トランプ氏の関税戦争の次は「マール・ア・ラーゴ協定」か 専門家が警鐘「論理破綻の自滅行為」

2025年5月1日。アメリカ大統領トランプ(Donald Trump)がアラバマ大学の卒業式で演説する。(AP)
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米国のドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスに返り咲いて以来、その予測不能な政策と国際経済秩序を覆そうとする野望は、世界の投資家や政策立案者たちを緊張させ続けている。そうした中、ホワイトハウス経済諮問委員会のスティーブン・ミラン委員長が提唱する「マール・ア・ラーゴ協定(Mar-a-Lago Accord)」が浮上し、一部ではトランプ経済に理性的な指針が生まれるのではと期待されている。しかし、オーストラリアの元外務・貿易省チーフエコノミスト、ジェニー・ゴードン氏は、同計画の背後にある論理は全く成り立たないと厳しく指摘している。

トランプ氏は経済運営で一種の「曲芸」を試みようとしている。すなわち、ドルの基軸通貨としての地位を維持しつつもドル安を実現し、輸出を促進すること。大幅減税で景気を刺激しつつも、米国債の金利上昇は避けたい。他国に関税を課して貿易赤字を縮小させる一方で、海外投資が逃げ出すことは防ぎたい。ミラン氏は、自らの提案する「マール・ア・ラーゴ協定」によって、増税や歳出削減を伴わずに経常赤字と財政赤字を解消できると主張している。

2025年4月16日。ホワイトハウス経済諮問委員会議長スティーブン・ミランがワシントンのホワイトハウスにて。(AP)
2025年4月16日。ホワイトハウス経済諮問委員会議長スティーブン・ミラン氏がワシントンのホワイトハウスにて。(AP)

「マール・ア・ラーゴ協定」は、1985年の「プラザ合意」に似た発想だ。当時、米国はフランス、日本、西ドイツ、英国と協力し、ドル安を進めて米国経済の立て直しを図った。今回、ミラン氏は他国に自国通貨高を受け入れさせ、米国の輸出を後押ししようとしている。協定名は、トランプ氏が所有するフロリダ州の高級リゾート「マール・ア・ラーゴ」に由来し、トランプ氏への忖度もうかがえる。

ワシントンシンクタンク「外交問題評議会(CFR)」の上級研究員、レベッカ・パターソン氏は、「1985年のプラザ合意と違い、トランプ版の協定は国際的な支持を得るのは難しい」と指摘。また、たとえ計画を試みるだけでも、米国経済や金融市場に重大なリスクをもたらす可能性があり、米国債市場の混乱を通じて世界的な金融危機を誘発し、経済成長を妨げる恐れがあると警鐘を鳴らしている。さらに、構造的観点からも、こうした行動は連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を損なう恐れがあると指摘した。

「マール・ア・ラーゴ協定」ミラン氏の5ステップ計画

ホワイトハウス経済諮問委員会のスティーブン・ミラン委員長が2024年11月に発表した報告書に基づく「マール・ア・ラーゴ協定」は、トランプ政権の一部政策にすでに取り入れられている内容を含む。この計画は、外交問題評議会(CFR)のレベッカ・パターソン氏によって整理された5つのステップで構成されている。

第1歩:関税の実施

「マール・ア・ラーゴ協定」では、関税をいきなり課すのではなく、事前に予告し、段階的に税率を引き上げることで、米国企業に準備期間を与え、各国には交渉や免除を求める機会を与えるとされている。現状、これはトランプ氏がまさに実践している内容だ。 (関連記事: 米中関係、貿易戦争から協議へ 中国側「すぐ成果期待せず」カギは首脳会談 関連記事をもっと読む

過去の経験によれば、関税は通常、自国通貨を上昇させ、関税対象国の通貨を下落させる。これは輸入品の価格が上昇し、消費者の購買量が減るためだ。ミラン氏は、外国通貨の下落によって米国の輸入業者はより安価に課税商品を仕入れられ、結果として消費者の支払額は大きく増えないと主張している。ただし、彼も現実が理論通りに進むとは限らないと認めており、それでもインフレリスクを抑えたまま政府歳入を増やせる手段だと見ている。また、トランプ政権が掲げる減税政策による財政赤字は、関税収入で補填される見込みだ。