誌側が付けた題名が「私の論旨をゆがめた」と述べ、「私は一貫して、米国は台湾を防衛すべきだと主張してきた」と語った。
ミアシャイマー氏の推論の根拠は地理にある。台湾は中国に近く米国から遠い。中国の国力が増せば米国が台湾を防衛するのはますます難しくなり、台湾は核戦争にエスカレートしかねない火種でもある。
ただ同氏は『風傳媒(ストームメディア)』のインタビューで、現在の米国にとっては、中国による台湾併合がもたらす負の結果の方が台湾を守る代償よりも深刻であり、米国が台湾放棄という結論に至ることはないと説明している。
台湾放棄論者の論拠は何か
台湾放棄論者の主な論拠は、代償が大きすぎるという点にある。
カバナー氏は2026年10月の論考で、米国の利益にとって最大の脅威は中国による台湾奪取ではなく、台湾をめぐる米中戦争だと指摘し、米軍の直接介入を排除するよう主張した。
カバレー氏は、台湾の軍事的価値は過大評価されており、米軍は開戦当初は「戦力を温存」すべきだと考えている。
カバナー氏はまた、中国が台湾を掌握したとしても、その軍事的利得は限定的なものにとどまると見る。
日本、韓国、フィリピンの最も可能性の高い反応は、屈服ではなく、国防投資を増やして結束し、北京に対抗することだという。
半導体のリスクについては、中国と総力を挙げて戦うのではなく、半導体生産の米国回帰で解消すべきだと主張している。
台湾放棄論に反対する論拠は何か
反対派は、台湾の陥落が経済、技術、戦略の各面で連鎖的な打撃をもたらすと考える。
ハドソン研究所のマイケル・ソボリク(Michael Sobolik)上級研究員は試算を引用し、中国が台湾を封鎖すれば米国の国内総生産(GDP)は約3%縮小し、米国が台湾積体電路製造(TSMC)による半導体の受託生産を利用できなくなれば、縮小幅は11%に達しうると指摘した。
世界の先端半導体の97%はなお台湾で製造されているという。
ブルッキングス研究所のハース氏とランド研究所のブランシェット氏は、米国の後退は台湾の防衛意思を揺るがすと警告している。
戦略予算評価センター(CSBA)のモンゴメリー氏はカバレー氏に反論し、台湾は人民解放軍の西太平洋進出を阻む「ボトルの栓」のような存在だと指摘した。
米国が開戦当初の後退を公言すれば、台湾の抵抗意思は人民解放軍の上陸を待たずに崩れかねないという。
ミアシャイマー氏も「台湾にさよならを」の中で、米国が台湾を防衛できなければ、他のアジアの同盟国に米国の保護を当てにできないと告げるに等しいと書いている。
台湾放棄論と疑米論はどう違うのか
台湾放棄論は、米国が台湾を見捨てるべきか、あるいは将来見捨てることになるのかを論じるものだ。
一方の疑米論は、米国が頼りになるのかという台湾社会の疑念を指す。
台湾のシンクタンク、台湾励志協会が2026年1月に実施した世論調査では、中台間で衝突が起きた場合に米国が派兵して台湾防衛に加わるとは信じない人が56.4%に上り、信じる人は42.1%だった。
両者は主体が異なる(台湾放棄論の主体は米国、疑米論の主体は台湾)が、互いを強め合う。
ハース氏とブランシェット氏は、米国の戦略的後退が台湾で疑米論を招き、防衛投資を揺るがし、ひいては「台湾は防衛できない」という主張を裏付けてしまうと警告した。
エコノミストも、米国が台湾防衛への関与を弱めれば台湾は抵抗の決意を失いかねず、台湾が自衛の備えを怠れば、米国が手を差し伸べる可能性も低いと指摘している。
ハース氏は2026年10月に別の論考で、過去2年間に米台の武器売却、経済・貿易、民間交流はいずれも深まったものの、台湾の米国の信頼性に対する信頼感はなお低下したと指摘し、トランプ氏が対台湾武器売却を「交渉カード」とみなしたことが大きな要因である可能性があるとの見方を示した。
「予測」と「主張」は分けて考える
台湾放棄論はひとくくりに論じられがちだが、実際には二つの異なる主張を含む。
一つは米国が将来台湾を見捨てる「だろう」という予測、もう一つは米国が台湾を見捨てる「べきだ」という主張だ。
ミアシャイマー氏の論文は前者に近い。
同氏は米外交誌「ナショナル・インタレスト」(The National Interest)2014年3・4月号に「台湾にさよならを」を発表し、同誌は2018年に「台湾よ、安らかに眠れ?」(RIP Taiwan?)と題を変えて再掲載した。
論文は、当面は米国が引き続き台湾を守り、戦略的資産とみなすものの、台湾は中国に近く米国から遠く、米中戦争を引き起こしかねない危険な火種でもあるとして、「こうした関係がいつまで続くかは誰にも分からない」と推論している。
2015年に当時の民進党主席だった蔡英文氏と座談した際には、民進党国際部の黄志芳主任の説明によると、題名は編集者が付けたもので、米国は「台湾を見捨てるべきではない」と述べたという。
2022年、同氏は風傳媒のインタビューで「ナショナル・インタレストが付けた題名は私の論旨をゆがめ、一見すると私が米国は台湾を見捨てるべきだと主張しているように思わせた。だが、私はそういう意味で言ったのではない」と語った。
米国が台湾を見捨てるかどうかは「中国の国力がどこまで伸びるか」と「台湾を守る代償」次第であり、中国の国力が米国に匹敵する事態は「起こりうるが、実現する確率は高くない」とも述べている。
これに対し、近年のワシントンの台湾放棄論は後者に属し、米政府に直接政策を提言するもので、代表的な論者がカバナー氏とカバレー氏だ。
また、ネット上で出回る「台湾放棄発言」が事実とは限らない点にも注意が必要だ。
2026年9月に広く拡散した「ヒラリー・クリントン氏が台湾に抵抗を放棄させようとしている」とする動画は、元の発言の文脈では、同氏が習氏の考えを推し量って語ったもので、米国が台湾に降伏を迫るべきだと主張したものではなかった。
台湾放棄論をめぐる論争の年表
台湾放棄論は1950年代から存在し、近年は米中首脳会談や対台湾武器売却などの節目で繰り返し浮上している。
| 時期 | 出来事 | 要点 |
| 1950年1月 | アチソン(Dean Acheson)国務長官のナショナル・プレス・クラブ演説 | 米国の西太平洋防衛線はアリューシャン列島から日本、琉球を経てフィリピンに至り、韓国と台湾は含まれなかった。同年6月に朝鮮戦争が勃発 |
| 1979年1月 | 米国が中華人民共和国と国交を樹立し、中華民国と断交 | 1954年の米華相互防衛条約は1980年に終了。1979年4月、カーター大統領が台湾関係法に署名 |
| 2011年4月 | グレーザー氏がフォーリン・アフェアーズに「中国の台頭は戦争を招くか」を発表 | 米国は「台湾からの後退を検討すべきだ」と主張 |
| 2014年3月 | ミアシャイマー氏「台湾にさよならを」 | 米国はいずれ台湾を手放す理由を持つと推論し、台湾の世論の注目を集めた |
| 2015年春 | グレーザー氏がインターナショナル・セキュリティーに「米中グランド・バーゲン?」を発表 | 米国が台湾防衛への関与を終える代わりに、中国が海洋紛争の平和的解決と米軍の東アジア長期駐留を受け入れる構想を提案 |
| 2022年12月 | ミアシャイマー氏が『風傳媒(ストームメディア)』のインタビューに応じる | 「私は一貫して、米国は台湾を防衛すべきだと主張してきた」 |
| 2025年5月 | エコノミストのカバーストーリー | トランプ氏は「台湾を手放すか、事実上台湾を見捨てるに等しい合意を習近平氏と結ぶかもしれない」 |
| 2025年10月 | 米中首脳会談を前にルビオ国務長官が表明 | 貿易協定のために台湾を見捨てることについて「誰もそんなことは考えていない」 |
| 2026年5月 | トランプ氏が北京での首脳会談後、FOXニュースのインタビューに応じる | 「誰かが独立に向かうことは望まない」と述べ、9500マイルの距離を挙げて戦争に巻き込まれたくないとの考えを示す |
| 2026年6月 | ブルッキングス研究所とランド研究所の報告書「岐路に立つ中台関係」 | ワシントンで対台湾政策をめぐる議論が本格化し、カバナー氏が「不介入」路線を提示 |
| 2026年9月 | カバナー氏「アジアにおける第2列島線戦略」 | 米軍の防衛の重心を第2列島線まで後退させるよう主張 |
| 2026年10月 | カバナー氏「米国の台湾防衛へのコミットメントは負担だ」と、ソボリク氏「台湾防衛の戦略的論理」 | 「Statecraft & Strategy」誌が同じ号で賛否両論を掲載 |
| 2026年10月 | ハース氏「米国の対台湾シグナルを立て直す」 | トランプ氏が対台湾武器売却を「交渉カード」とみなしたことを批判し、米国の台湾をめぐる論述は「錨(いかり)を失い、混乱している」と指摘 |
賛成派の論拠:米国は台湾のために戦うべきではない
台湾放棄を主張する側の中心的な論拠は、台湾を守る代償が、台湾が米国にもたらす価値をすでに上回っているという点にある。主な理由は次の通りだ。
- 軍事バランスが変わった:カバナー氏は2026年10月7日、「Statecraft & Strategy」誌に寄せた論考で、米国の利益にとって最大の脅威は「中国が台湾奪取に成功することではなく、この島をめぐって米中が戦争をすることだ」と指摘した。しかもその戦争は「中国の海岸からわずか90マイル」の場所で、同格の大国と戦うものになる。『風傳媒(ストームメディア)』の報道によると、同氏は台湾海峡の軍事バランスがすでに「決定的に北京に傾いている」とみている。
- 戦争の代償に耐えられない:カバナー氏は、米軍が中国より先に弾薬を使い果たす可能性が高く、どちらが勝っても、この戦争は世界経済に数十兆ドル規模の損失をもたらすと分析している。
- 台湾の軍事的価値は過大評価されている:カバレー氏は2025年に「テキサス・ナショナル・セキュリティー・レビュー」に発表した論文で、人民解放軍は台湾を奪わなくても日本、フィリピン、グアムを脅かすことができ、台湾を占領しても中国の短距離ミサイルの射程が太平洋側に約300キロ延びるにすぎないと論じた。米軍は開戦当初は「戦力を温存」し、主力艦隊を安全な距離まで下げるべきだと主張している。
- 半導体は米国に回帰できる:カバナー氏は業界の推計を引用し、2032年までに最先端半導体の約30%を米国内で生産できるようになるとして、台湾のために戦争をする代わりに半導体の米国回帰を進めるべきだと主張する。
- 台湾は危険な火種だ:グレーザー氏は2015年の「米中グランド・バーゲン?」で、台湾こそ米中を大戦に引きずり込む可能性が最も高い紛争だと論じた。ミアシャイマー氏も台湾放棄を主張してはいないが、台湾危機が核戦争にエスカレートする危険があると推論している。
カバナー氏の政策提言には、沖縄やルソン島など台湾に最も近い拠点からの米軍撤収、米国内での半導体生産能力への投資加速が含まれる。
より早い時期のロードマップでは、米国が2030年までに台湾海峡の防衛責任を台湾に移すことを、台北に非公式に伝えるよう提言した。
同氏の結論は、米国が台湾防衛の扉をはっきりと閉ざすことこそ、米国の国家安全保障にとって最善だというものだ。
反対派の論拠:米国は台湾を見捨てられない
台湾放棄に反対する側は、台湾を失う代償は台湾を守る代償よりはるかに大きいと考える。主な論拠は次の通りだ。
- 経済と半導体への打撃:ソボリク氏は「台湾防衛の戦略的論理」で試算を引用し、北京が台湾を封鎖すれば米国のGDPは約3%縮小し、米国がTSMCによる半導体の受託生産を利用できなくなれば、縮小幅は11%に達しうると指摘した。また、世界の先端半導体の97%はなお台湾で製造されており、北京はレアアース(希土類)などの対抗手段も握っていると述べている。
- 中国の野心は台湾で止まらない:ソボリク氏は、より適切な比較対象は第2次世界大戦時の日本だとし、マッカーサーの1950年の覚書を引用して、日本軍がまさに台湾を足場に南進したと指摘した。
- 同盟の信頼性と核拡散:ミアシャイマー氏も「台湾にさよならを」で、米国の台湾への関与はアジアにおける米国の信頼性と切り離せないと書いている。ソボリク氏は、抑止がいったん破綻すれば、日本と韓国には核武装を急ぐ強い動機が生じると警告する。
- 台湾は第1列島線の「栓」だ:戦略予算評価センター(CSBA)のエバン・モンゴメリー(Evan Montgomery)研究担当副所長はカバレー氏に反論し、中国が台湾を支配すれば潜水艦が第1列島線を突破できるようになると指摘した。台湾は人民解放軍の西太平洋進出を阻む「ボトルの栓」のような存在だという。米国が後退を公言すれば、中国共産党の台湾に対する認知戦の材料になるとも述べている。
- 後退は悪循環を招く:ハース(Ryan Hass)氏とジュード・ブランシェット(Jude Blanchette)氏は警告する。米国の戦略的後退は台湾の疑米論を招いて防衛投資を揺るがし、ひいては「台湾は防衛できない」という主張を裏付け、最終的には米軍のなし崩し的な全面撤退につながりかねないという。
米政府も、これまで台湾を見捨てると宣言したことはない。
2025年10月25日、マルコ・ルビオ(Marco Rubio)国務長官は専用機内でこう述べた。
「何らかの貿易協定を結ぶため、あるいは貿易上の優遇措置と引き換えに、我々が台湾を見捨てることを皆が心配しているのなら、はっきり言っておく。誰もそんなことは考えていない」
トランプ氏という要因と台湾の疑米論
台湾放棄論はワシントンの主流ではないものの、同様の発想はトランプ氏の取引本能と「ぴたりと符合する」(李忠謙氏のコラム)。
2026年5月の北京での首脳会談後、トランプ氏はFOXニュースのインタビューで「誰かが独立に向かうことは望まない。それに、分かるだろう、我々は9500マイルも移動して戦争をしなければならなくなる」と述べた。
FOXニュースはこの発言を「トランプ氏、台湾に米軍の白紙小切手を期待するなと警告」と伝えた。トランプ氏は同時に、米国の長年の対台湾政策は変わっていないと強調している。
トランプ氏は対台湾武器売却を北京との交渉の席にも載せた。
コーネル大学政治学部のアレン・カールソン(Allen Carlson)准教授は9月30日、外交誌「ディプロマット」で、トランプ氏が2月に記者団に対し、対台湾武器売却について習氏と協議していると語ったと指摘した。
1982年にレーガン大統領が、ワシントンは武器売却について北京と事前協議しないと台北に保証して以来、そうした大統領は一人もいなかったという。
李忠謙氏のコラムによると、140億ドル規模の対台湾武器売却案はいまだに署名されていない。
エコノミストの2025年5月のカバーストーリーも、中国との核戦争の危険を冒すくらいなら、トランプ氏は「台湾を手放すかもしれない」と警告していた。
ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センターのハース所長は2026年10月13日、「米国の対台湾シグナルを立て直す」を発表した。
『風傳媒(ストームメディア)』の報道によると、同氏は、習氏が対台湾武器売却で圧力をかけるたびにトランプ氏が「米国は中国にも武器を売れる」と言って話をそらすことは、ワシントンの中国ウオッチャーの間で広く知られていると記した。
デービッド・パーデュー駐中国大使は9月27日、FOXニュースで初めて同様の話を公にし、国務省は翌日、米国の法律は中国への武器売却を禁じているとの声明を出した。
ハース氏はまた、トランプ氏が5月、保留中の対台湾武器売却は「我々にとって非常に良い交渉カードだ」と述べ、「六つの保証」がなお有効かを問われると「1982年はもうずいぶん昔のことだ」とかわしたことにも触れた。
同氏は、米国の指導者が台湾を交渉カードとして扱えば、北京がより大胆に目標を推し進めかねないとみている。
台湾の人々の間でも、米国が台湾防衛に加わるかどうかには疑念がある。
台湾励志協会が2026年1月7~11日に実施した世論調査では、中台間で軍事衝突が起きた場合、米国が派兵して台湾防衛に加わるとは信じない人が56.4%、信じる人が42.1%だった。
20~29歳では信じない人の割合が63.4%に上った。有効回答は1200人で、標本誤差は±2.83ポイント程度。
ハース氏は台湾・中央研究院の2025年「米国イメージ調査」を引用し、過去2年間に米台の武器売却、訓練、経済・貿易関係が着実に拡大したにもかかわらず、台湾の米国の信頼性に対する信頼感はなお低下したと指摘している。
報道を読み解く際のポイント
台湾放棄論はワシントンにおける公開論争の一方の側であり、米政府の政策と同じではない。
裏を返せば、ルビオ氏の保証もトランプ氏本人の約束と同じではない。
関連報道を読む際には、まず三つの点を見分けるとよい。発言者は学者なのか、シンクタンクなのか、政府当局者なのか。語られているのは予測なのか、主張なのか。引用が切り取られていないか。
カバレー氏とモンゴメリー氏は立場こそ正反対だが、台湾自身の抵抗意思と社会の強靱性が戦局を左右する鍵だという点では一致している。
本記事は風傳媒の過去の報道、インタビュー、論評を引用し、シンクタンクの原文と外電で確認した。
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編集:梅木奈実













































