【寄稿】台湾東部沖はもはや「静かな海」ではない 日比境界交渉が映す第一列島線の再編

2026-06-11 11:56
中国海軍の戦力が増強され、台湾海峡や南シナ海をめぐる競争リスクが高まる中、日本とフィリピンは新たな海上の行動空間と戦略的縦深を模索している。写真は2023年、海上で接近する中国とフィリピンの海警船。(写真/AP通信提供)
中国海軍の戦力が増強され、台湾海峡や南シナ海をめぐる競争リスクが高まる中、日本とフィリピンは新たな海上の行動空間と戦略的縦深を模索している。写真は2023年、海上で接近する中国とフィリピンの海警船。(写真/AP通信提供)

最近、日本とフィリピンが海洋境界をめぐる交渉を始め、その対象海域が台湾東部沖に及ぶ可能性があるとして、台湾内外で関心を集めている。表面上は海洋法や排他的経済水域(EEZ)の画定をめぐる問題に見えるが、現在の東アジアの地政学的構図に照らせば、その意味は単なる法的・技術的な調整を大きく超えている。

台湾外交部(外務省に相当)の説明も、単に「歓迎」や「影響なし」とするものではない。同部は日本とフィリピンに対し、交渉において台湾の権利と領土を尊重するよう求めるとともに、いかなる合意も、台湾が国際法に基づいて享受すべき権益を損なうものであってはならないと強調している。

一方で、中国側の反発は極めて強い。中国外務省は日比間の交渉を「違法かつ無効」と批判し、中国海警局も台湾東側の関連海域で、いわゆる法執行パトロールを実施すると発表した。ロイター通信によれば、台湾側は蘭嶼(台湾南東部の離島)の南東沖で中国艦船の動きを監視しており、中国側はこの問題を主権と海域管轄権に関わる問題として位置づけている。

中国政府にとってこれは、単なる海洋法上の技術的な争いではない。第一列島線の内側と外側をめぐる秩序を、誰がどのように定義するのかという問題でもある。

台湾東部沖が戦略競争の焦点に浮上

より大きな視点から見れば、今回の問題で本当に注目すべきなのは、法的文書の上で誰がどこに線を引くかだけではない。台湾東側の太平洋海域が、東アジアの戦略競争における新たな焦点として浮上しつつあるという点である。

これまで台湾海峡情勢をめぐる議論では、多くの場合、焦点は台湾海峡そのものに置かれてきた。南シナ海問題をめぐっては、バシー海峡やルソン島周辺、南シナ海北部が主な関心の対象だった。

しかし現在、日本とフィリピンが海域交渉を台湾東側へと及ぶ形で進め、中国が直ちに海警局や艦艇レベルで反応したことは、第一列島線をめぐる安全保障構造がすでに変化し始めていることを示している。第一列島線の安全保障は、もはや西側の台湾海峡や南側の南シナ海だけでは語れない。台湾東部沖の太平洋海域も、その延長線上に組み込まれつつある。

背景には、中国海軍と海警局の活動範囲が近年、台湾海峡、東シナ海、南シナ海から西太平洋へと拡大している現実がある。今回の日比交渉が波紋を広げた前後にも、日本の防衛省は、中国空母「遼寧」を中心とする艦隊がフィリピン東方海域で演習を行い、艦載機やヘリコプターの発着が100回以上に達したと発表した。

これは単なる象徴的な活動ではない。中国が第一列島線の外縁、さらにはその外側で、継続的なプレゼンスと演習のリズムを確立しつつあることを意味している。
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日比が求める海上の行動空間

だからこそ、現在の日比両国の動きを、単なる海洋法上の技術的調整として見ることはできない。より深く見れば、中国海軍の能力向上と、台湾海峡および南シナ海をめぐるリスクの高まりを背景に、日本とフィリピンが新たな海上の行動空間と戦略的縦深を模索していることが見えてくる。

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