2026年に控える台湾の統一地方選挙が徐々に迫っている。 総統選の「中間評価 」とも目されるこの戦いは、各政党の勢力図を塗り替えるだけでなく、有力政治家たちがその実力と基層での支持基盤を示す重要な舞台となる。与野党ともにこの選挙の厳しさを認識し、水面下で戦略立案を急ぐなか、民進党主席を兼務する頼清徳(らい・せいとく)総統も各県市の候補者擁立に奔走している。しかし、総統という立場にありながら、頼氏の要請や意向が必ずしも党内で全面的に受け入れられているわけではないのが実情だ。
頼氏はすでに、嘉義県の蔡易餘(さい・いよ)氏、台南市の陳亭妃(ちん・ていひ)氏、高雄市の頼瑞隆(らい・ずいりゅう)氏、新北市の蘇巧慧(そ・こうけい)氏らの指名を決めているが、依然として多くの県市で調整が難航している。なかでも「最重要拠点」である台北市の選定は、完全に停滞している。総統自らが出向いてもなお、候補者選定が困難を極めているのはなぜか。民進党内部の構造的な問題か、あるいは頼氏のリーダーシップのあり方に起因するものなのか、波紋が広がっている。
頼氏(中央)はすでに嘉義県の蔡易餘氏(右から1人目)、台南市の陳亭妃氏、高雄市の頼瑞隆氏らを公認候補として指名したが、多くの県・市で擁立が難航している。(写真/柯承恵撮影)
頼総統の再三の説得にも鄭麗君氏は動かず 民進党は4つの主要選挙区で候補者の打診が立て続けに頓挫しており、頼氏および党中央にとって打撃となっている。 首都・台北市において、党執行部が本命としていたのは行政院副院長(副首相に相当)の鄭麗君(てい・れいくん)氏だった。党内では、彼女が主導してきた関税交渉などの実績を前面に押し出し、その行政能力と優れた交渉力をアピールする戦略を描いていた。
しかし、鄭氏は現在、膨大な政務を抱えており、重要法案の処理には彼女の存在が不可欠な状況にある。短期間で高強度の選挙戦に投入されるのは現実的に困難だ。加えて、鄭氏本人に立候補の意欲が乏しく、党中央は代替案として、比例代表選出の立法委員(国会議員に相当)・沈伯洋氏らに的を絞り始めている。
実際、頼総統は自ら何度も鄭氏に説得を試みた。しかし、鄭氏は応じなかった。説得の過程で「みんなで私を追い詰めている!」と感情を激昂させる場面もあったという。頼氏の要請を事実上、無下にした形だ。
当初、党の選挙対抗委員会は2026年4月7日に沈伯洋氏の指名を通過させる予定だったが、党内外の根強い懸念から延期された。現在は「壮闊台湾協会」理事長の呉怡農(ご・いのう)氏を代案の代案とする声も浮上している。党関係者によれば、沈氏が擁立される可能性が依然として高いものの、党内外をさらに説得する必要があり、指名が確定した場合には迅速な作業が求められることになる。
頼氏が直々に行政院副院長・鄭麗君氏(写真)を説得したものの、過程で鄭氏が「周囲が自分を追い詰めている」と感情を露わにする一幕もあった。(写真/顔麟宇撮影)
桃園市 頼氏の説得も王義川氏は固辞、黄世杰氏を擁立へ 桃園市長の候補者選定プロセスも波乱含みであり、頼総統の意志が党内に浸透しきれていない現状を浮き彫りにしている。頼氏は2026年2月末から3月初めにかけ、不比例代表(比例区)立法委員の王義川(おう・ぎせん)氏と異例の二度にわたる面談を行い、桃園への出馬を直接打診した。王氏は当初、含みを持たせた発言をしていたものの、最終的には党内の予備選(世論調査)に参加しない意向を党本部に明確に伝えた。総統自らが出向いての要請が拒絶されたことは、頼氏の指導力にとって手痛い打擊といえる。
王氏が支援側に回ることを決めたのを受け、党本部は前立法委員で現在は法務部政務次長(法務次官に相当)を務める黄世杰(こう・せいけつ)氏に白羽の矢を立てた。黄氏は地方での地盤と中央での実務経験を併せ持っており、党中央は彼による選勢の立て直しを期待している。黄氏は現在、次官職の辞任手続きを進めており、5月にも正式に戦線に加わる見通しだ。
党内関係者は、桃園はネット上の発信力 が重要な選挙区であり、黄氏は王氏に比べて知名度(ネット上の声量)で劣ると分析する。しかし、頼氏による王氏への説得が失敗し、意欲を示していた何志偉(か・しき)総統府副秘書長も辞退した今、黄氏の擁立は「苦渋の選択」と言わざるを得ない。国民党の現職、張善政(ちょう・ぜんせい)市長を相手に苦戦が予想されるが、鄭文燦(てい・ぶんさん)前市長の地盤からの全面支援を取り付け、逆転勝利の可能性に賭けることになる。
頼氏は桃園市の選挙情勢を巡り、2度にわたり比例代表選出の立法委員・王義川氏(写真)と面会したが、王氏はその後、出馬の意向がないことを明言した。(写真/顔麟宇撮影)
新竹県 本命・鄭朝方氏が事実上の辞退、高学歴の范雲氏が浮上 比較的順調と目されていた新竹県知事選の擁立作業も、暗礁に乗り上げている。当初、民進党内で最も有力視されていたのは現職の竹北市長、鄭朝方(てい・ちょうほう)氏だった。頼総統は自ら鄭氏に意向を打診し、何度も秋波を送ってきたが、鄭氏は現在に至るまで明確な出馬表明を避けている。「市政優先」という姿勢を崩さない鄭氏の対応は、党中央の要請を事実上「既読スルー」している状態に近い。
さらに、国民党側で地方に強い地盤を持つ徐欣瑩(じょ・きんえい)立法委員の擁立が固まると、鄭氏は市長再選に向けた戦いに専念する意向を強めた。頼氏が描いていた新竹県の「本命候補」というシナリオは崩れ、再びその威信が揺らぐ形となった。
党幹部の一人は、鄭氏の説得に失敗した代案として、同県を担当している不比例代表(比例区)立法委員の范雲(はん・うん)氏が擁立される可能性が高いと指摘する。新竹県は伝統的に民進党にとって厳しい選挙区だが、高学歴で知名度の高い范氏を、ハイテク産業従事者が多い同県に投入するのは現状で最善の選択肢といえる。鄭氏以外の党内人材が手薄ななか、市長職を堅守しようとする鄭氏の判断も、現状の政治情勢を鑑みれば合理的だとの見方も出ている。
澎湖県 現職の健康不安と親族の反発 迷走する候補者差し替え計画 離島の澎湖(ほうこ)県でも選対の課題が浮き彫りとなっている。発端は現職の突発的な健康問題だったが、事態は党中央が地方勢力に押し切られるという、体裁の悪い局面へと発展している。
民進党は当初、現職の陳光復(ちん・こうふく)氏を再選に向けて指名していた。しかし、陳氏は2026年初めに転倒して一時昏睡状態に陥り、その回復状況が注目されていた。これを受け、党中央は3月中旬に候補者の差し替えを検討。頼総統自らが馬公(まこう)市長の黄健忠(こう・けんちゅう)氏らと面談して意向を打診した。
しかし、この動きに対し陳氏の家族が猛反発。陳氏のSNSを通じて「最後まで戦い抜く」との声明を発表した。これにより、頼氏による差し替え計画は事実上頓挫し、澎湖県の選挙情勢は不透明なままとなっている。
地元関係者は、「陳氏の容体は依然として不明確であり、完走は楽観視できない。しかし、夫人の呉淑瑾氏が強く固執している」と指摘する。陳氏が重傷を負ったのは「不慮の事故」ではあるが、現段階でも家族が意思を代弁しなければならない状況で、声明通りに選挙戦を戦い抜けるのか、党中央は苦渋の決断を迫られている。
頼政権の試練 揺らぐ権威と停滞する選戦準備 数々の選挙を経験してきたある党スタッフは、蔡英文(さい・えいぶん)前総統が主導していた時期を振り返り、「党主席の意志がこれほどまでに貫徹されず、擁立作業が全面的に難航するのは極めて異例だ」と語る。
現在、主要都市での指名が難航しているだけでなく、地方県市での説得工作も相次いで失敗に終わっている。頼総統自らが出向いても「門前払い」を食らうような状況は、彼の指導力に対する大きな打撃となっている。こうした混乱は、党の選挙準備を大幅に遅らせるだけでなく、党中央の権威を失墜させ、基層の支持者たちに困惑をもたらしている。