トランプ氏の関税戦争により、各国が緊張を強いられる中、一企業と国益の結びつきの強さという点で、台湾とTSMCの関係に勝るものはない。トランプ氏が100%の関税を課し、CHIPSアクトの補助金を打ち切る可能性に対し、TSMCはいかなる対応能力を有しているのか。
2月12日、TSMCの取締役会が初めて米国で開催され、台湾経済部の江文若次長は取締役会に先立ってワシントンDCに到着し、台湾の経済安全保障におけるTSMCの重要な地位が浮き彫りとなった。
「まず、米国のトランプ大統領が関税効果を通じて何を達成しようとしているのかを明確にする必要がある」と台湾経済研究院産業経済データベース総監の劉佩真氏は『風傳媒』のインタビューで述べた。「トランプ氏の目的は、台湾の半導体サプライチェーンを大規模に米国に移転させることであり、特に先端プロセスで高い競争力を持つTSMCに焦点を当てている。米国は成熟プロセス以外のIC製造業者が比較的不足しているためだ」
TSMCは北米顧客に関税コストを転嫁する能力を有する
劉氏によると、TSMCは10ナノメートル、7ナノメートル以下で世界シェア69%、78%を占め、3ナノメートルのAIや高性能コンピューティング分野でもほぼ独占状態にある。TSMCの先端プロセスにおける強力な競争相手とされるサムスン電子とインテルは、いずれも経営困難に陥っている。サムスンはメモリ製品のHBMでSK Hynixに追い抜かれ、NVIDIAの認証も得られず、ファウンドリ事業における3ナノメートルプロセス、さらには第2世代3ナノメートルプロセスの歩留まり向上も進んでいない。
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インテルの状況について、劉氏は20A計画の中止後、TSMCのN3Pに相当する18Aが今年量産できるかどうかは不透明だと指摘する。
劉氏は、TSMCが現在世界の先端プロセスで独占的地位にあることから、委託製造価格でより大きな交渉力を持っており、さらに近年日本やドイツにも生産拠点を持ち、生産能力を随時調整できると考えている。「将来トランプ氏がTSMCなど台湾のチップメーカーに100%の関税を課した場合、TSMCは最もコスト上昇分を価格に転嫁する能力を持つことになる。この時、圧力を受けるのはTSMCの売上の6割以上を占める北米の顧客となる。TSMCの先端プロセスによって実現される優れた性能は、北米の大手顧客が他のファウンドリーに転注することを困難にする要因となるためだ」
劉氏は、サムスンとインテルの経営の不確実性、先端プロセスの歩留まりの問題、顧客との競合関係により、北米のエンドユーザーはこれらが自社製品の競争力に影響を与えるリスクを負うことができず、これが北米のIDMやファブレスメーカーがトランプ氏の台湾半導体業界への関税賦課に対して支払わなければならない代価となると指摘する。 (関連記事: 台湾TSMCが消防士をヘッドハント! 年収2倍を目指し転職:「プレッシャーもあるがやりがい大」 | 関連記事をもっと読む )
これまでバイデン政府が推進してきたCHIPSアクトの527億ドルの補助金が予定通り全額支給されるかについて、劉氏は継続的な観察が必要だとしている。TSMCはアリゾナ州に3つの工場を建設し、第1工場は2024年末から2025年1月に4ナノメートルプロセスで量産を開始、2028年の第2工場、2030年の第3工場でそれぞれ3/2ナノメートル、2ナノメートル以下のプロセスを導入する予定である。また、TSMCは米国の大手後工程メーカーAmkorと協力して現地で先進パッケージングとテストサービスを拡大し、米国製造政策に呼応している。TSMCの米国での3工場への投資に対して、CHIPSアクトから66億ドルの補助金が提供される予定である。