台湾の国産潜水艦「海鯤」は現在もテストが続けられている。そうした中、同艦の運用を担う海軍第256戦隊では、2026年9月1日付で海軍沿岸作戦指揮部副指揮官の林志豪少将が戦隊長に就任し、王田耀宗少将は国防部作戦・計画参謀次長室の助理次長(次長補佐)に昇任した。
王田氏は台湾原住民のプユマ族(卑南族)出身者として初の海軍将官である。今回就任したのは、陸海空三軍の統合作戦を担う部署の重要な少将ポストで、中将昇任への登竜門ともみられている。
王田氏については、2024年に海軍敦睦遠洋訓練支隊を率いた経歴が広く知られているが、第256戦隊長として在任中、「海鯤」の今後の運用に大きな影響を与える決断を下していたことはあまり知られていない。
王田氏は過去に潜水艦「海虎」(SS-794)の大佐艦長を務め、第168艦隊副艦隊長や第151艦隊の少将艦隊長を歴任した後、再び第256戦隊長に就任した。艦隊長を経験した後に第256戦隊長へ戻った数少ない将官の一人だ。
王田耀宗氏(中央)は第256戦隊長在任中、「海鯤」の運用に大きな影響を与える決断を下した。(資料写真、張曜麟撮影)
細部に過度に口を出さず、判断力を重視 王田氏は厳格な部隊運営で知られる一方、些細な問題にまで過度に干渉することはなかったという。
軍関係者によると、訓練会議では訓練成果や進捗状況などが報告されることもあるが、王田氏は、こうした事項は艦内できちんと管理すべきで、訓練会議で改めて報告する必要はないと考えていたという。部下に十分な権限を委ね、すべての事項を自らの手元で管理しようとはしなかった。
また、同氏は事象の本質を重視する姿勢を貫いていた。
例えば、国外や台湾海軍の艦艇で過去に発生した海難事故や装備故障などについて、将兵に具体的な対処法を議論させ、「その対応が最善だったのか」を考えるよう求めた。
潜水艦特有の「緊急浮上」を例に挙げると、同氏は、作戦中にはリスクを伴うため、緊急浮上が必ずしも最善の策とは限らないと指導し、その時々の作戦任務を評価した上で、最も適切な対応を判断すべきだと説いていたという。
つまり、王田氏は指揮官の決断を重視し、将兵一人ひとりが状況に応じて正しい判断を下せるよう求めていた。
王田氏は「盲腸がなければ盲腸炎にはならない」とよく口にし、この言葉で将兵を励ますこともあったという。
軍関係者によれば、この言葉には、表面的な現象だけを見るのではなく、「なぜその問題が起きたのか」という本質まで掘り下げて考えてほしいという考えが込められていた。
王田耀宗氏(中央)は、将兵に表面的な現象だけでなく、なぜ問題が起きたのかという本質まで考えるよう求めていた。(資料写真、傅啟禎撮影)
第256戦隊長時代の決断が「海鯤」の運用に影響 現在、第256戦隊で「海鯤」の受領を担当する要員は、既存のガピー級と剣龍級の潜水艦からそれぞれ選抜され、新型艦の操作を学んでいる。
軍関係者によると、ガピー級の老朽化が進んでいることから、王田氏はガピー級と剣龍級の間で、専門分野や戦闘配置に関する資格認定を含む交流を推進した。
その狙いは、ガピー級の乗組員に剣龍級のシステムを習熟させ、将来的に「海鯤」やその他の新型潜水艦へ配属された際、より早く新たなシステムに対応できるようにすることだった。
軍関係者によると、かつてはガピー級の乗組員はガピー級に、剣龍級の乗組員は剣龍級にとどまることが多く、双方の間で大規模な交流が行われることはなかった。
しかし現在では、多くのガピー級乗組員が剣龍級で学ぶようになっており、軍関係者は「こうした取り組みが今後の新型潜水艦の受領に役立つ」と指摘する。次世代潜水艦を担う要員の育成にもつながっているという。
第256戦隊で「海鯤」の受領を担当する要員は、ガピー級と剣龍級の潜水艦からそれぞれ選抜され、新型艦の操作を学んでいる。(資料写真、張曜麟撮影)
基準を満たさなければ出港させない 「最後の砦」と信頼 台湾にとって初の国産潜水艦開発となるため、多くの工程で台湾国際造船(CSBC)、軍当局、海外の技術者が共同で試行錯誤を続けている。
潜水艦は戦闘機とは異なり、事故発生時にパラシュートで脱出することはできない。海中で重大なトラブルが発生すれば、全乗組員の生命に関わる可能性があるため、軍当局は一貫して「安全」を最優先事項として強調してきた。
軍関係者によると、「海鯤」の受領要員は王田氏を「最後の砦」とみなし、強い信頼を寄せていたという。第256戦隊が求める基準に達していなければ、王田氏は出港試験を認めないと考えられていたためだ。
関係者によると、王田氏は「海鯤」に関する会議で、ある装備を十分な状態に仕上げるまでは、第256戦隊による出港試験を認めないと求めたこともあったという。
第256戦隊は台湾海軍の精鋭部隊で、潜水艦出身の将兵は強い誇りを持っている。
しかし、その意識の強さゆえに、問題が起きた際、第256戦隊の看板を守ろうとして問題を表面化させまいとする傾向もあったという。
軍関係者は、王田氏について、これまでの多くの戦隊長とは異なり、「問題があれば正面から向き合い、解決すべきだ」と考えていたと説明する。問題や誤りを表に出し、検証する勇気を持つべきだという姿勢だった。
王田氏はまた、第256戦隊を離れて他部隊へ異動する将兵に対し、「第256戦隊の基準をそのまま部下に求めるのではなく、第256戦隊の精神を持って部隊を率いるべきだ」と説いていたという。
すべての将兵に第256戦隊と同じように、あらゆることを最高水準でこなすよう求めることはできない。それでも、同戦隊の制度や精神を生かして部隊を率いることはできるとの考えだ。
「海鯤」の受領要員は王田耀宗氏を「最後の砦」とみなし、強い信頼を寄せていた。第256戦隊の基準に達していなければ、出港試験を認めないと考えられていたためだ。(資料写真、顔麟宇撮影)
水上艦と潜水艦双方の経験、国軍の作戦計画を担う部署へ 王田氏は自身に対しても高い水準を求める一方、読書を好み、台湾内外の軍事専門誌を日常的に読んでいるという。
今回就任した国防部作戦・計画参謀次長室の助理次長は、次長を補佐し、国軍の統合作戦や戦備整備、作戦計画の策定・監督を担う。
つまり、同室は台湾軍全体の作戦計画を担う中枢部署である。
水上艦と潜水艦の双方で豊富な勤務経験を持つ王田氏は、「海鯤」の完成が近づく中、今後、同艦の作戦上の効果をいかに最大限引き出すかについても、関連する助言を行うことが期待される。
その指揮スタイルもあり、軍関係者からは「王田耀宗氏が作戦・計画参謀次長室に入ることは、国軍にとって良いことだ」との声も上がっている。
第256戦隊で培った精神を、新たな職務でどのように生かしていくのかが注目される。