2月初旬に自らホワイトハウスを訪問した日本の石破茂首相は、米国への大規模投資を約束することで、トランプ米大統領が推進する「対等関税」リストから日本を免除させようと試みた。しかし、最大24%にも及ぶ関税課税が現実となった。これは、従来の戦略的信頼関係に基づいた日米関係が、力の非対称性を特徴とする新たな段階へと移行したことを意味するのだろうか。
「風傳媒」は、日本の政治経済情勢に詳しい専門家である、淡江大学日本政経研究修士課程教授の蔡錫勲氏と、国策研究院上級顧問であり開南大学地域発展センター所長を務める陳文甲氏にインタビューを行い、トランプ氏による「関税津波」の本質を分析するとともに、台湾が次なる犠牲者とならないための示唆を探った。
質問1:トランプ政権が日本に対して課した24%の対等関税をどう解釈すべきか。これは経済的手段に過ぎないのか。
蔡錫勲氏は、24%という対等関税が日本国内に衝撃を与えたと指摘する。トランプ政権は「相手が自国に課した分の半分を課す」という方式で税率を逆算しており、法的根拠もなければ国際的な慣例にも則っていない。
同氏は、「石破茂氏は2月初旬に訪米し、1兆ドルの投資をトランプ氏に約束した。また、日本の対米投資額の大きさや雇用への貢献を強調したが、トランプ政権はそうした細部を全く顧みなかった。石破氏は帰国後、国会で何度も質疑を受け、財務官僚すら関税率の算出方法を説明できなかった。これは理性的な貿易交渉ではなく、トランプ流の政治的圧力の表れだ」と述べた。
2025年2月、日本の石破茂首相とアメリカのトランプ大統領がホワイトハウスで会談。(AP通信)
陳文甲氏は、今回の対等関税には貿易赤字の削減という明確な経済的動機があるとしながらも、親密な同盟国であっても免除が保証されないという政治的メッセージが含まれていると語る。トランプ氏は経済的圧力を通じて外交の再均衡を図っており、それは彼の「取引型外交」の典型である。
また陳氏は、石破茂氏が4月7日夜にトランプ氏と電話会談を行ったのは、ベトナムのスリン総書記の方式を参考にし、高官レベルの対話によって摩擦を緩和しようとしたもので、状況を読み違えたわけではなく、誠意と信頼の外交姿勢を示したものだと述べた。
国策研究院上級顧問、開南大学国家及び地域発展研究センター所長の陳文甲氏。(陳文甲氏提供)
質問2:日米関係はすでに「制度的不均衡」に突入したのか。
蔡錫勲氏は、「制度的不均衡」という表現は時期尚早だとしながらも、トランプ政権の対応が両国の信頼関係を明らかに損ねていると指摘する。今回の事件は、米国が一方的に経済・貿易問題を主導し、制度化された協議の枠組みが欠如しているため、日本側は受け身に回るしかなかったことを浮き彫りにしている。
同氏は、「石破氏は関税を阻止できなかったが、戦略的な対話をあきらめてはいない。国会で経緯を公に説明し、米国との再交渉の可能性を探っている。対立を選ばず、現実的な外交立場を堅持し、将来の再交渉に希望の余地を残している」と述べた。
淡江大学日本政経研究修士課程教授の蔡錫勲氏が日本の衆議院議場を視察。(蔡錫勲氏提供)
陳文甲氏も、今回の件で日米関係が破綻したわけではないとしながらも、「不均衡リスク」は確かに高まっていると述べた。両国の戦略的枠組みは依然として軍事と地政学的な同盟関係に根差しており、関税一件で崩壊するものではない。しかし、今回の出来事は、米国の同盟国への対応の変質を日本側に痛感させ、東京は今後の外交戦略において慎重さを増すこととなる。
質問3:石破茂氏はどこまで耐えられるのか。 貿易戦争の最初の犠牲者となるのか。
蔡錫勲氏は、石破茂氏の支持率は高くないが、国会の会期が立て込んでおり、与党内で即座に後任を立てることは難しいと指摘。6月と7月には都議選と参院選が控えており、国会は6月末まで開かれるため、首相交代のスケジュールは現実的ではない。「野党も無理に退陣を迫る気配はなく、石破氏の低支持率がかえって選挙には有利に働く」と述べ、石破氏は意外にも「過渡期の安全牌」として位置づけられている。
陳文甲氏は、石破氏が党内からの圧力や世論の批判に直面していることを認めながらも、今回の「トランプ一人の武林」とも言える貿易衝突は、単一の指導者によって完全にコントロールできるものではないと指摘。米国の強硬な関税に対し、石破氏は対抗ではなく能動的な外交で対応し、現実的かつ成熟した政治姿勢を示していると評価した。
同氏は、7月の参院選が迫る中で政界に責任の押し付け合いが生じるのは避けられないが、石破氏が国内産業への対応策を明確に提示し、米国からの譲歩を引き出すことができれば、むしろその政治的リーダーシップが認められる可能性もあるとした。
石破氏が犠牲者となるかどうかは、今後数週間の対応と政策次第であり、現時点でその政治的命運を断言することはできない。ただし、「危機は転機でもある」状況下において、石破氏にとっては、貿易戦争への対応を糾弾の材料ではなく、リーダーシップと国際調整能力を示す絶好の機会とすることが重要だと述べた。
質問4:関税を巡る日米のやり取りから、台湾政府が学ぶべき点とは。「ゼロ関税」を出発点とする交渉戦略は見直しが必要か。
陳文甲氏は、石破茂氏とトランプ氏のやり取りは、台湾の頼清徳総統にとっても貴重な教訓になると語る。たとえ外交上の誠意と同盟関係に高度な信頼が存在しても、トランプ式の交渉は強硬かつ予測不能な手法を取る可能性があるという点である。
賴清德総統は先日5大戦略を発表し、アメリカとの関税交渉を台湾・アメリカ双方の「ゼロ関税」から始めると呼びかけた。(総統府提供)
台湾にとって、「ゼロ関税」を主張することは開放性の表れだが、それには戦略的な思考との組み合わせが不可欠であり、交渉資源を早期に消耗してはならない。頼政権は段階的な戦略を採用し、産業保護と国際的な公約のバランスをとりつつ、国内での有効な意思疎通体制を構築し、社会の交渉路線への支持を得るべきだと提言する。
さらに、米国との多層的な関係、すなわち産業・技術・安全保障など多角的な分野での連携を築くことは、交渉時の台湾の戦略的価値を高める助けとなる。石破氏の例から見ても、強国を前にした時、指導者の冷静さと柔軟性こそがより重要となる。頼清徳氏はこれを参考にし、熟慮の上で行動し、着実に対米経貿戦略を推し進めるべきだ。
蔡錫勲氏は、「ゼロ関税」を掲げるのが早すぎたと批判する。準備も裏付けもないままの発言だったという。日本は交渉初期に切り札を明かすことなく、周辺国と足並みをそろえた多国間の暗黙の連携を取ることで、トランプの「分断して各個撃破する」戦術にはまらないようにしていたと述べた。