呂紹煒コラム:米中関税戦争の勝敗、3つの1兆ドルから読み解く

8年に及ぶ貿易戦争でも中国の輸出と製造業を弱体化できなかった中、今回のトランプ2.0は中国輸出を弱体化できるのか。(AP通信より)
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トランプ2.0の関税戦争が始動。カナダとメキシコには「一時停止」を押したものの、中国に対する10%の関税は継続。米中への影響が注目を集めている。2024年の「3つの1兆ドル」からその様相が見えてくる。

中国の黒字、サービス貿易、米国の赤字 ー 3つの1兆ドル

昨年現れたこの3つの「1兆ドル」の数値は:中国の対外貿易黒字1兆ドル(9,921.55億ドル)、米国の対外貿易赤字1兆ドル(9,842.78億ドル)、そして中国のサービス貿易1兆ドル(1.03兆ドル)である。

まず1つ目の1兆ドルについて。トランプ1.0が中国に対して仕掛けた関税戦争・技術戦争は、表向きは対米貿易黒字の巨額化が理由だったが、本質的なあるいは全体的な目標は中国の輸出・貿易・産業・経済を「叩き潰す」ことにあった。8年が経過し、その成果を検証できる。数字から見る限り、その効果は明らかに乏しい。なぜなら、2024年の中国の対外輸出は引き続き力強い伸びを示しているからだ。

2017年の中国の対外輸出は1.8兆ドルだったが、2024年には3.6兆ドルに増加。世界輸出に占める割合も12.8%から14.5%に上昇し、金額だけでなくシェアも拡大。同時に、貿易黒字も4,225億ドルから「倍増」し約1兆ドルへ達した。この数字から見ると、米国の貿易戦争による抑制にもかかわらず中国の勢いは完全には押さえ込まれていないことがわかる。

関税戦争による赤字削減効果、ゼロ

対米貿易の数字だけを見ても、効果は乏しい。昨年の対米輸出は5,246億ドル、黒字は3,610億ドル。2017年は対米輸出5,056億ドル、黒字3,752億ドルだった。8年間で数字には変動があったものの、全体的に見ると、米国の対中赤字削減は数字上では効果が見られない。

次に米国の1兆ドルの赤字について。トランプが貿易赤字に激怒し関税戦争を仕掛けた際、多くの学者や専門家がその誤りを指摘。米国の貿易赤字には2つの構造的要因がある。1つは米ドルが世界の外貨準備通貨となっていることから生じる「トリフィンのジレンマ」(Triffin dilemma)、もう1つは米国の貯蓄率の低さと消費の高さという要因だ。

数字を見るとより明確だ。2017年の米国の対外貿易赤字は既に8,100億ドルと高額で、その約半分が中国からのものだった。そのため中国に対して貿易戦争を仕掛けたが昨年の赤字は1兆ドルに達した。つまり、赤字削減という政策目標は完全に失敗したことに。その理由は、根本的な問題が構造的なものであり、特定の国の貿易の公平・不公平の問題ではなかったからだ。 (関連記事: 異例の外貨獲得手段!エルサルバドル大統領、トランプに「受刑者収容の支援」提案 関連記事をもっと読む

米国の経済構造 赤字の根本的要因

かつて米国の主な貿易赤字は日本・ドイツ・アジアNIESと言われる韓国・台湾・香港・シンガポールなどからだったが、その後中国に変化。米国はすべての貿易赤字源となる国に対して手を打ってきたが、いかに強く押さえつけても赤字は上昇。トランプ政権最後の年である2020年、米国の対中赤字は2018年と比べて1,080億ドル減少し、一見効果は目覚ましく見えた。しかし、同期間に米国の他の貿易相手国との赤字は1,510億ドル増加。中国を叩いた結果、ベトナムやメキシコなどとの赤字が大幅に増加し、さらに「興味深い」点は、同時期に中国のメキシコやベトナムに対する貿易黒字も大幅に増加したことだ。

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