日本の衆議院選挙が27日に終了し、自民党は15年ぶりに惨敗を喫し、政治同盟の公明党とも過半数を確保できず政治危機に陥った。就任間もない石破茂首相は大きな打撃を受けた。東京大学東洋文化研究所特任研究員の林泉忠氏が「風傳媒」の独占インタビューを受け、今回の選挙は与党‧野党の「一大多小」の構図を揺るがす可能性があり、来年7月の参議院選挙でも不利な結果が続けば、従来の自民党「一党支配」の政治構造が崩壊する恐れがあると語った。
林泉忠氏は東アジアの国際関係研究、特に台湾、琉球、日中関係の専門家として知られる重鎮的研究者だ。アイデンティティと地政学的問題を研究し、中央研究院やハーバード大学など国際的な学術機関で職を務め、琉球大学や台湾大学で国際関係を教授し、東アジアの政治と歴史に深い見識を持つ。
「立憲支持」で大臣ポスト交換か? 交渉カードが鍵
新しい国会を受けて、11月11日に首相指名選挙が行われる中、林氏は日本維新の会や国民民主党などの小政党が特定候補者支持に直面するジレンマについて語った。小政党が立憲民主党を支持すれば閣僚ポストを得られる可能性があるものの、小政党にとって理想的な結果をもたらすとは限らないと指摘。「立憲支持の意味は何か。」首相にはなれず、せいぜい2つの大臣ポストを得るだけ、次の選挙後、すぐに野党に転落するリスクがあるとした。
「私が国民民主党や日本維新の会なら、政策方針が近い自民党支持の立場を利用して最大の利益を追求する。自民党は依然として第一党であり、我々の支持を必要としているからだ」と述べた。今回、自民党と政治同盟の公明党で過半数を確保できなかったことについて、林氏は小政党の支持が交渉カードになると指摘。自民党が交渉過程で重要な小政党を軽視すれば、これらの政党が立憲民主党側に傾く可能性があり、自民党は政権を失う可能性があるという。これが交渉における重要なカードになるそうだ。
政治と金銭スキャンダルの打撃 自民党への政治的信頼度低下
選挙前から「政治と金銭」問題で打撃を受けていた自民党は、公認を得られなかった候補者に2000万円の補助金を提供したとの噂も浮上し、有権者の財務スキャンダルや党内派閥問題への不満が高まった。林氏は、まず注目すべきは有権者の自民党の金権政治への失望であり、特に「派閥キックバック問題」と選挙前の「裏金」騒動の影響で、有権者の政治不信が広がり、これが自民党の選挙情勢に直接打撃を与えたと指摘した。「日本は民主主義国家であり、与党が政権を維持するには有権者の信頼を得なければならない」と述べた。
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林氏は、石破茂が短期間で選挙実施を決めた目的は、国民の信頼を取り戻し、政局を安定させることにあったと指摘した。石破は選挙初期の世論調査で自公連立が過半数を獲得できる可能性があると予測し、これが選挙を急いだ理由の一つだった。しかし、選挙前の1週間で有権者の態度に不確実性が現れ、支持率低下の兆候が顕著になり、最終的に連立与党の過半数割れという結果になったという。「選挙は終わっていなかったものの、選挙直前の世論調査で連立与党の過半数確保の可能性が極めて低いことが示され、この逆風で自民党は優位性を失った」と述べた。
石破茂は選挙情勢を十分に計算せず
NHKが開票当日夜に自民党の過半数割れを予測したが、実際には開票開始時点で、メディアは既に過半数割れを予想していたと林氏は指摘。石破の決断は責任感からだけでなく、選挙情勢の綿密な計算が不足していた。自民党総裁として連立与党の安定を確保し、自民党政権を維持する必要があったからだ。しかし、「派閥キックバック問題」などの金権政治問題が投票日まで自民党を苦しめ、石破と自民党は有権者の前で脆弱に見えた。本人は直接関与していなくとも、総裁としての責任を負わねばならなかった。
林氏は今回の選挙結果を、2012年の野田佳彦民主党党首・首相時代の決断と比較。民主党が苦境に陥っていた時期に野田が総選挙を実施し、結果として民主党が惨敗して政権を失ったことと、今回の石破の判断は類似の批判に直面している。「当時の野田は選挙を通じて国民の政権評価を問い、判断を仰ごうとした」と林教授は述べた。しかし、野田は極めて不利な情勢下で選挙を実施し、最終的に党内からの批判を浴び、政権を失う結果となった。
惨敗は石破首相の予想超える 専門家:選挙中期に世論の風向き変化
石破首相は自民党支持率が低迷する中で選挙を告示したと林氏が指摘。一部には情勢が安定するまで待つべきとの声もあったが、石破氏は国民の信を問い、党内での影響力を再構築する選択をした。大選挙を通じて党内での立場を立て直し、その後に独自の政策を推進する意図があったという。しかし、選挙中期に入ると世論の風向きが変わり、自民党は惨敗を喫する結果となった。この結末は明らかに石破氏の予想を超えるものだった。
林氏は、生活経済の圧迫と金権政治問題が自民党の過半数割れの主因となったと指摘した。今回の選挙が「55年体制」以降の自民党一党支配体制が揺らぎ始める起点となる可能性を強調した。コロナ後のグローバルな物価高騰は、米国ほどではないものの、日本の物価安定を揺るがし、国民生活に圧力をかけた。同時に、自民党の「派閥キックバック問題」という金権政治問題が有権者の不満を増大させた。林氏は、国民が生活苦に直面する中、自民党が経済問題への対応を優先せず、党紀違反のスキャンダルを露呈させたことが、政権のイメージを一層低下させ、「国民が苦しんでいるのに、金集めに走っている」との印象を与えたと分析した。
自民党「一党支配」に試練
立憲民主党は今回の選挙で大勝し、議席を大幅に増やし、自民党への強力な対抗勢力となった。今後、立憲民主党が野党小党との連携を強化できれば、自民党は国会運営でさらなる制約を受けることになる。特に、論争的な法案や憲法改正などの課題で一層の困難に直面すると予想された。林氏は、野党勢力の拡大により、石破氏が11月の首相指名選挙で続投できたとしても、その政権基盤は脆弱で、政策実行の柔軟性も制限されると分析。
憲法改正への意欲後退 自民党に試練
憲法改正について林氏は、自民党が過去に公明党との連携で国会の絶対多数を確保し、平和憲法第9条改正による自衛隊の法的地位確立を目指してきたが、今回3分の2以上の議席を失ったことで、単独での改憲推進が困難になったと強調。「今回の選挙後、自民党の改憲推進力は大きく低下し、実現へのハードルは著しく高まった」と指摘。菅前首相が言及を避け、岸田前首相がわずかに触れる程度だったことも例に挙げた。
さらに林氏は、石破氏の「アジア版NATO」構想と日本の憲法改正における矛盾にも言及。第9条第2項が国際武力紛争への参加を制限する中、日本はNATOのようなアジアでの集団安全保障同盟を形成できないという。「地政学的圧力が増大する中でも、平和憲法第9条が存続する限り、日本はアジア地域の同盟防衛体制に効果的に参加できない」と述べた。現在の選挙結果を受け、石破氏にとって最優先課題は政権基盤の安定化であり、他の政策は二次的な問題となった。
同時に林氏は、今回の選挙が日本の「一党支配」体制の段階的な崩壊を示唆していると分析。今後、自民党が国民の信頼を効果的に回復できなければ、さらなる変革と課題に直面する可能性があるという。総じて、今回の選挙は日本の将来の政治方向、憲法改正問題、国際政策に歴史的な影響を及ぼすものとなった。