前・民衆党主席で前・台北市長の柯文哲が2024年12月26日に台北地検により汚職など4つの罪で起訴され、28年6カ月の求刑を受けた翌日、賴清徳の側近である法務部長の鄭銘謙は人事権を行使し、7名の地方検察庁検察長を交代させた。検察界に大きな異動の波が起き、「鄭銘謙時代」の到来を正式に告げることとなった。
鄭銘謙は2024年5月20日に就任後、第一審・第二審の検察長人事を行い、最初の異動は2024年6月20日の台南高検検察長・黄玉垣と台北地検検察長・王俊力の人事で小規模のものだった。しかし、続く2回目の異動となる2024年12月27日の人事は大規模なものとなった。全国22人の第一審検察長のうち、4名が任期満了を迎え、鄭銘謙はさらに3名の第一審検察長を降ろし、計7名の第一審検察長を新たに任命。これは全体の3分の1の陣容を入れ替えたことになる。
鄭銘謙(前列右から3人目)は、賴清徳総統(前列右から4人目)が指名し重用する法務部長だ。写真は法務部調査局調査班第61期の修了式の様子。最高検察庁検察総長の邢泰釗(左から2人目)、賴清徳総統、鄭銘謙法務部長、調査局長の陳白立(右から2人目)が出席。(蔡親傑撮影検察界に大異動 鄭銘謙時代の到来
なぜ鄭銘謙のこの検察長人事異動が注目を集めているのか。検察官は司法警察を指揮して捜査を主導する存在であり、第一審検察長は最も現場に近い捜査のリーダーである。誰を起用するかは、まさに鄭銘謙が総統・賴清徳の汚職撲滅、暴力団対策、詐欺対策への決意をどう実行するかを示すものとなる。
2024年末の検察長人事異動では、鄭銘謙は法務部検察司司長の郭永発(司法官第33期)、法律司副司長の林映姿(第37期)、謝名冠(第34期)、蕭方舟(第38期)、王以文(第38期)、王柏敦(第40期)、林彥良(第40期)の7名を選出。このうち郭永発は以前に雲林・新竹・台中地検の検察長を務めており、今回は法務部の行政系統から検察系統に戻る形となる。また林映姿ら6名は検察長として初めての起用となる。
法務部長の鄭銘謙による検察長人事異動は、各方面から高い注目を集めている。(柯承惠撮影)蔡清祥の側近・顏迺偉、1年8カ月で交代
関係者によると、検察長の任期は1期4年で、任期中に特に問題なく違法行為もない場合、通常はさらに2年延長可能だそうだ。今回退任した余麗貞・俞秀端・洪信旭・張曉雯の4人の検察長は全員6年任期を全うした。交代となった3人の検察長のうち、連江地検検察長の謝謂誠は賭博王から百万台湾ドル相当の普洱茶を受け取った疑惑で降格となった。だが、士林地検検察長の顏迺偉は4年任期のうちわずか1年8カ月の在任で交代となり、多くの検察官が顏迺偉に一体何があったのかと疑問を抱いている。
前法務部長の蔡清祥(中央)は側近の顏迺偉(右)を士林地検検察長に起用したが、異例の短さとなる1年8カ月で更迭された。(資料写真、蔡親傑撮影)林姿妙事件で確執、鄭銘謙と李嘉明は不仲の関係に
今回、鄭銘謙により更迭された検察長の李嘉明(司法官第33期)は、基隆地検に着任する前、澎湖、宜蘭地検の検察長を歴任。主任検察官時代に基隆市長の許財利を、宜蘭地検検察長時代には宜蘭県長の林姿妙の汚職事件を手がけ、検察界では「市長キラー」の異名をとった。検察官、主任検察官時代を通じ、大小様々な汚職・経済重大犯罪を担当してきた実績を持つ。今回、4年の任期を待たずして更迭されたことに、多くの検察官が驚きを隠せないでいる。
『風傳媒』の調査によると、李嘉明は捜査の名手として知られるが、宜蘭県長林姿妙の汚職事件捜査において、当時の廉政署長だった鄭銘謙と捜査手法・進め方を巡って対立していた。検察と廉政署が林姿妙らの摘発を計画した際、宜蘭地検は県長以下の関係官僚を一網打尽にする方針を打ち出したのに対し、廉政署は県府の官僚から着手して基礎を固めてから県長に及ぶべきとの立場をとった。検察が捜査主体であることから、意見の相違はあったものの、最終的には検察の判断が優先された。
しかし、摘発時にも問題が発生した。検察の指揮下で廉政官が県長邸を捜索した際、重要な手がかりとなる金庫の所在地を示す証拠を発見したにもかかわらず、捜索を継続せず検察への報告も怠った。検察がこの事実を知ったのは2日後で、再捜索を実施したものの、既に時機を逸しており、決定的な証拠の発見には至らなかった。検察が廉政官に追及を怠った理由を問いただすと、人員不足を理由に挙げ、検察側は返す言葉もなかった。
実は、今回の検察長人事異動の前から、検察界では李嘉明が鄭銘謙により更迭されるとの噂が流れており、その背景には林姿妙汚職事件での確執があるとされている。検察と廉政署の関係において、検察が捜査主体で廉政署は司法警察という立場にあり、鄭銘謙は検察官であっても廉政署では司法警察として検察の指揮に従う立場にあった。しかし、官界の人事は予測不能で、李嘉明にとって、鄭銘謙が廉政署長から法務部長へと昇進し、検察長人事の実権を握ることになるとは、まさに想定外の展開となった。
李嘉明(右)は捜査の名手として知られるが、宜蘭県長・林姿妙の汚職事件を担当した際、当時の廉政署長だった鄭銘謙と捜査方針を巡って対立。(資料写真、蔡親傑撮影)鄭銘謙による顏・李2名の交代に、総長の邢泰釗が異議
現場の検察官たちは、部長の鄭銘謙がなぜ顏迺偉と李嘉明を交代させたか理解に苦しんでおり、検察のピラミッド頂点に立つ検察総長の邢泰釗も困惑を示す。邢泰釗は2024年12月27日の法務部検察官人事審議委員会で検察長の異動リストを知らされた後、異例の発言を行った。関係者によると、邢泰釗は会議の議長を務める法務部政務次長の徐錫祥と検察審査委員に対し、顏迺偉・李嘉明両検察長に不適切な点は見当たらないとして、部長に理由の説明を求めたという。
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一部の検察官は、検察長は法務部長が任命するものの、これらの検察長は検察の一体性に基づき検察総長の指揮下にあるため、検察総長の邢泰釗は部長に意見表明の権利があると指摘。『風傳媒』の調査によると、鄭銘謙が台南地検・金門高検・台北地検の検察長を務めていた時、邢泰釗は鄭銘謙の上司であり、鄭銘謙の事件処理について邢泰釗から指摘を受けることもあった。例えば、鄭銘謙が北検で高虹安事件を扱った際も、結審時には総長の邢泰釗に報告し、総長の意見を聞く必要があった。2024年の総統選挙時には、北検の買収捜査の成果が芳しくない場合、時折総長から注意の電話が入ることも。
検察総長の邢泰釗(写真)は、鄭銘謙による顏迺偉、李嘉明両検察長の更迭について、その理由に疑問を呈している。(資料写真、柯承惠撮影)邢泰釗の説明要求は冷遇 賴政権の実力者vs検察界の古参の対立に火花
関係者によると、検察審査会で総長の邢泰釗が検察長異動リストについて説明を求めた後、政務次長の徐錫祥は部長の鄭銘謙に伝えると述べた。だが、2024年末から現在に至るまで、鄭銘謙は顏迺偉と李嘉明の交代理由について対外的な説明を行っていない。検察幹部は、蔡清祥部長時代は検察人事の異動について、自ら又は政務次長を通じ検察審査会に説明を行っていたと指摘。鄭銘謙には独自の行動様式があり、他の部長とは異なるという。
法務部長・鄭銘謙と検察総長・邢泰釗が中興大学法律系の同級生だということは外部でも知られているが、二人が同じ寮室のルームメイトだったことはあまり知られていない。学生時代に二人が膝を突き合わせ語り合い、それぞれの抱負を語り合ったかどうかは分からない。しかし現在、一方は法務部長、もう一方は検察総長という立場で、明らかにいくつかの事項について意見を異にしている。鄭銘謙は総統・賴清徳の目の届くところで重用されているが、邢泰釗は検察界の古参である。二人の対立は両者の対立は表面化こそしていないものの、水面下では緊張関係が高まっている。