トランプ米大統領による関税戦争は収まらず、さらに為替戦争が勃発し、東アジアの「親米」構造は静かに変わりつつある。心理的に台湾に最も近いとされる日本では、石破茂政権が中国にならって「屈しない」姿勢を打ち出し、トランプの関税政策を公然と批判。さらに「日本は重大な譲歩をするつもりはない」「国家利益を犠牲にしてまで米国との関税交渉を終わらせることはない」と強硬な態度を示した。同時に、日本の対中関係改善の動きは過去に例を見ないほど積極的である。
日本要人が相次ぎ北京訪問、民進党はいまだ安倍晋三頼み?
自民党と連立を組む公明党の斉藤鉄夫代表は4月21日、石破茂から中国指導部宛ての親書を受け取り、翌22日に訪中。自民党の森山裕幹事長は27日から29日にかけて訪中し、中国高官と関税戦争対策を協議、日中首脳の早期相互訪問の実現を目指した。公明党前代表の山口那津男と石井啓一は28日に訪中し、中国共産党中央政治局委員で天津市委書記の陳敏爾や党中央対外連絡部長の劉建超と会談した。
このように日中関係が熱を帯び、「対米連携」態勢が形成されつつある中、台湾外交部は「安倍晋三の後継者」とされる日本の衆議院議員・高市早苗が27日から29日まで台湾を訪問すると発表した。高市は28日、矢板明夫氏主催のインド太平洋戦略シンクタンク「2025国際政経フォーラム」で講演し、日・台・欧・豪・印など自由民主主義諸国による「準軍事同盟」の構築を提唱した。外交部長の林佳龍は同日、高市一行との会食で「非レッドサプライチェーン」の強靭化への期待を表明。頼清徳総統も高市訪問団を接見し、台日で「非レッドサプライチェーン」を共に構築したいと語った。
滞在中、高市は高雄での安倍晋三記念公園除幕式に出席し、「日台友好」に尽力する姿勢を強調した。さらに、同じ安倍派の衆議院議員で元経済産業相の西村康稔も直後に訪台し、5月5日に頼清徳総統と会談。両者は口を揃えて安倍晋三の名言「台湾有事は日本有事」を引用し、西村はさらに「台湾有事は世界有事だ」と拡大解釈を示した。
4月29日、中国大陸全国人大常務委員会委員長趙楽際(右)は北京で日本日中友好議員連盟会長、自民党幹事長の森山裕(左)と会見。(新華社)石破茂、「台湾有事論」に疑問 高市早苗は右翼色鮮明
現在、日本には二つの明確な路線が見て取れる。政権を握る石破茂と自公連立政権は、要人が次々と北京を訪問。一方、自民党内の安倍派は台湾に足を運び、安倍晋三の遺産を引き継ぐ姿勢を見せる。この二つの路線は、まるで並行世界のように、全く異なる世界観を形成している。
日中関係や歴史問題に関して、このメディア関係者は「高市早苗は依然として伝統的な右派の『反中』立場を堅持している」と指摘。現在、石破政権の支持率は決して高くないが、高市早苗の人気も安定しておらず、浮き沈みが激しい。7月に予定されている参議院選挙では、自民党にとって厳しい戦いになると見られ、高市は石破と総裁の座を競う有力候補の一人だ。
このメディア関係者は、「そうした状況下で台湾側が高市早苗を大々的に招いたことは、政治的に石破茂に対抗する意味合いが強い」と指摘。特に石破は首相就任前の2024年8月、「日本の安全保障を考える議員の会」を率いて訪台した際、「『台湾有事は日本有事』という状況を回避することに注力すべき」と強調していた。帰国後のテレビ番組のインタビューでも、ロシア・ウクライナ戦争を引き合いに「『有事』(戦争)について語るのであれば、アメリカが介入しないと表明したことで、ウクライナがロシアに対して抑止力を行使できなくなったという点から議論を始めるべきだ」と明言した。こうした石破の発言は、安倍派の「台湾有事」論に冷や水を浴びせるものだったと言えるだろう。
日本首相石破茂(左)は2024年に訪台し、8月13日に頼清徳総統と会見し、「今日はウクライナ、明日は東アジアになるかもしれない」、急務は今日のウクライナが明日の東アジアになるのを防ぐことであると発言した。(総統府提供)高市早苗、「賞味期限切れ」派閥の力は民意を代表せず
「彼女が今の日本の政界でどれだけ影響力を持ち続けられるかは、正直なところ評価が難しいです。知人の言葉を借りるなら、『高市の賞味期限はもう切れている』といったところでしょう。台湾は賞味期限切れの食品を食べ過ぎているのではないでしょうか」と語った。
昨年(2024年)の自民党総裁選では、高市早苗が一時は台風の目となり「ダークホース」と目された。その背景について、情報筋は「一つは彼女が女性であること、もう一つは石破茂の民意基盤の方がまだしっかりしていることにある」と分析する。
「石破茂の派閥の力は高市には及びませんが、そもそも派閥の力が庶民の考えを反映しているわけではありません」と話す。
またこの情報筋は、石破茂の現在の世論調査について「非常に興味深い」と指摘する。支持率は2割前後にとどまっているが、辞任を求める声は3割程度に過ぎないという。
「つまり、6割以上の国民は『辞める必要はない』と見ているということです。これは石破茂の発言スタイルや行動様式に関係しています。一見すると強硬ではなく、むしろ曖昧さもあるのですが、対米交渉においてはトランプに『本心が読めない』という印象を与えているのです」と語った。
2025年2月7日、アメリカ大統領トランプ氏と日本首相石破茂がホワイトハウスにて。(AP通信)高市早苗への期待が異常に高い?台湾・与党の対日関係は「誤ったボタンを押している」か
この情報筋は率直に語る。「もちろん、亡くなった人を悪く言うものではありませんが、安倍晋三には生前から多くの問題がありました」。日本のベテランメディア関係者も同様の見解を示し、「台湾は安倍を『甘やかしすぎた』と思います。しかし実際はそうではなく、統一教会の問題などを含め、日本国民の間では安倍への疑問は少なくなかった」と話す。
両者は一致してこう指摘する。現在、民進党や台湾与党が高市早苗に抱く期待は「異常に高い」といえるが、それは一種の「エコーチェンバー(同温層)」内で形成された日本観である。「台湾で日本を語る権力は一部の人間に独占されており、それが必ずしも正しいとは限らないし、現実に即しているとも限らない」。消息筋はさらに具体例を挙げた。彼は最近、日本の政財界の非公開会議で、ある国会議員のスタッフから、台湾側が以前大々的に宣伝した元自衛隊統合幕僚長・岩崎茂の行政院顧問就任について、実際には石破政権側の多くの高官が「蚊帳の外」だったと聞かされたという。
台湾側が高市早苗らを通じて「台湾有事は日本有事」という安倍晋三時代の幻想を引き継ごうとする姿勢は、前副総統の陳建仁がローマ教皇フランシスコの葬儀に出席した際の光景を思い起こさせる。当時、米国の現職大統領はトランプであったにもかかわらず、台湾側は国内向けに前大統領のバイデンとのツーショットを誇示した。
台北フォーラムの蘇起理事長は最近のシンポジウムで、「賴清德政権の国家安全保障チームは完全に『誤ったボタンを押している』、いまだに米国民主党との人脈ばかりを探し、トランプ側への接触ルートを持たない」と批判した。この蘇起氏の言葉を日台関係に当てはめれば、同じような「誤ったボタン」の問題があるのではないか。安倍派との関係に過度に依存する一方で、今の執権者が誰かを見失い、地政学的な風向きの変化を見落としているのだ。