台湾総統の賴清徳氏が「17条」を打ち出した後、「小漢光」演習、日本の元自衛隊統合幕僚長・岩崎茂氏の行政院顧問就任、さらに志願役への給与引き上げなど、一連の軍事的動きが続いています。これらの動きに対し、米メディアの『ワシントン・ポスト』や『ニューヨーク・タイムズ』は賴清徳が「リスクの高い一手」を出ていると見抜いています。それは北京に対する挑戦という政治的な計算―米中台関係の微妙なバランスを変えようとするものです。その動機は、米国のトランプ大統領陣営からの支持を得ることにあると分析されています。
準戦争態勢を示し、大局を描いて主導権を握る
賴清徳氏が演説を行ったタイミングは巧妙で、中国の「反分裂国家法」公布20周年の前日に国家安全会議を開催し、中国を「域外の敵対勢力」と位置づけ、軍事裁判の復活や中国籍の配偶者であるインフルエンサーの追放などが含まれる「17カ条」を発表しました。その後、3月17日から21日にかけて「即時準備態勢演習」(「小漢光」とも呼ばれる)を実施するなど一連の軍事行動を展開し、対外的に準戦時態勢を示しました。このことから、賴清徳政権は明らかに「準備万端」であることがわかります。
このパターンは「既視感」があります。前総統の蔡英文は再選時の選挙戦のウォーミングアップとして、意図的に中国国家主席習近平の「台湾同胞への手紙」に挑戦しました。習近平が「一国二制度の台湾方案」を提案して世論を沸騰させると、蔡英文は複数の記者会見を開いて迅速に議題を盛り上げ、当選の基盤を築きました。そして今、石破茂首相が日本の護衛艦「あきづき」の台湾海峡通過を承認し、元自衛隊統合幕僚長・岩崎茂氏が行政院顧問に就任し、国軍が志願役の勤務手当を増額するなど、すべては事前に準備されたシナリオの一部と考えられます。
日本前自衛隊統合幕僚長岩﨑茂が行政院顧問に任命され、3月21日に来台した際、『風傳媒』の単独インタビューに応じた。(王秋燕撮影)
「賴17条」が発表されると、台湾メディアの多くは、賴清徳のこの動きが「大規模リコール運動」の勢いを増すためとだと解釈しました。一方、海外メディアは米中台関係の視点から、賴清徳氏が長期にわたり準備していた「先手を打つ」策略を明らかにしています。
米国のタカ派にアピール、北京は軽率な行動に出ないと賭ける
『ワシントン・ポスト』は最近、「台湾、中国の脅威が増大と警告 一部はトランプ支持の獲得を狙う」と題する特集記事を掲載しました。記事では、最近の頼清徳総統の公開の場での発言において、「中国大陸」や「北京当局」ではなく、あえて「中国」という言葉を用いていることに注目し、これはレッドラインを探る意図があると分析しています。記事では、「ユーラシア・グループ」の中国部長シャオ・イェンラン氏の言葉を引用し、頼清徳氏がトランプ政権下の対中タカ派に向けてメッセージを発信し、自身および民進党へのより強い支持を得ようとしているとの指摘が紹介されました。
『ニューヨーク・タイムズ』は今月23日の記事「頼清徳はなぜ今、北京に対し強硬な姿勢を示すのか」の中で、「頼清徳総統は、北京がトランプ政権との緊張を抑えたいと考えていることから、台湾への報復的行動を控えると判断している可能性がある」と述べています。米ワシントンのシンクタンク「ブルッキングス研究所」のライアン・ハス(Ryan Hass)氏は、頼清徳氏の最近の対中タカ派的な姿勢は、主に政治的な主導権を取り戻し、反対勢力を劣勢に追いやるためであると分析しています。記事ではさらに、頼清徳氏がこのタイミングで「統一拒否17条」を打ち出した背景には、習近平国家主席とトランプ前大統領の首脳会談が行われる前のタイミングであれば、北京は軽率な行動に出ないとの判断があり、その隙を突いて危険を冒す決断をしたのだと指摘されています。
総統賴清德が「賴17条」を発表した後、国軍は3月17日から21日まで「即時動員演習」(別称「小漢光」)を実施し、対外的に準戦時態勢を示した。(国防部提供)
「頼氏への疑念」高まる中、中国軍が「火遊びに警告」
『ワシントン・ポスト』と『ニューヨーク・タイムズ』の両紙は、「頼17条」が米中関係において持つ政治的リスクについて詳しく分析しており、その背後には明確な政治的意図があると見ています。これは従来の報道とは一線を画すものであり、アメリカ側の「頼清徳に対する疑念(疑賴論)」が高まりつつある兆候を示すと同時に、警戒感も抱かれていることを物語っています。一方、台湾の国家安全当局関係者らは、「疑賴論」は認知戦の一環に過ぎないと主張し、火消しに努めていますが、それはまさに「耳を塞いで鐘を鳴らす」ようなものに過ぎません。実際には、「疑賴論」は沈静化するどころか、むしろ「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again, MAGA)」の潮流から直接的な挑戦を受ける形となっています。
しかし、頼清徳氏にとって予想外だったのは、中国側の軍事的対応が表立って強硬ではなかったことです。人民解放軍は相当規模の戦力を投入しましたが、今回の演習を「聯合利剣−2025A」とは明言せず、単に「戦備警巡」と称するにとどめました。中国共産党は台湾に対し、表面的には特段の軍事的圧力を見せていないように装いつつも、大量の軍用機や艦艇を台湾周辺に派遣し、頼清徳氏の「火遊び」に警告を発しています。
トランプ氏が再び政界に復帰して以降、外交的な攻勢を次々と展開しており、ガザ地区やロシア・ウクライナ戦争における停戦交渉から、カナダ、パナマ、ノルウェーなど諸外国への圧力まで、その「取引の芸術」は存分に発揮されています。しかし、最も重要な米中問題に関しては、水面下で静かに進められているような状態が続いています。かつて陳水扁氏はアメリカ側から「トラブルメーカー」と見なされていましたが、現在の頼清徳氏は、まさにその「トラブルメーカー2.0」になろうとしているように見えます。しかし、大国間の駆け引きに注力しているトランプ氏や習近平国家主席にとっては、頼清德氏による「レッドラインの試験」は、さほど重大な問題として受け止められていないのが実情です。
中国系配偶者の亞亞(劉振亜氏)が25日夜に出国、空港で「清く正しく去り、堂々と台湾に戻ることを期待する」と述べた。(張鈞凱撮影)
空虚な虚勢で持続的な平和は得られるのか?
頼清徳総統はこれまで常にロナルド・レーガン(Ronald Reagan)元米大統領の「力による平和(Peace through Strength)」という名言を引用してきたが、肝心の実力と胆力には欠けています。「実力による平和論」は本来の趣旨から逸脱し、外交的な虚勢や体裁を整えるだけの政治的レトリックに堕しており、持続的な平和を実現する手段とはなり得ることはできません。一方で、ドナルド・トランプ氏は「ビッグ・ディール(大取引)」によって台湾海峡の衝突を回避しようとしており、台湾海峡の平和と台湾の安全保障問題を完全に回避し、具体的な約束や保証も一切拒んでいます。
現在、「反中・親台」の立場を掲げる米国国務長官候補マルコ・ルビオ(Marco Rubio)氏は、アメリカの外交政策においてほぼ周縁的な存在となっています。トランプ2.0時代に入り、トランプ派のスティーブ・デインズ(Steve Daines)上院議員が北京に派遣され、「習トランプ会談(川習会)」の下準備を行い、中国共産党から高い待遇を受けた事実は、現在デインズ氏がどれほど重視されているかを物語っています。一方で、アメリカ在台協会(AIT)のサンドラ・オウドカーク(谷立言)台北事務所長は、例によって「台米関係は岩のように堅固である」といった決まり文句を繰り返すばかりです。
米メディアは、頼清徳氏の手の内をすでに見抜いており、それはまさに「危険な賭け」であると分析しています。内政面ではリコール運動を仕掛け、外交面では中国共産党のレッドラインを試しています。頑固で強情な性格ゆえに、一度決めた道を突き進もうとする姿勢が、やがて「虚構が現実となる」――まさに「自己実現的予言」に陥る可能性があることに、十分な警戒が必要である。